第27話 切り拓かれる道

 エトピリカはガンガンと頭を床に打ち付けた。何も思い浮かばない自分の頭を呪った。

 なぜすぐに奴らの後を追いかけようとしなかったのかを悔やんだ。

 頼れるテッドがこの世にいないことを悲しんだ。

 ない、ない。何もない。自分には何もない。力も知恵も頼れる人も、運さえも。

 わかりきっていたことを痛感する。

「そうだ。どこにもないんだ。町中には母船を停泊させられない。そんなことをすると目立つ。街の外に船を置くしかない」

 エトピリカは顔を上げた。現実的に考えていき、消去法で突き詰めていくしかない。

 街の外から目立たぬようにやってきたのだ。車で地上を走ってきたのかもしれない。そこなら軍の監視も緩いだろう。まさかエアバイクで襲撃するような奴らが地べたをやってくるとは考えにくいからだ。

 街の外で人気のいない方角。…以前メイデンと行った温泉のある方角。そちらは山や森ばかりで人里はない。

 母船を隠すにはうってつけだ。

 エトピリカは走り出していた。地理にはエトピリカのほうが精通している。もしかしたら追いつく事ができるかもしれない。

 エトピリカが町中を駆けていくと、軍人達が慌ただしく通り過ぎていった。どうやら駐屯地へ向かっているようだった。

 もしかしたら宇宙海賊を探しているのかも知れない。だが、彼らの様子を見る限り、緊急事態でも何でもない。平時のままなら見つけ出せてはいないだろう。

 エトピリカが街中を駆けていく最中、路肩にエアバイクが停まっているいるのを見かけた。鍵は刺さったままだ。

「すみません!」

 エトピリカはそう言うとエアバイクに跨った。以前修理した事があり、運転もその時覚えた。 

 エトピリカはあっという間にエンジンを掛け、空に飛び上がった。

「ど、どろぼー!」

 少し離れた所にいたエアバイクの持ち主と思われる男が叫んだ時には、エトピリカはビルとビルの間を飛び抜けていっていた。

 高層ビルの森。乱立する構造物。少年は間を縫うようにエアバイクを走らせた。

 更に高き所には超大型ドローンによる空中都市がある。そこまで行くと空中都市の警備隊に撃墜される恐れがあるので、ビル群を避けながら飛ぶしかない。

 目指す方角はかつて温泉に向かった方角。

 街の一角を抜ければ、あとはしばらく森や荒野が続く。

 …遥か先を見渡すと、荒野を一台のトラックが地上を走っている。

 あちら側には何も無い。向かうトラックもないはずだった。

 直感的に探している連中だと考えた。ならば、後を追いかける他にない。

 エトピリカはエアバイクを地上付近を走らせるように飛ばした。

 地上の荒れ地よりは空を行くエアバイクのほうが早い。すぐに追いつけるだろう。

 だが、トラックは森の中へ入っていく。

 エトピリカは急いだ。森の中で見失うかも知れない。

 エトピリカも数分遅れて。森へ突っ込んだ。

 そこにあったのは、一隻の宇宙船。森の中で偽装している。間違いない。宇宙海賊の船だ。

 エトピリカは悩んだ。正面から向かっても潜入してもうまく行く気がしない。

 …彼らは話が通じないわけではない。ならば交渉するのが良いかもしれない。

 正面から乗り込もう、そう考えていた時に、

「動くな!」

 と、エトピリカは背後から銃を突きつけられた。見張りの男だった。

 エトピリカは慌てて両手を上げた。

「…子供? なぜこんな所に?」

 見張りが用心深く近づいてくる。

「メイデンを…返してもらいに来ました」

 エトピリカは正直に答えることにした。このあとの交渉に響くわけには行かない。

「メイデン? 何だそれは。俺達を誰だと思って近づいた?」

「軍用機を襲った宇宙海賊」

 エトピリカの言葉に、見張りの男が色めき立った。

「お前を返すわけには行かないな! 一応マムに処遇を尋ねるとしよう。おい、歩け!」

 エトピリカは銃を突きつけられ歩かされた。宇宙船の出入り口が降りてくる。エトピリカはされるがままに中に入った。


 宇宙船は使い込まれたものだった。それでも手入れは行き届いている。技術も乗っているのだろう。

 エトピリカは逃走経路を覚えておこうと必死になって内部を観察した。

 やがて艦橋に辿り着く。

 そこにいたのは宇宙海賊の頭である老婆だった。

「なんだい、あんた。ここまで後をつけてきたってのかい。ここを知られると、おとなしく返すわけには行かないねぇ」

 老婆は凄んだ。彼らは決して善人ではないのだ。

「…メイデンを連れて行かないでください」

 エトピリカは望んでいたことだけを告げた。

「そんなにあのアンドロイドが大事かい。だがね、ここまで来たらあんたを返すわけには行かなくなったよ」

 老婆は軍に自分たちの居場所をタレこまれるのを恐れていた。

 エトピリカは考える。最良の選択を。やがて…

「僕も、僕も連れて行ってください」

「あん?」

 老婆は聞いた言葉を疑った。

「僕も仲間にしてください。僕にはもうあの街に知り合いも居場所もありません」

 少年に育った街への未練はない。世話になった者たちはこの世を去り、また何処かへ消え去った。あのままではエトピリカは行き詰っていた。だから賭けに出た。宇宙海賊の仲間になれば、もしかしたらこの星を離れることができるかもしれない、と。

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