第88話 刺客対策準備中

 私達は暴漢を冒険者ギルドに引き渡して被害届を書きました。

 事の成りいきを詳しく書いて、両替商の指図である事を暴漢が認めた事も明記しました。



 ギルド長が事情聴取をして、被害届を確認します。


「むっ、両替商かぁ……尻尾をつかむのは難しいぞ。今までも似たような事があったんだが、いずれも罪にならず、未だにのさばってやがるんだ」


「そうなんですか……」



「裁判しても証拠不十分で無罪に成ったり、被害者が居なくなって裁判が行われなかったりしたんだ。暴漢たちもいつの間にか釈放されてたなぁ……」


「よし、思う壺だわ」

 ミレーヌが小声で呟きました。


「何だって? 何て言ったんだ?」


「いえ、独り言です。一応被害届は出しましたので、あとはお任せいたしますね」


「了解、所定の手続きをちゃんとやっとくから。期待しないで待っててくれ」


「「は~い」」


 マリエルとミレーヌは被害届を書き、事情聴取を終えたので拠点に戻りました。



 私達6人は、手分けして拠点の中に罠を仕掛けます。

 味方が罠に掛からない様に一定の規則を設けました。

 通路や廊下の真ん中を堂々と歩けば罠に掛からないという物です。ドアなどの前にも罠はありません。怪しい行動を取る者が罠に掛かる様にしたのです。


「刺客は堂々と真ん中を闊歩して歩かないだろうから。外は通路から外れた所に、家の中は廊下の端に罠を仕掛けようぜ」


「「「おぅ」」」



 私は目印の為にインベントリから取り出したハーブを庭の罠の上に刺していきました。ハーブはしおれずに生きています。


 暗くなってきたので皆で外に食事に行く事にしました。噂を流す為でもあるのです。



「おっ、『タイガーケイブ』の面々は、珍しくレストランで夕食かい?」


「おぅよ。明日から男のメンバーだけが町を離れる事になったので、ちょっと豪華な食事をするんだ」


「へぇぇ、男だけ出掛けるのかい?」


「あぁ、男限定の依頼を頼まれちまったんだ」


「ふ~ん」



「女2人は、このお嬢ちゃんと拠点で大人しく留守番さ」


「女だけで心配ないのか?」


「なぁに、2・3日で帰って来るし、女って言ってもA級冒険者だから大丈夫さ」


「あら、こんな可憐な女子を置いてくなんて、イイ男が放って置かないわよ!」


「はぁっはっはっはぁぁ。違ぇねえなぁ! 美人さん達を取られちまわない様に、早く帰って来るこったぁ!」


「「「あ~はっはっは~」」」



 『タイガーケイブ』のメンバーはエールを飲みながら他のテーブルの冒険者達と大きな声で話し続けました。

 レストランには沢山のお客がいるので、きっと刺客にも噂が届くでしょう。



 しばらく席を外していたリーダーのジルベルトが帰ってきて、ミレーヌとマリエルに耳打ちします。


「1番仲の良い、ライバルでもある『ベアーファング』に助っ人を依頼した。俺達と同じA級冒険者パーティーだ」


「分かったわ、ありがとう。罠の事は話してくれたの?」


「あぁ、堂々と真ん中を通れば罠に掛からないと教えといたぞ」



「通信魔導具も渡してくれたの?」


「勿論だ。俺達と一緒に隣の家に待機して貰う事になったから、賊が忍び込んだら連絡してくれ」


「分かったわ。マリエルちゃんも大丈夫ね?」


「はい」


 たっぷりと飲み食いして会話を楽しんでから『タイガーケイブ』のメンバーは拠点に引き上げました。





 翌朝1番に、『タイガーケイブ』の男3人は馬車で町の外へ出かけました。


 町から見えない所で馬車を降りて民家に預かってもらい、商人に変装して拠点の隣の家に戻ります。

 先に隣の家に潜んでいた『ベアーファング』の冒険者5人と合流しました。

 後は刺客が襲ってくるのを待つだけです。



 私は土属性魔法が得意なので、空いてる時間に庭に落とし穴を作ります。


「マリエルちゃん楽しそうね?」


「はい、罠を作るのも楽しいですけど、賊が罠にハマルのを想像するのも楽しいですね」


「まぁ、意外とサディスティックなのね」


「でも、怪我をしない様に無力化するのですから、優しいと思いますよ」


「そうねぇ。悪人は殺してもいいと思うけど……」


「あら、リーゼさんの方がサディスティックじゃないですか」


「そうね、うふふふふ」





 深夜12時を過ぎました。

 私達は交代で仮眠を取っています。


「マリエルちゃん交代よ。起きて頂戴」


「は~い」



 私は電気を消してる部屋の窓から外を見ます。

 ところどころに緑色の丸い光がポツンポツンと見えていました。

 私は女神エイルの親友に成った事で、薬草採取の特殊能力があるのでした。

 女神エイルは医療の女神であり、薬草学の女神でもあったのです。

 エイルちゃんの能力が私にも加護として備わっていたのでした。


「あの緑色の丸いのは……、あっ『青紫蘇』あおじそって表示されたわ。きっと私が庭に刺したハーブなのね」



 他にもいくつか、緑に光る丸が見えます。


「向こうにあるのは……『ペパーミント』だわ」



 その緑の光が急に見えなくなりました。


「あれ? 野良猫に食べられちゃったかしら」



 暗闇に目が慣れてきて、何かが動くのが見えます。


 数人が2メートルの石壁を乗り越えて庭に降り立ちました。鉄製の正面ゲートは閉まったままです。

 たぶん、この窓から見えない所でも一斉に行動をしているのでしょう。



「ミレーヌさん、侵入者です」


「分かったわ、リーゼ起きて! 侵入者よ」


「う~ん、やっと来たのね」



 ミレーヌは通信魔導具でジルベルトに連絡します。


「来たわよ」


「了解、準備万端整ってるぞ」




「うわっ……」


 マリエルが2階の窓から見ていると、押し殺した短い叫びを残して人影が1つ消えました。



「うふふ、賊の1人が私の作った落とし穴に落ちたみたい。中には下水スライムが10匹入ってるの、きっと装備と服が溶けて裸になってしまうでしょうね」


「へぇぇ、面白い罠を作ったわね」



「他にも色々と面白いのがありますよ」


「そう、楽しんでるのね」


「はい」



『オラもワクワクすっぞぅ!』


 インベントリの中からアダモちゃんの声が、私だけに聞こえました。


「あ痛たたたっ……。アダモちゃん、頭痛にしないでっ!」


『は~い』

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