第45話 追走劇
「戦闘艇、出撃準備!」
全艦内放送でマムの命令が鳴り響く。戦闘になれば勝ち目は無いはずだった。しかし、宇宙域に既に戦闘艇を展開されてしまったので、なし崩し的に応戦せざるを得なくなったのだ。
機関室の扉を開けて、トライアドが入ってきた。
「キャプテン・エトピリカ。この船の戦闘力ではこの船は撃沈されます。私で出撃してください」
トライアドが戦闘に出たがっているようだ。
「マムには戦闘構成員としては扱わないと言われているよ!」
「今、この窮地を切り抜けられるのは私の力のみ。このままではこの船に被害が出ます。どうかご決断を」
トライアドは一歩も引かなかった。エトピリカはこれ以上自分の居場所をなくすのは嫌だった。その恐れが少年を突き動かす。
「翁。僕、行ってくるよ!」
「エトピリカ。この娘はキャプテン・ドックの遺産なんぢじゃろう? ならばこの船にいるより安全ぢゃろう。行ってこい!」
翁がエトピリカを送り出す。エトピリカはトライアドの手を引いてハンガーを目指した。
既に仲間の戦闘艇は出撃した後だった。ハンガーが空いている。
「キャプテン・エトピリカ。離れていてください。これより戦闘艇モードに変形します」
トライアドのドレスが展開し、みるみる大きくなっていく。やがて戦闘艇の姿になった。ハッチが開く。エトピリカはトライアドに乗り込んだ。中には人型のトライアドが機体から生えている。
「キャプテン・エトピリカ。何なりとご命令を」
「艦内に通信を。エトピリカ。出撃します!」
エトピリカの声は宇宙船の艦橋に伝わった。
「エトピリカ。あんた何をする気だい!?」
マムからの返答が入る。
「僕は、僕はこれ以上帰る場所をなくしたくない! トライアドの力を借りて、敵艦隊を撃退します!」
「ガキの力は借りないと言ったというに言うことを聞かない子だねぇ! いいかい、必ず帰ってくるんだよ!」
出撃許可は降りたようだ。ハッチが開く。
「トライアド。発進します」
そう船が告げると、トライアドは勢いよく宇宙船を飛び出していった。
全天が星の海。エトピリカには初めての小型の戦闘艇による航行。しかし感動している暇はなかった。
「キャプテン。敵影は戦艦5隻。戦闘艇25機。敵はまだ戦力を温存しているでしょう。戦闘艇の帰る場所を叩きます。敵戦艦へのブラックホール・キャノンの使用許可を」
「任せるよ!」
「照準合わせます。エネルギー充填開始。発射まで3秒。3、2、1、発射!」
トライアドの二門の砲から放たれた黒い塊が飛び出していった。敵戦艦に直撃し、黒い点を中心にあっという間に呑み込まれていく。
「敵戦艦の撃墜を確認。敵戦闘艇が4機きます。空間断絶障壁を展開。敵弾丸を相転移します」
トライアドに放たれたおびただしい弾丸は、次々と虚空へ飛ばされていく。トライアドには傷一つ付かない。
「オートパイロット解除。キャプテン。敵機撃墜を。対人戦闘では人の力が必要です」
トライアドはエトピリカに身を委ねた。エトピリカが戦闘艇を操作する。
防御力は圧倒的に敵の火力を上回った。速度はどうか? 敵の戦闘艇など比ではない速さだ。小回りも効く。その機動力であっという間に敵を追い込む。火力は……先程見たとおりだ。連射、速射用の弾丸が放たれる。
一機、また一機と撃墜していく。
「すごい……これがトライアドの力……」
少年は力で敵を粉砕していく。それは少年に愉悦をもたらした。驚異となっていた敵を排除する力。少年が求め続けた力。それが今はある。
「もう1隻戦艦を狙いましょう。それで相手は後退するはず。ブラックホール・キャノン。装填。発射まで3秒。3、2、1、発射!」
再び放たれた黒い塊が敵戦艦を直撃する。船体を押しつぶしながら内側へと収縮していき、敵戦艦は消え去った。
敵の艦隊が狼狽えている。圧倒的火力のトライアドを恐れ、戦闘艇は転身して行った。敵艦隊が後退を始める。
敵は強大な力を持つトライアドによって撃退された。
「キャプテンの勝利です。残存戦力を掃討しますか?」
「……逃げる相手までを撃つ必要はないよ。見逃そう」
「承知しました。敵艦隊の逃走を黙認。長距離航法によりこの宙域を離脱していきます。敵戦力の消失を確認。安全は確保されました」
トライアドの知らせ。それは朗報だった。
トライアドに母船から通信が入る。
「エトピリカ。よくやった。帰投しな!」
マムからの帰還命令。トライアドは母船へと戻る。
仲間の戦闘艇達も次々と帰還を始めていた。
トライアドがハンガーに戻ると、エトピリカは降り立った。と、トライアドはあっという間に人形のサイズまで変形し、女性の姿へとなった。
「お疲れ様でした。キャプテン」
「すごいや、トライアド! 君はみんなを守る力だ!」
エトピリカは感動していた。恐るべき相手を撃退する力を手に入れた事を。
マムやベック達がエトピリカの元へと集まりだしていた。彼らはみなエトピリカの功績を讃えている。
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