第99話 新皇帝
私はエッティンと共にヨトゥンヘイム帝国首都ガストロープニルにやってきました。
ズンズンと突き進み、とうとう赤い絨毯が敷き詰められた謁見の間に通されて、広間中央に
◇ ◆ ◇
メングロズ女帝はエッティン将軍の帰還を宰相から伝え聞いて、謁見の間に向かい玉座に座りました。
(この内の誰かが勇者なのだろうか?)
謁見の間の両側には、レーバテイン出現の報告を聞きつけた魔族王、上級魔族、大臣達が居並んでいます。
謁見の間に沈黙が広がり、重い空気が漂っていました。
シィイイイイイン……
メングロズは暫く、ジィィィッと、見つめていましたが。何気に漂う、良い匂いが気になりだして、クンカクンカと嗅ぎだしました。
「う~む、……スゥゥゥ、スゥゥゥ」
メングロズは匂いを嗅ぎながら玉座を立ち、階段を下りて行きます。
宰相が声を掛けました。
「あの、陛下?」
「よい、控えておれ」
「はっ」
ゆっくりとエッティン将軍の横を過ぎて、私に近づいて行きます。
ザワザワザワザワ……
「クンカクンカ……、ふ~む、スゥゥゥ、ハァァァ、スゥゥゥ、ハァァァ……」
鼻がくっ付くかと思うほど接近して、私の首から耳裏まで嗅ぎまくります。
「エイルの魔力匂じゃ! そなた、エイルの眷属なのか? それに種々の希少な薬草や鉱石の匂いもする!……
メングロズは私の首筋をペロリと舐め上げました!
「なっ、何と!」
宰相が呟いた。
ザワザワザワザワ……
魔族の風習で、公の場での首を舐め上げる行為は、権力継承を意味する『しきたり』だったのです。
宰相が慌てて音頭を取ります。
「新皇帝陛下バンザ~イ!!」
「「「バンザ~イ、バンザ~イ、バンザ~イ」」」
「前皇帝陛下バンザ~イ」
「「「バンザ~イ、バンザ~イ、バンザ~イ」」」
(しっ、仕舞ったぁぁぁっ! 思わず舐めてしもうたわぁぁ!)
そう言えば、我が父が私を可愛がりすぎて、公式の場で私の首を舐めてしまい。
「我が娘を後継者にいたす」と言った事が、この『しきたり』の始まりであった。
ヨトゥンヘイム全土の魔族王が真似した事で、『しきたり』と成ってしまったのじゃ。
「はぁ……」
とりあえずこの事は置いといて、我が父の
◇ ◆ ◇
一方で私は、魔族頂点に君臨するメングロズに舐められた事で【邪神飴】の呪いが解けました。
全ての記憶を取り戻したのです。
ピッキィイイイイインッ!
(アストリアに帰らなくっちゃ! 皆が心配しているわ!)
「エイルの魔力を引き継ぐ少女よ、わが父の病を
「はい。申し遅れました、私はマリエル・ウォルフ・レオポルドと申します。
「おぉそうか。皆の者、帝位継承に付いては後で説明いたす。今は一刻の猶予もならぬ前国王の治療をさせてほしい」
「「「ははぁ」」」
「マリエル嬢、付いて参れ」
「はい」
私はメングロズ女帝の後を付いて行きます。玉座の後ろの濃紺色のビロード製カーテンの後ろに入っていきました。
「マリエル嬢よ、前国王の体はヨルムンガンドに噛まれ毒が広がり、どんな治療でも治らぬのじゃ。多少は進行を遅らせてはいるのだが……」
前国王スリュムの右足の太ももにある噛み跡から毒が広がり、足は勿論、体まで腐り始めていました。
私は両手を患部に当てるようにして唱えます。
「【完全浄化】フルクリーンピュリフィケーション!」
シュイイイイイイイイイインッ!
とても強い毒で少しづつしか浄化できません。
「私達の天の神様、どうかお力をお貸しくださいませ。【完全浄化】フルクリーンピュリフィケーション!」
シュイイイイイイイイイインッ!
患部から徐々に肌色が戻り浄化していきます。しかし体は毒に蝕まれて、かなり朽ち果てていました。
私は自分の体をかぶせて、体全体で抱き付くように前国王を覆います。
「私達の天の神様、御心次第で清くして頂けます、どうか憐れみを以て御祝福くださいませ。【完全回復】パーフェクトヒール!」
シュイイイイイイイイイインッ!
前国王の顔色が良くなり、腐って朽ち果てていた体も徐々に復元していきます。
シュイイイイイイイイイインッ!
マリエルによる渾身の治療が終わると、前国王スリュムは完全な健康体に戻ったのでした。
「神様、有難うございます!」
バタンッ、
マリエルはベッドから立ち上がろうとしましたが、意識を失って崩れ落ち、10日間起きませんでした。
魔力が尽き、MPがマイナス10万以上まで下がり、体力はHP1で止まっていました。
普通はMPが0になるとHPが減り、HPも0になると命を失います。
マリエルはMPがマイナス10万以上となりましたが、HPは1から下がりませんでした。
私が寝ている間に、メングロズとの間で養子縁組が行われて養女と成り、正式に次期皇帝に決定しました。
ユグドラシルを統べる剣『レーバテイン』と、神が作った最強の獣『レヴィアタン』と、世界を支配する征服王の馬『ブケファロス』を前にして、魔族の誰も異議を唱える事は出来ませんでした。
意識を回復した私の手を取って、メングロズ女帝が魔族王の居並ぶ謁見の間に現れました。
「皆の者、わらわの養女マリエル・レオポルド・ヨトゥン女帝である。リバイアサンとブケファロスを従えて、レーバテインを掲げる者が私の後継者である」
「「「ははぁぁぁっ」」」
宰相が音頭を取ります。
「新皇帝陛下バンザ~イ」
「「「バンザ~イ、バンザ~イ、バンザ~イ」」」
「前皇帝陛下バンザ~イ」
「「「バンザ~イ、バンザ~イ、バンザ~イ」」」
ヨトゥンヘイム帝国首都ガストロープニルでは、祝賀パーティーが3日3晩を通して開催されました。
祝賀パーティーが終わった次の日の朝、
「
「我が子マリエルよ、それでは帝国軍を招集致しましょうね」
「有難う御座います
「そうですか、せめて将軍と魔導士団長を連れて行きなさいな」
「はい、畏まりました」
マリエル達はミズガルズとヨトゥンヘイムを隔ててるイヴィング川に来ました。
川に近づいて行くと誰も寄せ付けまいと、すぐに魔力障壁を守る龍ヨルムンガンドが姿を現します。
「グモオオオオオオオオオオッ!」
マリエルはレーバテインを鞘から抜いて高く掲げました。すると炎の剣が天を突き、それを見たヨルムンガンドは慌てて下流へと逃げ出して、大海に姿を消したのです。
ピッキイイイイイイイイイインッ!
魔力障壁が消えてイヴィング川に大きな橋が現れます。
閉ざされていた大陸が繋がり、再び往来が出来るようになったのでした。
対岸に渡った私は、まず『虹の橋ビフレスト』でアースガルズの王オーディンを訪れてから、共にアルフヘイムの妖精王フレイを訪ねました。
私はフレイに『レーバテイン』を献上して、平和協定締結を提案します。
「暴力を廃して、丁寧にゆっくりと飽きずに議論を尽くし、ユグドラシル全土で平和な世界を実現致しましょう」
お互いに誓約書を取り交わして握手を交わしたのでした。
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