第87話 暴漢退治

 私達は人気ひとけの少ない裏路地で、4人の暴漢と対峙しています。



「鋼鉄ジークン、やっちゃって!」


 私は、もう1体のゴーレム『鋼鉄ジークン』をインベントリから呼び出しました。


 ジークンは無表情で自然体のまま、その場に立ち尽くしています。

 暴漢との間に『ソヨ……』と風が吹き抜けていきました。


「……」



「なんだ、この爺は?」

「先にやっちまえっ!」


「コノヤロー」


 ドカッ!


 悪者の1人が鉄棒でジークンを殴りつけました。


 ビリビリビリビリッ……ジィイイイイインッ!



「ゥワッ、イッテッ、手がしびれちまったぁぁぁ!」


「……」


 鋼鉄ジークンはびくともしません、しれっとしています。




「オゥオゥオゥ、俺達に勝てるとでも思ってんのかぁ、ジジィの癖によお!」


 もう1人の男が与太よたりながら近づいて、ジークンの足に蹴りを入れます。


 ドカッ!


「ゥワッ、イッテェェェッ!?」


 ゴロゴロゴロゴロ……、


 逆に、蹴った男が倒れて、すねを抑えて苦しんでいます。



 ミレーヌが呪文を唱えて、鉄棒を持ってる男に【火炎弾】を撃ちました。


 ボッ、シュゥゥゥッ、ドォンッ!


「ウワァチチチチィィィッ!」



「アダモちゃんも、イッケェェェッ!」

『は~い!』


 私はアダモちゃんもインベントリから呼び出しました。



『はぁあああああっ!』

 ズッゴォオオオオオンッ!


 アダモの掌底拳しょうていけんが後方にいた男の腹に炸裂します。


「ぅげっぷぅ!」



『たぁあああああっ!』

 ドッゴォオオオオオンッ!


 アダモの掌底拳が続けて隣の男にも炸裂します。


「あがぁぁぁっ!」



 アダモは2人の男を軽くねじ伏せました。


『おちゃのこさいさいですぅ』



 アダモとジークンは、アッという間に4人の男を組み敷いて動けなくしました。

 私は火傷してる男を【治療】してあげます。


 ホワワワワァァァン!


「あっ、ありがてぇ……」




「あなた達は両替商から付けてきたのね?」

 ミレーヌが聞きました。


「……」



「アダモちゃん、踏んでちょうだい」


 むっぎゅぅぅぅぅぅっ!


「うぎゃあああっ! ……そうだ、そうだよっ、足をどけてくれぇぇぇっ」



「こういう事をよくやってるのね?」


「はっ、はじめてだぁ……」



「アダモちゃん……」


「まっ、待ってくれえええっ。やってるよ、やってますって、その為に雇われてるんだからよぅ」


「俺たちゃボディガードしながら荒稼ぎしてたんだ。でも1番悪いのは、あのババアだぜ、俺達が襲って奪った稼ぎも上前をはねやがるんだぜ」



「領主に訴えて罪を償わせましょう」


「ケッ、婆と領主は仲がいいんだ。つるんで色々と悪い事をしてるのさっ」



『ご老公様、そ奴らを懲らしめてやりましょう』


「アダモちゃん? あいたたたたたっ、頭がいた~い……」



「領主がグルとなるとやっかいだわね、帰って皆と相談しましょう」


「はい」



『御嬢様、ロープを出して下さい。この者達を拘束しますぅ』


「はい。アダモちゃんは私の持ち物を全て把握してるの?」


『インベントリの中で暇だから、アイテムを使って遊んでいましたぁ』



「中で遊べるんだね?」


『はい、無限の空間で時間経過もありませんから、永遠に遊んでいられますぅ』



「私も入ってみようかしら?」


『生きてる生命体は収納出来ませ~ん、死体なら入れますぅ』



「ふ~ん、アダモちゃんはインベントリの中で遊んでるんだぁ。お勉強はしないの?」


『しませんっ!勉強したら負けだと思ってますぅ。俺はまだ、本気出してないだけですからぁっ!』


「痛い痛い痛いっ、頭がいた~い。また記憶の底を刺激されましたぁぁぁっ!」



「はいはい。とりあえず、この男たちを連れて帰りましょうね」


「「は~い」」




 ◇ ◆ ◇




「そんな事になってたのかぁ……」


「どうしようか? 相手が領主とつるんでるなら厄介だなぁ」


「だけど、このまま放って置くのもくやしいしなぁ」



「とりあえず、この男達は強姦強盗未遂でギルドに引き渡しましょう。衛兵ではなく冒険者ギルドにっ」


「冒険者を襲ったのだから冒険者ギルドに引き渡す事はできるけど、結局衛兵に渡されて領主の所に連れて行かれて、うやむやにされてしまうのだろう?」


「あぁ、でもギルドの記録に残せるから、領主と両替商を何とかする時の証拠には成るかもしれないぞ」


「そうだなぁ……」



「それより向こうから襲わせて、正当防衛で返り討ちにするのが手っ取り早い方法だと思うんだが?」


「ふ~む、被害者が居なくなれば、事件を訴える者も居なくなる。ミレーヌとマリエルを始末しに来るかもしれないな……」



「私達は賊をおびき寄せる餌になるのね?」


「あぁ、そうだ。覚悟して準備しておいてくれ」


「分かったわ」



「領主と一戦交えるのかぁ……」


「まさか、白昼堂々と衛兵を使う事はしないだろうから、深夜に刺客を送ってくるんじゃないか?」


「そうだな……罠でも仕掛けとくか! 信頼できる他の冒険者パーティーにも協力して貰おう」



「深夜にこの拠点を襲わせるなら、確実に襲う様に誘ってやりましょうよ」


「そうだな『飛んで火に居る夏の虫』って状況にして待ってやんよ!」


「おぅ」



「それなら男性メンバーが出かけて、ここに居ない事にしたらどうかしら?」


「おっ、リーゼ。お主も悪よのう」


「じゃあ、用事で町の外へ出かけると噂を流そうぜ」


「そうだな、食堂で飯を食いながら言いふらそう」



「それにしても、お嬢ちゃんはゴーレムを同時に2体も動かせるとは魔力が多いんだなぁ」


「そうなんですか?」


「あぁ、ゴーレムを作るにも稼働するにも魔力を結構消費するって言うぞ」


「まったく意識してませんでした」


「用が無い時は止めといた方がいいわね」


「はい」



 私がアダモちゃんを見ると、イヤンイヤンと顔を横に振りました、ジークンは無表情です。

 私はそっとステータスウインドウを開いてMPを確認しましたが満タンの侭でした。でも今は言われた通りにしたいと思います。


「アダモちゃんとジークンをインベントリに収納!」


 シュィイイイイインッ!




「彼らはここを襲ってくるかしら?」


「俺達はこの辺境の町のトップクラスの冒険者パーティーで名も知られているから、奴らはスグにこの家を見つけるだろうな」


「それにミレーヌも有名人だしね」



「あぁやっぱり、ミレーヌさんは美人だから有名人なんですね?」


「まぁ、嬉しいわ。マリエルちゃんもとっても可愛いわよ」


「あぁ、はいはい。それもあるだろうけど、ミレーヌは雪豹人族のお姫様だからなんだ」



「今は一介の冒険者よ。それに成人女性をお姫様って呼ばないでよ」


「はい、王女様」


「はい、はい。滅亡した国の王族でしたぁ」

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