第39話 アースガルズ

 夏祭りは今日で最終日です。


 初日の従魔騎乗競争で優勝したけど転んだまま拉致されて、2日目は城と砦を奪って領土を広げて。

 3日目の最終日の今日、やっとお祭りを楽しめます。


 屋台を回って買い食いをして、射的(弓)や金魚すくい(めだかみたいな魚)やくじ引き(紐を引っ張ると景品に繋がってる)をして、日本の夏祭りと楽しみ方は似ています。

 舞台があって、素人が歌ったり、踊ったり、芸を披露したり、劇を演じたりしていました。



 夜に成ると花火が打ち上げられて、キャンプファイヤーを囲んでダンスが始まりました。

 田舎町の男女の出会いの為に欠かせない行事だそうです。

 私達は10歳なので、恋愛はまだ早いですけど、平民のお兄さんやお姉さん達は、着飾ってチャンスを伺ってると言いう事です。

 トランペットやギターやドラムのような楽器で、フォークダンスのような陽気な音楽で踊りを楽しんでいました。



 私達は踊りの輪の外から眺めていましたが、王子がソット私の左手を握ってきました。

 綺麗な柔らかい手です。側使いが毎日手入れをしているのでしょう。

 私の手もメアリィが毎日手入れをしてくれます。


 数秒経って、反対側に居たブランが私の右手をソット握ってきました。両手にショタです!

 私から離すことは出来ませんでした。だって、それは失礼な事ですものね!

 それに、どちらから離せば良いのでしょうか?

「一斉の~せっ!」でしょうか?



「お嬢様、あまり遅くならないうちに屋敷に引き上げますよ。これからは年頃の男女の為の時間です」


「はい、ジュディ。そろそろ帰りましょう」


 ジュディに話しかけられたのをキッカケに、私は2人の手をソット離しましす。

 ちょっと、甘酸っぱい気持ちに成りました。




 男の子5人と女の子3人で、夜が更けぬうちに屋敷に帰ります。

 誰かが抜け駆けして、何処かへ居なくなる事はありませんでした。

 少しドキドキしてましたが10歳ですから、さすがに2人だけで逢引するのは未だ早いですよね。



 屋敷に帰ってから眠くなる迄、皆でゲームやナゾナゾをして過ごします。


「男1人と女3人のパーティが魔物の群れに襲われましたが、男だけが助かりました。な~ぜだっ?」


「「「う~ん……」」」



「タマタマ付いてたんだって!」


「「「やだ~!」」」

「「「はははははっ!」」」



「又今度は、男3人と女1人のパーティが魔物の群れに襲われましたが、女だけが助かりませんでした。な~ぜだっ?」


「「「う~ん……」」」



「タマタマ付いて無かったんだって!」


「「「まぁ!」」」


「「「はははははっ!」」」


 皆は明日、それぞれの実家へ馬車で帰ります。






 翌日、私は馬車でそれぞれの実家へと帰るお友達を見送りました。

 私達家族は、もう暫くリヒテンシュタインに滞在します。

 お父様も国境警備からまだ帰ってきていません。


 お友達が帰ってからは家族水入らずでマッタリしました。

 お爺様、お婆様、お母様、5歳違いの弟のエルクラインくんと、勿論ピーちゃん、ケンちゃん、スズちゃんも一緒です。



「お爺様『虹の橋ビフレスト』の事なんですが、どういう効果が有るのですか?」


「エルフや精霊の住むアースガルズへ行く事が出来るのじゃ」



「領都ウォルフスベルクの市場に居るエルフさんやドワーフさん達は関係有るのですか?」


「勿論じゃ、マリエルがギフトを持ってるから、彼らは直接街へ来れるのじゃ」



「ここリヒテンシュタインのお祭りの屋台でも、亜人さん達が商売してましたけど?」


「彼らも、マリエルのギフトのお陰で直接この街に来てる筈じゃ」



「私はどうやってアースガルズへ行く事が出来るのですか?」


「森に入って『虹の橋ビフレスト』と言えば虹色に輝く橋が現われるのじゃ。マリエルが心を許した者は一緒にアースガルズに行く事ができるぞ」


「お爺様、ありがとうございます。私はアースガルズへ行って見ようと思います」


「ワシもお婆さんと一緒に行った事がある。とても素晴らしい所じゃった」


「そうですね、お爺さん」



「クロッシュアが居ない今の内に、家族皆でアースガルズを訪れようかのぅ」


「まぁ、お爺様ったら。 でも、もうすぐ夏休みも終わりですから、今の内に行きましょうか。 ルイス、馬車の用意をお願いします。2台用意して下さいね」


「はい、畏まりました」


 お母様がルイスに馬車の用意を頼みました。




 私達は別荘を出て、近くの森に馬車で入って行きます。


 少し開けた場所まで来ると、お爺様が仰いました。


「この辺りで良いじゃろう。マリエル『虹の橋ビフレスト』と唱えるのじゃ」


「はい、お爺様……『虹の橋ビフレスト』!」


 キラキラキラキラッ!

 ピッカァアアアアアンッ!


 数10メートル先から光が溢れ出し、幅20メートル程の虹色に輝く橋が現われました。

 橋は緩やかなカーブを描きながらズーッと上空に昇っていきます。

 まるでスカイツリーの様な幹を持つ大樹が雲の上まで聳え立っていて、橋はその大樹の幹を回り込むようにカーブして登っていました。


 橋の入口の両側には大理石の台座の上に6枚の羽を持つ2体の石像が座っています。

 石像は乳白色の大理石に座っていて、メノウやオニキスや琥珀が程よく混ざり美しく煌いていました。

 2体の石像の上には輪を描いて飛ぶ『炎の剣』が回っています。


「あれはケルビムじゃ。神との約束を破った人属が橋を渡らないように、ここを守っておるのじゃ。 我々は、このまま真っ直ぐ通り抜けようぞ」


「マリちゃんのお爺さん。俺もこのまま一緒に行っても大丈夫かなぁ?」


 ケンちゃんが心配そうにお爺様に聞きました。


「マリエルが一緒に行きたいと思ってる者は大丈夫じゃ、心配するでない。信じるのじゃ、神は信じない者を受け入れぬぞ!」


「はい、信じます、信じます! 一緒に行かせてくださ~い」


 ケンちゃんは両手を組んで頭を下げていました。深~フカブカ~と。



 2台の馬車は無事に橋の入口を通り抜け、緩いカーブの橋の上をスムースに昇って行きます。

 やがて中空に浮かぶ広大な大地が見えてきました。

 馬車の周りを小鳥ぐらいの小さな妖精達が纏わりついてきます。


「こんにちは、妖精さん」


「ウフフフフ」

「アハハハハ」



「妖精さん、楽しそうね」


「ウフフフフ」

「アハハハハ」



 色とりどりの花が咲き乱れる綺麗な草原が広がっていました。

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