第3話 一歳の誕生日
産まれて四ヶ月ぐらい経った頃、前歯が生えてきました。ちょっと痒くて、授乳の時にママンに迷惑をかけたの。その為か、離乳食を始めて食べさせられたわ。
「は~い、林檎ですよ~、あ~ん」
「ア~ン」
「あら~、じょうずね~」
「ア~ン」
「あらあら、自分からできるのね~」
「ア~ン」
「おいしいのね~」
「ア~ン」
「……あっと言う間に食べてしまったわ!」
「アウアウ」(ごちそうさま)
「もっとほしい?」
「ナイナイ」(もういいの)
「……そう。なんてしっかりした子なのかしら。まったくこぼしてないわ」
女官のジュディが私を抱き上げ、背中をポンポンと叩く。
「エフッ!」
「はい、よくできました」
「ありがとう、ジュディ」
「いいえ、マリエル様は素晴らしいお嬢様です。私はマリエルさまの側仕えになれて、とても光栄です」
「まぁ、ありがとう」
「マリエル様は、ほとんどお泣きになりませんし、エプロンも汚しません。そしてオムツも必要としないのですもの」
「! ……オムツを?」
「はい。その時は、ちゃんと教えてくれます」
「どうやって、教えるのですか」
「はい。……マリエルお嬢様、リリアーナ様(マリエルの母)にお聞かせ下さいますか?」
「イ~イ~」(トイレ~)
「いま、トイレと言いました」
「そう……なの?」
「はい、トイレに連れて行き『シーシー、トートー』と言うと、してくれます」
「あら、まだ半年も経ってないのに、オシメが要らないなんて、とてもいい子だわ」
「はい」
「ユウユウ、ヤァヤァ」(ジュディ、恥かしいからあまり詳しく言わないでね。一応レディなんだから)
「はい、お嬢様」
「まぁ、すっかり仲良しさんなのね」
「はい、お嬢様は私の失くしたピアスも見つけてくれたのですよ。お嬢様は本当に『女神の御親友』なのです」
「まぁ凄い、見つかって良かったですね」
「はい、奥様」
離乳食は林檎を摩り下ろした物で、母乳も続けて飲みます。
舌触りが変わったのが新鮮だったわ。もう、転生前の食感を忘れつつあったから。
この世界にも林檎があるんですね。
でも早く肉が食べたいな~。いつ頃から肉が食べれるのかしら?
そしてその後すぐに、『パパン、ママン』などと単語を喋れる様になったの。
だんだんと、舌が動き易くなってきたから。
8ヶ月ぐらいで喋れるようになり、10ヶ月ぐらいで歩き始めたわ。
もうすぐ一歳かなと思う頃、茹でて摩り下ろした鶏ささみ肉が、同じく摩り下ろした野菜に混ぜて出て来ました。
「わ~い、転生後初肉料理だ~」と心の中で喜んだわ。
まだ難しい言葉は、舌が回らないから。
実際は、
「ウマウマ~!」
と、言っただけでした。
そして一歳の誕生日パーティがやって来ました。
テーブルの上に沢山料理とお酒が並んでる。私は離乳食しか食べれないけどね。
それでも豪華でカラフルな離乳食が、絶対に食べ切れない量で並んでたわ。
隅から隅まで見回したけど、串焼きや謎の肉料理は見当たらないの、残念。でも牛フィレらしき分厚いステーキがあったから、早く離乳食を卒業して食べましょう。
「マリエル お誕生日おめでとう」
「「「おめでとう」」」
「アイガト~」
「ま~、お喋りが上手ね~」
お婆様が喜んでくれました。
母方の祖父と祖母は、長い間郊外の別荘に軟禁されていたのだけど、私の一歳の誕生日に恩赦で開放されました。
ただしパパンの許可無しで、勝手に人に会わない、勝手に外出してはならない等と条件付きだそうですけど。
「リリアーナに似て可愛いのう」
お爺ちゃんがパパンに聞こえる様に言いましたが、パパンは全然気にしてません。
「パパンからマリエルにプレゼントをあげよう」
パパンは私が良く喋るようになって、『パパン、パパン』と呼ぶから、自分でパパンと言う様になったの。
パパンが出した長方形のプレゼントを侍従が持って来て、それをママンが開けてくれたわ。
