第43話 万能宇宙船・トライアド

 宇宙船が惑星タラッサの空を飛ぶ。

「トライアドさん。私はメイデン。エトピリカの所有物です。あなたにはどんな機能があるの?」

「はじめまして。同朋よ。私にはブラックホール・クラスターによる動力の確保、及び二門の砲の兵装があります。また、

ブラックホール・クラスターより水や空気を生成することが可能で、水耕栽培によりレタスやベビーリーフを作るルームがあります。食肉用に培養肉の精製も可能です。人は最大5名まで居住可能であり、船内のメンテナンスはブリキボット達が自動で行います。完全自給自足。燃料いらずの万能宇宙船、それが私トライアド。必要とあらば、人間の大きさまで変形することも可能です」

 エトピリカはトライアドの言っていることの意味がまるでわからない。だが、多機能であることは確かなようだ。

「凄いや! どこにでも行けるんだね!」

「肯定。私に行けぬ場所はありません。ワープ航法も可能です。空間断絶障壁により、隕石の直撃にも耐えます。アステロイドベルトの中も自在に飛んでみせましょう」

「なんでトライアドなの?」

 少年は次々に興味をそそられる。

「地球の伝承上に存在するドライアドを語源としています。私はあれらのように船体に生えていますから。そこにキャプテン・ドックが好んだ挑戦という意味のtryが掛かっています。そうして第三者を意味する地球の言葉、トライアドという名を授かりました」

「トライアド、いい名前だね! これからよろしく!」

「ところで、私の知らない通信プロトコルでアクセスしようというものがいます。いかがなさいますか?」

 トライアドからの進言。エトピリカは意味がわからない。

「通信プロトコル? 私ならわかると思うんだけれど」

「失礼、メイデン。あなたと繋がってよろしいかしら? 最新のソフトウェアが欲しくて」

「私は最新て言うほどじゃないけれど、どうぞ」

 メイデンとトライアドが手を取り合って連結する。

「ありがとう。通信をモニターに映します」

 モニターがパッとついた。そこにはマムの姿が。

「お前、どこの者だい? 名乗らなければ撃墜するよ!」

 それは正体不明の宇宙船を警戒するマムからの警告だった。

「マム! 僕だよ! エトピリカだよ!」

 エトピリカが答えようとする。

「なんだって! 小僧! どこで船を拾ってきたんだい!」

 流石にマムも驚いている。

「キャプテン・ドックって言う人の洞穴だよ。最初に訪れた人に所有権を譲るって」

「あの伝説の宇宙海賊かい!? 与太話だと思っていたねぇ。とにかく島に着陸しな。話はそれからだ!」

「アイ、マム! トライアド。あそこの島に着陸して!」

「承知致しました」

 マムの命令にエトピリカが従い、エトピリカのオーダーにトライアドが従った。

 トライアドはマムの島に着陸する。浮遊も着陸も静かに行われる。飛行するのに音もないようだ。

 エトピリカ達は船を降りた。と、船がトランスフォームする。どんどん船体は内側に折り畳まれていき、やがて人型のトライアドのドレスとなった。人形の大きさまで変形できるようだ。

 そこにドカドカとマム達がやって来た。

「宇宙船はどこいったんだい?」

 マムがあたりを見回して尋ねる。

「このトライアドのドレスになったよ」

「トライアド!? 伝説と同じ名だねぇ! 翁、一体どういう原理だい!」

「わしにもわからん。天才科学者でもあったキャプテン・ドックの最高傑作と言われる船だ。遺失したオーバーテクノロジーが使われておるじゃろう」

 翁がトライアドをまじまじと観察する。

「私はトライアド。キャプテン・エトピリカの所有物」

 トライアドがマム達に挨拶した。

「なるほど。この子の言う事ならなんだって聞くっていうわけかい。しかしね、宇宙船ニ隻で行動ってのもねぇ」

「だめなの??」

「小僧。アタシらは船団を組むわけじゃないからね。船団を組めばお前を船長にしなければいけなくなる。新参者の子供のお前に船長は任せられないよ」

 マムの言うことも当然だった。

「なら、普段は人型で、戦闘になれば戦闘艇のような運用ならだめかい?」

 ベックがマムに尋ねた。

「私は戦闘艇モードに変形する事も可能です」

 トライアドが答える。

「ふむ、ならよし。エトピリカの所有物として認めよう。だが、戦闘員として扱いはしないからね。ガキに守られるほど、マクティラ団は落ちぶれちゃいないよ!」

 マムの意思決定も終わったようだ。トライアドはエトピリカ達と同行する事になる。しばらくは人型のままであろうが。

「私は機能の持ち腐れとなりますが、キャプテン・エトピリカがよろしいのであれば」

 こうして、宇宙船の中に宇宙船が居住するというおかしな事となった。

「待たんか! 貴様ら、わしの船はどうした!」

 エトピリカとメイデンが船を盗んだお爺さんが怒鳴りながらやってきた。

「コラコラ、ガキ共。身内同士の盗みは御法度だよ。さっさと持ち主の船を返してきな!」

 マムに怒られて、エトピリカとメイデンは船を取りに戻る羽目になったのだった。

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