第77話 ヘラクレスビートル戦

 私達は髭面男フィリップ達と一緒に、クヌギの大木に向かいました。



「じゃあ、蜂蜜を木に塗るよぅ。準備オッケーだよね?」


 ケンちゃんが皆の顔を見回しました。


「「「オゥ」」」

「「「は~い」」」


 黄色い熊のヌイグルミが、蜜壺のハチミツをクヌギの木に塗り付けています。


 ヌリヌリヌリヌリ……、


 絵面を想像してはいけません、漫画やアニメだったら著作権の問題が発生しそうです。



 すると、何処からともなく、虫の羽音が聞こえてきました。


 ブウウウウウゥゥゥゥゥンッ!


 フロアボスのヘラクレスビートルが現われました。

 体長4メートル以上あり、角だけでも2メートルぐらいありそうです。


 ヘラクレスビートルは大木ではなく地面に降り立ち、こちらに向き直りました。



「「「アッ!」」」


 一瞬の沈黙を裂き、突然アダモがヘラクレスビートルに突進します。

 私達は止める隙もありませんでした。


 アダモは真っ直ぐ突き出されたヘラクレスビートルの角を下から蹴り上げます。


 ズッガアアアアアンッ!


 ヘラクレスビートルの体が真後ろに5メートル程も跳ね上がり、ひっくり返ってしまいました。

 アダモは仰向けになったヘラクレスビートルの腹部に手刀を真っ直ぐ突き刺します。


 ブッシャアアアアアッ!



 その手刀を包丁で切る様に、下に切り裂きます。


 ズッシャアアアアアァァァァァ……!



 ヘラクレスビートルの左胸の辺りに、再び手を突っ込んで引っ掻き回し始めました。


 グッチャグッチャ、ビチビチビチッ、ジュルジュル、ジュッポォォォォォンッ!



 アダモは引っ掻き回して魔石を探り当て、その手を引き抜くと高く掲げます。


『取ったどおおおっ!』



「アダモ! そこは、ゲットだぜえええっ! って、言うのです」


「サチコはポテモン派か? 俺はやっぱり無人島派だな」



「はぁ、ケンちゃんがアダモちゃんに教えたんだね?」


「うん」



 エリザとエリシャナは膝をついて下を向き、青い顔でリバースしながら嗚咽おえつしていました。


「ウップッ……、▼¥■&$%●▲……、ハァ、ハァ、ハァ」

「ンッンッ、オップ……、▼$%●¥■&▲……、ハァ、ハァ、ハァ」



「アダモちゃん、凄い凄い、良い子良い子。良く出来ましたね」


 私はアダモの頭をワシャワシャと撫でて上げました。


『あぁん、御嬢様に頭の先端をこすられると気持ちいいですぅ』


「そう……でもねぇアダモちゃん、専守防衛って言ったでしょう?」


『は~い、専守防衛しましたですぅ』



「えっとぅ……アダモちゃんは、ヘラクレスビートルを攻撃して倒しましたよね?」


『攻撃は最大の防御と言いますぅ』



「専守防衛とは『専ら守りに徹する』と、言う意味ですよ」


『は~い、フレニ様を専守防衛する為に先制攻撃して倒しましたですぅ』



「はぁ……まぁ、結果オーライって事で良しとしましょうね」


『は~い』



「「いいんかい!」」


 サチャーシャとケンちゃんが、ピッタリ息を合わせて突っ込みを入れてくれました。



「あらまぁ、大分汚れちゃいましたね。アダモちゃんを【洗浄】【乾燥】!」


 シュワシュワシュワワワアアアンッ!

 ホワワワワァァァンッ!


 私はヘラクレスビートルの体液で汚れてるアダモを綺麗にして上げます。


『はぁ、スッキリですぅ!』


 アダモはヤリキッタ感を出して、サッパリした顔をしていました。



「俺達は一体何しにここへ来たんだろう?」


 と、剣を振るう機会が無かった手持ち無沙汰なフィリップがメンバー達に言いました。


「まぁ、たぶん俺達も11階を攻略した事に成るんだろうから、良かったんじゃないか?」


「はぁ……とりあえず、そうしとこうかなぁ」


「ギルドに帰っても余計な事を言わなければ大丈夫さっ」


「「「はははっ」」」



 そんな事を話してる内にヘラクレスビートルの体が消えて、大木周辺に大量のドロップアイテムが現われました。


「私達は魔石が欲しいのですけどぅ?」


「おぅ、お嬢ちゃん達が倒したんだから、遠慮なく持っていってくれ」



「有難う御座います。それでは他のドロップアイテムは全てお譲り致しますね」


「えっ、本当にいいのか? レアアイテムも有りそうだぞ」



「私達は上質の魔石が欲しいだけですので、どうぞどうぞ」


「じゃあ、遠慮なく貰っとくよ。ありがとな」



「こちらこそ、有難う御座いました」


「「「ありがとうございました~」」」

「「「ありがとなぁ」」」



「それじゃあ、きょうはこれで帰るとするか?」


「「「おぅ」」」



「私達も一緒に帰りますわ」


「おぅ、そうか。じゃあ帰ろう」



 今回は11階に有る帰りの転移魔方陣からフィリップ達と一緒に帰ります。


「なるべくヤラカサナイためなのですよ」


「って、きょうも既に結構ヤラカシタよね!」

「ケンちゃん、シィィィッ!」



 フィリップさんが魔方陣を起動してゲートを開きます。


 ブゥウウウウウンッ!



 私達はフィリップさん達と一緒に地上に戻って来ました。


「お譲ちゃん達もギルドに行くのか?」


「行った方がいいのですか?」


「クエスト報酬を貰うならな」



「エリザとエリシャナにお願いしても良いですか?」


「「はい、畏まりました」」



「フィリップさん達も馬車ですか?」


「おぅ、一緒に乗っていくか? ギュウギュウ詰めになっちまうがな」


「私達も馬車で来てますので結構ですわ。有難う御座いました、ごきげんよう」


「あぁ、またな」


 フィリップは手をヒラヒラさせながら馬車に向かいました。



「ケンちゃん、冒険者ギルドに【転移門】を繋げて下さい。エリザとエリシャナが使いますから」


「オッケー。冒険者ギルドに【転移門】オープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



「私達も馬車に乗って帰りましょう」


「オッケー。学院寮の近くの森に【転移門】オープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



【転移門】スキルを秘密にしたいので、ケンちゃんは近くの森にゲートを繋げたのでした。

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