「まぁ、ダイヤモンドのネックレス! こんなに高価な物を娘に、有難う御座います」
子供用のネックレスが入っていた。
「アイガト~」
「うむ、さっそく付けてみなさい」
パパンがママンに言った。
「まぁ綺麗、とっても似合ってますね」
そしたら、お爺様とお婆様が私の横に来て、パパンに張り合う様に言いました。
「私達は全てを失ったけど、こんなに可愛い孫を授かりました。我がウォルフ家に伝わるギフトを孫のマリエルに送ります」
お爺様が私の右手を、お婆様が私の左手を握り、一緒に呪文を唱えたの。
「私達の孫に、アースガルズに続く『虹の橋ビフレスト』の通行許可書を譲ります」
両手を伝って、暖かい何かが私の中に流れ込んで来て、私の身体がホワンと光りました。
お婆様が私に優しく話しかける。
「この国が豊かなのは、アースガルズからの豊かな恵みに拠るのよ。貴方は今、その恵みを受ける権利を引き継いだのよ」
「なにっ!」
パパンが急に立ち上がった。それは、パパンがこの国を手に入れた理由の一つだったらしいから。
「そう言う事だったのか。いくら探しても見付からない訳だ」
「ほほほ、秘術ですから私達以外、誰も知らないのです。武力で取る事は叶いませんよ」
お婆様がパパンに告げました。
「それは領主の私が引き継ごう」
「それは出来ぬ。前任者が後継者を選び、女神様の許可が無ければ引き継げないのじゃ」
「マリエルは出来たのか?」
「今見た通りじゃ。でも安心せい、マリエルが居れば国は豊かに繁栄し続けるじゃろう」
「そうか、私の娘だからな。ははは……」
(アースガルズ? 何それ。……『虹の橋ビフレスト』? 綺麗で美味しそうね。ビスケットじゃないよね)
私は始めて聞いたから、何の事かサッパリ分からなかったわ。
それは祖父母達の持ってるギフトと呼ばれる物らしいの。それを私が引き継いだらしいけど。
なんのこっちゃ? 全く分からん。もっと異世界漫画読めば良かったなぁ。
パパンこと、クロッシュア・ラグリス・レオポルド辺境伯は考えた。娘がギフトを持ってれば同じ事ではないかと。
「それではマリエルの誕生日を祝ってカンパーイ!」
「「「「カンパーイ」」」」
私はバナナミルクで乾杯する。これが一番美味しかったわ。ジュディがカップを支えて飲ましてくれたの。
私は横に控えてるジュディに、食べたい物を指差して催促するの。
「ジュディ、ア~ン」
「はいお嬢様、ア~ン」
モグモグモグ……。
「ジュディジュディ、コッチもア~ン」
「はいお嬢様、ア~ン」
モグモグモグ……。
ウフフ、お爺様とお婆様は私を見ながら『ア~ン』と、真似してるわ。
「まぁ、お父様お母様、お口が開いてますよ!」
と、ママンが言いながらパパンを見ると、パパンの口も『ア~ン』と、開いていた。
「あらあら!」
「ゲフンッ、ゲフンッ」
「おほほほほ」
「あっはははは」
「うふふふふ」
パパンはツンデレさんかしら!
「エイルちゃん、こんばんは。
私は一歳になりました。エイルちゃんのお陰だよ、ありがとう。
エイルちゃんがいつも応援してくれるから、安心してるよ。
それから、お爺さんとお婆さんから『ビフケット?』ってギフトを貰ったよ。
エイルちゃんは知ってたの? 私は何の事かサッパリ。
それじゃあ、おやすみなさい。
「マリエルちゃん、お誕生日おめでとう。
お爺さんとお婆さんから『虹の橋ビフレスト』の通行許可書を貰って良かったね。
それは、色々な亜人達が暮すアースガルズって世界に続いてる、橋の通行許可書だよ。
その世界はとても豊かな所なの、一年中沢山の果物や野菜が取れて、あらゆる鉱物資源も埋まってるのよ。
私からのギフトでは無いけれど、素晴らしい贈り物を貰って良かったね。
おやすみなさい。
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