第42話 キャプテン・ドックの財宝

 少年は恐る恐る暗闇の中を歩いた。明かりがないので周りが見えない。洞穴内で遭難したら、自力では出られないだろう。

 だが、それは無さそうだ。

「あっ、エトピリカ!」

 暗闇の中からメイデンの声が聞こえてきた。

「メイデン! どこなの!」

 エトピリカが暗闇の中でわたわたする。ごちんと岩の柱にぶつかった。

 と、急に点灯する明かり。メイデンの装飾品から光が発せられた。そんな機能も付いているようだ。

「こんなすぐに追いかけてきてくれるなんて!」

 メイデンは感極まった風だ。突発イベントはクリアとなったようだ。

「こんなところまで家出するなんて」

「ここも人が作った所だから、大丈夫かと思って」

 メイデンが意外なことを口走る。しかし、思えば入り口の仕掛けの事もある。ここが人造の洞穴だとしたほうが自然だ。

「こんな人が出入りしている形跡のない場所が、今も稼働しているものなんだね。何があるんだろう」

 エトピリカは洞穴の内部の事がもっと知りたくなった。好奇心が勝ったのだ。

 少年とアンドロイドは洞穴をさらに潜った。

「酸素濃度は適正値。空調設備があるみたい。外壁は岩盤に偽装されていたけれど、内部構造は機械化されていた。誰かの私有地だったのかな。ネットワーク照会出来ないから侵入しちゃた」

 メイデンは透過スキャンで入り口の偽装を見破っていたようだ。だが、今はすまなそうにしている。

 少し歩くと鉄製の扉が出てきた。いよいよ何かかがあるようだ。

 エトピリカが扉の前に立つと、扉は自動で開かれた。

 そこはしばらく人に使われていない施設だった。広々とした空間に、小型の宇宙船が置いてあった。

「宇宙船だ! 凄いや! 見たことない形をしている!」

 エトピリカの目が輝いた。宇宙船は既存の規格の物とは異なる不思議な形をしていた。流線型の楕円形なのだ。

 エトピリカが部屋に踏み込むと、施設の明かりがぱっとついた。少年が驚く。

「誰かいるのかな」

 メイデンが呟くが、人の気配は無い。無人なのだ。どうやらセンサー式で勝手に点灯するようだ。

「誰もいないのかな。宇宙船があるのに」

 エトピリカは不思議がった。立派な宇宙船が放逐されている事になる。それがなお少年の興味を引いた。

 少年が宇宙船の入り口の前に立つと、これまた不思議に入り口が開いた。まるで歓迎されているみたいに。

「入れってことなのかな?」

 メイデンが宇宙船の中を覗いてキョロキョロしている。

「よし、入ってみよう!」

 いまや、少年の関心は宇宙船に一心に向かっている。

 二人は宇宙船に乗り込んだ。そして操縦席を目指す。

 操縦室に入った時、二人を出迎えるものが現れた。

「ようこそいらっしゃいました」

 澄んだ女性の声。そこにいたのは船体から木が生えるように立っている女。

「あなたは? ここの人ですか?」

 エトピリカの問いに女は笑った。

「私はトライアド。この船そのものにして、ヒューマン型の端末。お連れ様はアンドロイドですね? では、あなた様のお名前を伺いましょう」

「僕? 僕はエトピリカ」

「ようこそ、エトピリカ。造物主であるキャプテン・ドックよりご挨拶があります。モニターをご覧ください」

 トライアドが手を差し伸べた先には大きなモニターがあった。その電源が付く。

 モニターに髑髏の眼帯をした男が映った。

「ようこそ、客人。よくぞ俺の居住地を探し当てた。この星は俺のねぐらだ。俺の伝説を知るものであれ、そうでなかろうと歓迎しよう。ここに、俺の生涯の宝であるトライアドを置く。こいつは俺の最高傑作だ。1000年経とうが、その時代の宇宙船にも遅れを取るものか! 俺の不敗の伝説を作ったこの船、あんたに譲ろう。願わくば、俺と同じように伝説にならんことを。では、さらばだ」

 ビデオメッセージは終わった。

「トライアドさん。これは?」

 エトピリカは映像の主が誰7日はわからなかった。

「これよりあなたはキャプテン・エトピリカ。私の主となります。手をお取りください」

 トライアドがエトピリカに手を差し伸べる。エトピリカはその手をとった。

「これで良いの?」

 トライアドが頷く。

「意思は示されました。遺伝情報を登録。キャプテン・エトピリカ。あなたは私のマスターとなりました。何なりとご命令を」

 トライアドがひざまずいた。

「えっ、僕がこの宇宙船の所有者となるの?」

「そうです。キャプテン・ドックの意志により、最初にここを訪れたものに所有権が譲渡される事となっていました。さぁ、行きましょう」

 トライアドが手を掲げると、洞穴の天井が開いた。

 トライアドのエンジンが稼働し、宇宙船が浮かび上がる。それはジェットではない謎の浮力により飛び上がっている。

 宇宙船が空に飛び立った。

 それはいつから存在したかわからないが、少年の知らない謎のテクノロジーで動いている船。

「凄いや! 空を飛んでいるぞ!」

 エトピリカは大はしゃぎしている。メイデンの家出イベントがトリガーで転がり込んできた幸運。それはメイデンが幸運の女神であるということか。次々にエトピリカの運命を覆していっていた。

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