第15話 生きるための糧
一息ついた頃、メイデンが急に話を切り出す。
「ねぇ、エトピリカ。お仕事終えてから何も食べていないよ」
メイデンはエトピリカの前回の食事時間を記憶している。
「お腹空いてきたけれど、食べ物は何もないや」
エトピリカは残飯あさりをすることで糧を得ている。それをする暇がないときは、虎の子の所持金で買うのだが…。
「…お金、ある?」
メイデンは給金袋をゴルンノヴァに奪われた事を危惧していた。
「この間貴金属を換金したからまだしばらくは大丈夫」
そのお金は生命線だ。そして、将来エトピリカが宇宙へ飛び出すための資金でもある。僅かずつの蓄えを増やすからこそ、少年は希望を抱いて生きていられる。か細い望みが生きる糧。
よって、そうそう気軽に手を付けて良いお金では無かった。
しかし、アンドロイドには所持している金額以上の価値は計れない。
「なら大丈夫だね。私、心配しちゃった」
「当面の生活は大丈夫だけれど、しばらく町工場のお仕事は無さそうだし、明日から仕事探ししなくちゃ」
少年はまだ子供であるが、労働することで対価を得ている。身寄りの無い彼を好んで雇う者はいない。ヒゲ爺もただ面倒見が良いわけではなく、ガラクタを拾って売りに来るエトピリカに技術を仕込んで安く使える見込みがあったからそうしているだけだ。一般的な相場よりは遥かに賃金は安い。
そんなエトピリカが仕事探しをするとなると、まっとうな場所はほぼ不可能であった。素性の知れぬガキを雇うようなものなど正気の沙汰ではない。
「エトピリカならきっと何か見つかるよ」
ロボットは気休めを言う。そこに根拠は無い。前向きな言葉で好印象を持たれようと、その様な行動原理で動いているだけだ。だが、場を暗くさせない方には働いてくれていた。
「探さなきゃ何も始まらないもんね!」
少年は明るく笑った。あらゆる絶望の底で、彼は悲観することをやめていた。今がどん底なら、あとは這い上がるだけ。それに似た心情だった。
翌朝。エトピリカは住処の近くを探索したが、縄張り内には食べ物は投棄されなかった。いつも幸運に預かれるわけではない。不安定な生活基盤。安心とは程遠く、飢餓を友とし、訪れぬとも知れぬ未来に背を向けて今を生きる。
「エトピリカ、頑張って!」
機械は励ます。主を鼓舞する。プログラムされた言葉ではあるが、少年の歩みを進めせるには十分だった。
「そうだね。途方に暮れていても何も始まらないもの。貧民街に行って、何か手伝えることはないか尋ねてみよう」
悩める少年と悩まぬ機械は地下の貧民街を目指して歩き出す。
以前訪れた地下街。相変わらず薄暗く、空気も淀んでいる。
エトピリカは連なる店に立ち寄っては何か仕事がないか尋ねて回った。
違法風俗店を訪れては、
「客引きを誰かに頼みたいが、流石に子供に客引きは任せられないなぁ。それにただでさえ厳しい取り締まりに引っかかっちまうよ」
と、黒服に門前払いされ、リサイクルショップを訪れては、
「おまえが電子機器を修理できるのは知っているが、人手は間に合っているんでね。悪いな」
と袖にされる。食い詰めた少年を雇ってくれるような店など無かった。ただでさえギリギリの経営をしている店ばかりであるのに、そこに入り込めるような余裕は無い。
エトピリカは追い詰められる。
安い労働としてあてにされていたヒゲ爺の町工場のような奇特な雇い主はそうそういない。
そういう意味ではヒゲ爺は人格者なのかもしれない。孤児に食い扶持を与えているのだから。エトピリカにもヒゲ爺に世話になっている自覚はあった。だからこそ、自分の生活が大変になるからと言ってヒゲ爺に食い下がるような真似はしなかった。
少年はダメもとでテッドの店を訪れる。いつもの場所にモノクルをつけたテッドが座っていた。
「何だ、エトピリカか。もう貴金属がたまったのか?」
「違うよ。今日は何か仕事がないか探して回っていたんだ」
テッドは腕を組み、フームとうなった。彼の店も従業員を必要とはしていない。
「急に言われても、特に頼みたいことは無いからなぁ。…横のアンドロイドを売却するつもりはないか? 中古宇宙艇が買える…とまでは行かないが、それでも頭金にできる程度の金は弾むぞ?」
エトピリカはメイデンと顔を合わせる。特に迷ったような様子は無く、
「それはやめておくよ」
と、あっさり断った。
「そうか、それは残念だ。好事家辺りになら売れそうだったもんでな」
はじめは売り飛ばそうとしていたエトピリカではあったが、共に過ごすうちにメイデンを必要とするようになっていた。
まだ拾って短い期間ではあるが、少年の人間関係の中でも重要な立ち位置に食い込んでいた。
みなしごの少年にとってのどのような立ち位置に当たるのかは、ハッキリとはしていない。
今の時点でわかるのは、女性型アンドロイドが製造理由とは違う角度から必要とされ始めていることだ。
こればかりは製造者であっても予測は出来ない付加価値を見出されたことだろう。
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