第9話 宇宙港

  エトピリカが息を切らせている。かなり必死に走ったようだ。追い掛けたメイデンの方はかなり余裕だった。

「ねー、エトピリカ。どうしてあのオネーサンから逃げたの?」

 メイデンが疑問を口にする。セクサロイドの言語解析でも、高い確率でエトピリカは女性からの誘いを受けていたと出ていた。

「なんだか恥ずかしくって…」

 そう答えたエトピリカは走ってきたせいか、顔が赤らんでいた。

「ふーん。そうなんだ。つまんないの!」

 メイデンが残念そうに言った。あわよくば混ざろうとしていたのだ。

「それよりもっと面白そうなものを見に行こうよ! 港に宇宙船が来ているらしいんだ!」

 エトピリカは目を輝かせていた。

「エトピリカは宇宙船が好きなの?」

「そうなんだ! いつかは宇宙船に乗って冒険をしたいから! 早く見に行こう!」

 エトピリカがメイデンの手を引き、港の方へと駆け出す。

「ダメー! 港に行くと、エトピリカは私より宇宙船に夢中になっちゃうからダメー!」

 メイデンの乙女回路が作動したようだ。

「えっ。メイデンを宇宙船と比べられないよ!」

「私と宇宙船。どちらがいいのよ!」

「宇宙船!」

 エトピリカは迷わず答える。メイデンがブーブーと膨れた面で喚いている。

「えー、やだ。私ここから一歩も動かない」

 メイデンが駄々をこね始めた。エトピリカはうーんと唸る。

「なら僕だけで行っちゃおう!」

 エトピリカがメイデンを置いて先に行こうとした。

「あっ、ひっどーい!」

 メイデンは慌ててエトピリカの後を追いかけた。なんだかんだでついていくようである。

 二人はコンクリートジャングルの中を歩く。強い日差しがビルディングの窓ガラスから反射し、地上を照りつけていた。

 港町の入り口まで来たとき、球形の強化ガラスに手足を付けただけの乗り物が、コンテナを持ってガッチャガッチャと走っていった。

「あっ、珍しい。ガンポッドだ」

 エトピリカがガンポッドと呼んだ乗り物に反応した。メイデンがキーワード検索をかける。

「ガンポッド。宇宙空間で物資を運搬する為に作られた乗り物。宇宙船に搭載される事が多く、地上に宇宙にと活用される。…停泊中の宇宙船のものかな」

 メイデンはキーワード検索結果を回答として話す。

「ガンポッドの向かう先に行ってみようよ!」

 エトピリカは無邪気にガンポッドを追いかける。

 ガンポッドは宇宙港の一角に入っていく。エトピリカはガンポッドを追うのに夢中になり過ぎていた。


 ドン!


 エトピリカは脇の店から出て来た男とぶつかった。

「ってーな。待てよ、そこの薄汚いガキ」

 柄の悪そうな男だった。黒字に赤いドクロが描かれたジャケットを着ていた。

「すみません…」

 エトピリカは素直に謝った。

「すみませんじゃねーよ。どこに目をつけて歩いているんだ。薄汚いガキが。ドミナント レイダースのジャケットに汚れが付いちまっただろうよ。どうしてくれんだ、アァン?」

 男は凄んできた。

「ドミナント レイダース…星の乗っ取り屋。犯罪組織…」

 メイデンが相手の情報を補足した。エトピリカも治安の悪いところで生きてきたので、犯罪組織と無縁では無かった。だがそれは一種の共同体でもあった。

 目の前の男は違う。

「なんだ? ガキの分際で女連れかよ。ムカつくぜぇ」


 ドガッ!


 男はなんの躊躇いもせず、エトピリカを殴った。

 ズザザザとエトピリカが地面に突っ伏す。慌ててメイデンがエトピリカに駆け寄る。

「何するのよ!」

 メイデンはエトピリカの前に立ち、男から遠ざけようとした。

「気に入らねぇ。気に入らねぇな。俺が天下のドミナント レイダースの構成員と知った上でナメたマネしやがるのか…オラッ!」

 男はメイデンにヤクザ蹴りを入れる。

「キャッ!」

 メイデンが蹴られて倒れる。彼女は人間に危害を加えるようには出来ていない。

「やめろ! メイデンに手を出すな!」

 エトピリカが立ち上がり、メイデンの前にかばう様に立つ。

「何だその目は? 女の前で格好つけているつもりか?」

 男は拳を握りしめて振り上げる。エトピリカはまた殴られると歯を食いしばって目を閉じた。


 ドゴッ!


 鈍い打撃音。

「ぐはっ!」

 ドミナント レイダースの男が、どこの誰とも知らない男に頬を殴られて仰け反っていた。

「女子供に暴力とは、見下げ果てたゲスだな」

 ならず者を殴り倒した男がそう言い放った。

「なん、なんなんだ? 俺が天下の…」

 ならず者は何かを言い掛ける。

「知るかよ」

 助けに入った男はならず者に追い討ちを掛けるように廻し蹴りを放つ。


 ドゴッ!


 ならず者は派手にぶっ飛んだ。ならず者が這いつくばる。

「小僧。そこの女も。大丈夫か?」

 サングラスを掛けた男がエトピリカたちを気遣った。

「だ、大丈夫です」

 エトピリカはかろうじて返事した。口の中が切れて血だらけだった。

「子供ながらによくぞ女を守ろうと立ち上がった」

 助けてくれた男は一部始終を見ていたようだ。

 サングラスの男は爽やかな笑みを浮かべた。エトピリカ達を見かねて助けに入ったようだ。

 

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