第9話 ジュディの幸せ

 カピバラの名前はピーちゃんにしました。

 日本で飼っていた黄色のセキセイインコの名前を貰ったのです。


「ジュディ、おにわにピーちゃんの、おうちを作ってほしいの」


「はい。……ですが、私は大工仕事ができません」


「イヌごやぐらいの、おおきさでいいのよ」


「はい。私は犬小屋を作った経験がないので……、すいません」


「じゃあ、ルイスにたのんで、くれる?」


「はい……。お嬢様、一緒に行って頂けないでしょうか?」


 ジュディは又、体をくねらせモジモジしてます。



「もう、しょうがない、こどもね~」


 私とジュディは手を繋いで、護衛騎士の休憩室に向かいました。

 ジュディはとても嬉しそうです。



「ねぇ、ジュディ。もっとせっきょくてきに、なったほうが、いいのよ」


「はい。でも~、そういう経験が無くて~」


「おとこは、にぶいから。おんなから、さそわないと、わからないの」


「はい……わかりました」




 ジュディが休憩室のドアをノックします。


 コンッ、コンッ、


「どうぞ~」


 ガチャリッ、


「お嬢様!」


 休憩中の2人の護衛騎士が立ち上がり、マリエルに敬礼しました。

 残念ですがルイスはそこに居ませんでした。ジュディがガッカリした顔をしています。



「わたしのピーちゃんのおうちを、おにわにつくって、ほしいの」


「畏まりました」

 ロベルトが応えました。


「ルイスにおねがいしたいの」


「ルイスは大工仕事をしたことが無いと思いますが……」


「じゃあ、ロベルトがおしえてあげて」


「はい、畏まりました」



「おおきめの、いぬごやぐらいで、ねわらをいっぱい、いれてね」


「子馬が1頭入るぐらいで、いいですか?」


「うん、ピーちゃんは、すぐ、おおきくなるからね」


「はい、畏まりました」



「ルイスは、どこにいるの、おしごとしてるの?」


「はい、今は門衛をしています」


「そう」




 私は休憩室を出てからジュディに言いました。


「モンまで、オサンポしましょう」


「はい」

 ジュディの顔がパーッと明るくなりました。


(こいするおとめ、なのねぇ)



「ジュディ、ルイスとケッコンしちゃえば?」


「ヒッ、そんな……恥かしい……」


 ジュディは何か妄想してるのか、虚ろな表情でボーッとしながら門まで一緒に歩きました。




「ルイス!」


「はい、お嬢様」


「ロベルトにおそわって、ピーちゃんの、おうちをつくってね」


「はい。畏まりました」



「それと、ジュディをおよめさんに、してね」


「はい。畏まり……えぇぇっ!」


「いや、なの?」


「いいえ……」



「だれか、すきなひと、いるの?」

「いいえ……」


「こんやくしゃとか、いるの?」

「いいえ……いません」


「おしろのなかで、ジュディが、いちばん、かわいいでしょ?」

「はい……」


「かわいいでしょっ!」

「はい、とっても可愛いですっ」



「こどもができたら、わたしの、おともだちにしてあげるわ」


「はい、よろこんで!」


 ジュディは真っ赤に成ってうつむいているだけでした。



 ◇ ◆ ◇ ★



 夕食時、


「ママン、ジュディとルイスのケッコンをゆるしてあげて、ほしいの」


「まぁ、ジュディはルイスが好きだったの?」


「はい」


 ジュディは下を向いた侭、小さく返事をしました。



「ルイスもジュディが好きなのね?」


「はい」


「それじゃあ、問題無いわね。結婚を許可します」


「ワ~イ、おめでと~」


「「有難う御座います」」


 2人はお互いに目が合うと、赤くなって下を向きました。


(ふたりとも、こどもね~)



「ママン。ふたりを、わたしのせんぞくに、してほしいの」


「ジュディは、もう専属側使えに成ってるから、ルイスを専属護衛騎士に取り立てるわね」


「うん、ママンありがとう」


 ルイスとジュディの顔を見ると、嬉しそうにニッコリ微笑んでいた。



「ふたりとも、よろしくね」


「「はい、畏まりました」」


 ◆ ▽ ★ □


 ケンちゃんは私の右の席でジーッと座っていました。

 ピーちゃんも私の左横のフロアでジーッと座っています。

 時々、私がサラダをピーちゃんに上げると、行儀よく口だけ動かして食べるのでした。


 ケンちゃんは(俺も食べたいな~、けどママンがいるからな~)と考えていました。


「マリちゃん、ママンに言ってよ。俺も食べるって」


「オニンギョウが、たべたらおかしいでしょ」


「でも~……食べたいな~」



「うふふ、ケンちゃんも食べていいわよ」

 きこえてたっ!


「ママン奥様ありがとう。いただきま~す!」


 ガツ、ガツ、ガツ……、んっぐ、んっぐ、んっぐ……。



「ママン、ケンちゃんのこと、こわくないの?」


「あら、魔石で動く人形は魔道具屋さんで売ってるわよ」


「ケンちゃんのほかにも、うごくニンギョウあるんだ~」


「そうね~。ケンちゃんは普通のお人形だった筈だけどね~」


「……はははっ」


 ケンちゃんは笑って誤魔化しました。





 翌日から、ルイスはピーちゃんのおうちを作り始めました。


 私達はお庭で作業を見学しています。

 ピーちゃんは、お庭の草を美味しそうに食べていました。


 ジュディが時々お茶とお菓子を運んで来ます。

 ポカポカで気持ちの良い日差しが降りそそいでいました。


 ペットのお家と言っても、領主のお庭なので、ちゃんと作らないといけないらしいのです。

 その日はまだ完成しませんでした。






「エイルちゃん、こんばんは。

 ルイスとジュディが結婚しました。

 2人を祝福してあげて下さいね。

 カピバラの名前はピーちゃんにしました。

 いつも見守ってくれて、ありがとう。

 おやすみなさい。

 親友マブダチのマリエルより」




「マリエルちゃん、こんばんは。

 ルイスとジュディの結婚おめでとう。

 私達の神様が、2人を祝福して下さることでしょう。

 カピバラのピーちゃんも可愛い名前ですね。

 おやすみなさい。

 親友マブダチのエイルより」

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