第20話 ウォルフスベルクの街

 私はゴブリンの討伐部位と引き換えに、お父様から報奨金を頂きました。


「お父様、有難う御座います」


「うむ、ご苦労だったのぅ」


「はい、ケンちゃん。報奨金だよっ」


「マリちゃんのパパさん、有難う御座います」


「ふんっ」



「ケンちゃん、マジックバッグに入れといてね」


「オッケー」




 私達は自室に戻ります。


「マリちゃん、お小遣いが入ったから、街に買い物に行こうよ」


「ケンちゃんは、何か買いたい物があるの?」


「しいて言えば武器が買いたいけど、街や店をブラブラ見て歩きたいなぁ」


「ふ~ん。私達って町を歩かないからね、普段は馬車で通り過ぎるだけだものね」



 私は、側に控えてるジュディに聞いてみます。


「ねぇ、ジュディ。もうすぐ学院に入学するのだから、街を歩く事に馴れた方がいいでしょ?」


「いいえ、お嬢様。御令嬢は御自身でお買い物を致しません。欲しい物が有ったら私に言ってください、店の主人を呼び付けます」


「それじゃあ詰まらないわっ! お忍びで街に出ます。ルイスに護衛を頼みますから、庶民の服装を用意してください」


「……はい。それでは私とルイスがお供致します。準備が出来るまでお待ちください」



「キュルキュルッ?」


「まぁピーちゃんも一緒に行きたいのね。それじゃあ獣に間違われない様に、このバンダナを首に巻いてあげる」


 私は辺境伯家の紋章が入った黄色いバンダナをピーちゃんの首に巻き付けました。



「キュルキュルッ!」


「気に入って貰ってよかったわ。じゃあ行きましょう」



 私はケンちゃんを小脇に抱え、ピーちゃんの背中にまたがりました。


「レッツ、ゴォォッ!」



 私はジュディ達を待たずに部屋を出ました。スズちゃんは私の前に座っています。


「ピーちゃん重くなぁい?」


「キュルキュゥルッ!」(だいじょうぶっ!)




 私達はこっそりと抜け出したつもりでしたが、門で警備をしていたロベルトに止められました。

 そして、すぐにルイスとジュディが追いつきます。ルイスとジュディは普段着に着替えていました。


「お嬢様、おいてくなんて酷いです!」


「あら、お忍びですから」


「もう、今度したら『メッ』ですよ」


「ふふふふっ、ジュディは優しいから『メッ』できないよねぇ?」


「お嬢様ぁぁ……」




 お城を出ると周りは貴族街です。豪華な御屋敷が立ち並んでいます。


 暫くするとホテルや商店が見えてきました。庶民の家はその更に外側で街壁に近い所だそうです。

 私達はまず冒険者ギルドを見学します。ギルドはこれらの一画にありました。

 国境が近いためか結構な規模の建物で、スタッフや冒険者も沢山います。

 こっそり【鑑定】させて貰いましたが、あまり強い人はいません。魔法のレベルも高くなさそうでした。




 次に冒険者ギルドに隣接してる武器屋と防具屋を見ます。

 どちらも結構大きなお店です。


「ケンちゃんは体が小さいから、ナイフか短剣しか仕えないね」


「マリちゃんのナイトとして、剣で戦ってカッコいい所を見せたいけどねぇ」


「ファイヤーボールがあるから良いじゃない?」


「でも、広い所じゃないと火事が心配で使い難いよねぇ」



『確かに街中や森では火事が心配よね。それじゃあマリエルちゃんが認めた時だけ、ケンちゃんが大きくなれる様にしましょう』


「エイルちゃんありがとう。どうすればいいの?」


『何か合図の言葉を決めましょうね』


「じゃ~あ~、『ケンちゃんオオキクナ~レ、ケンちゃんチイサクナ~レ』で、いいかなぁ?」


『いいわよ。チョチョイのチョイっと……は~い、出来ましたよ~』



「マリちゃん、どう言う事?」

 ケンちゃんには女神エイルの声は聞こえません。


「ケンちゃん大きくしてあげる。『ケンちゃんオオキクナ~レ!』」


 ググググゥゥゥゥゥンッ!


 ケンちゃんは180センチぐらいの身長に巨大化しました。



「おぉぅ、これならロングソードを振り回せるよ! マリちゃん買って良いでしょ?」


「うん、買いましょう」



「よおおしっ! 前衛で魔物を狩り捲くるぞぅ」


「はい終わりぃ『ケンちゃんチイサクナ~レ』」


 シユウウゥゥゥ……、


「あぁぁ、もう小さくされちゃったぁ」



「だって大きいと知らない人が怖がるでしょ? ここは街中なんだからぁ」


「そっかぁ、しょうがないよなぁ」


 ケンちゃんはマジックバッグに買ったばかりのロングソードを収納しました。



「ケンちゃん。エイルちゃんにお礼を言ってね」


「うん。 若くて美しいエイル様、有難う御座います」


『まぁ、お上手だ事。火事対策も考えて水属性魔法も上げましょう』


「わーい有難う御座います。お久しぶりですね、綺麗な声を聞けて嬉しいです。これからも宜しくお願いしま~す」


『こちらこそ、マリエルちゃんを宜しくね』


「はーい、任せてください」


『じゃあねぇぇ』



「ケンちゃんにもエイルちゃんの声が聞こえたんだね」


「うん。8年ぶりに声を聞いたよ」




 次に薬屋さんでポーションを見ます。


「ポーションは結構高価だね」


「お嬢様。普通の回復薬も庶民には中々手が出せません」

 ジュディが応えました。


「私達のポーションは、薬屋さんの商売の邪魔をしないように、買う事が出来ない人に上げましょう」


「そうですね」




 次は魔道具屋さんです。


「魔道具も高いね」


「生活魔法の魔道具なら、庶民にも買えそうですね」

 とジュディ。


「灯りやオーブンの魔道具は、庶民の1か月分の収入ぐらいでしょうか」

 とルイス。


「マジックバッグはかなり高額で、貴族でないと買えませんね」



 結局その日はロングソードを1本買っただけでした。

 中央広場の亜人の屋台で、みんなで肉串を買い食いしてお城に帰りました。

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