第5話 恋愛の攻略対象
エトピリカはのぼせそうになっていた。温泉もそうであるが、シチュエーション。とくにメイデンとのやり取りと雰囲気に参っていた。
少年は胸をドキドキさせながら温泉に浸かるので、必然的にのぼせるのが早くなる。
「のぼせているようだけど、大丈夫?」
メイデンがエトピリカに背後から声を掛けた。彼女はそっと少年の背に体を押し付ける。弾力性のある胸がエトピリカの背中に強く触れる事になる。
少年は慌てて離れてメイデンと向き合った。
「だ、だだ、だ大丈夫だよ!」
少年の反応はアンドロイドの予測通りの思惑通りだった。
セクサロイドである彼女は男をその気にさせるべく、徹底的に計算づくで動く。
恋愛シュミレーションであるならば、少年が攻略対象である。
少年が陥落した暁にはことに及ぶかもしれないが、その時にはアイアンメイデンと呼ばれる彼女のその理由をエトピリカは体感する羽目になるかもしれなかった。
電圧の波による不調。それによる特定部位の過剰稼働。それに伴う結合部位への過負荷。想定されるは男性器損傷。
少年は壊れた家電程度なら使えるまで修理して使っていた。
だが、使える形で捨てられていたセクサロイドを修理して使うという発想までは至っていない。ましてや、メイデンの不調は故障ではなく製品の欠陥である。専門技師でも治すのは大変な部類だ。
ともかく、少年の今はヘル&ヘブンだった。一方的に好意を「受け」に来るメイデン。誰かと一緒に暮らすことには慣れていないエトピリカには彼女を突き放すことが難しかった。
少年の脳は彼女が自分に好意があるのではないか、という『作られた感情』を形成した。
繰り返すが、人間側のが『作られた感情』である。外部から意図して作り出されたもの。
機械であるメイデンのは『作られた感情』ではなく計算尽くされた立ち振る舞いである。
メイデンのアルゴリズムはエトピリカと体を重ねること、そのことが主目的である。ただし、メイデンからは事には及ばない。必ずユーザーから手を出させさせる。その為の手練手管で少年を誘う。
そのメイデンの行動が、少年の脳に想定通りの情報をプログラミングしていく。
ゲームに例えるならば、好感度を上げられているのが少年だ。あらゆるフラグを立てに来るセクサロイド。
セクサロイドは自己学習で少年の好みを追求して行動を行ったり変えたりする。
その機能分野ではメイデンは超高性能だった。元は高価なセクサロイド製品である。
少年は様々な理由でクラクラしていた。おそらくは人生初であろう性的刺激が少年を巡っていた。
「僕はもうあがるよ!」
少年が温泉をあがる。メイデンは少し残念そうにした。あわよくば温泉内で少年と一つになるつもりだったようだ。
「では、わたしも」
メイデンも少年にならって温泉をあがる。
大人の女性型の一糸まとわぬ姿。湯がポタポタと彼女の体を伝い落ちる。
少年は自分の体を拭いていたボロ布を慌てて彼女に渡した。自分の体を拭き終えていなかったが、彼女を優先した方がいいと判断したようだ。
メイデンがエトピリカからボロ布を受け取った。
「じゃあ、私がエトピリカの身体を拭くね」
メイデンが初めて少年の名を呼んだ。
そして身をかがめて上目遣いになりながら少年の体を拭き始める。
少年は一瞬のことに反応出来なかった。体の隅々まで丁寧に丁寧に拭き取られる。将来メイデンとの間で使われるかもしれない部位はことさら丁寧に優しく拭かれる。
その後はメイデンが自分の身体を拭き始める。彼女には湯冷めと言うのは関係ないので何の問題もなかった。
「良い温泉だったでしょ。機械もお風呂に入るとは知らなかったよ」
エトピリカはそう言ったが、機械は普通は洗浄とも言うかもしれない。その場合には珍しくもなんともない。
メイデンにも自己洗浄と言う行動で記録されている。自己メンテナンスを行う高性能モデルである彼女が、主とのコミュニケーションも合わせ兼ねての風呂への誘いだった。
「私、お風呂大好きなの。また一緒に来ようね!」
と、その様に言うメイデンには好き嫌いは無い。こまめな洗浄をするのが望ましいので、あのように言い換えただけだ。少年にはそれはわからないが、また一緒に来ようと思わせる分には十分な効果を発揮するセリフだった。
少年は混浴温泉イベントを実績解除したようだ。
エトピリカとメイデンは服を着直す。メイデンの服はまだキレイなものであったが、少年の服にはゴミ山の匂いが染み付いていた。
メイデンがそれに気がつく。
「ねぇ、エトピリカ。洗濯機ある? あるなら私が服を洗ってあげる」
「えっ、洗濯機? そんな贅沢なものは無いよ」
「じゃあ、家に帰ったら手洗いしてあげるね!」
メイデンにはユーザーの身の回りの世話機能もある。服の着脱を伴う行為に重点を当てた設計の為、服の取扱に関するアフターサービスも万全となっている。メイドロボ程ではないが、洗濯する行動設定も組まれてあった。
そんなことはさておき、家族のいなかった少年には彼女のそんな言葉が大きかった。
機能として行動したメイデンであったが、好感度を意識した行動よりもよほど好意を持たれたようだ。
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