第2章 アリタリカ帝国に留学

第61話 マリエル13歳

 マリエルはアストリア王国の魔法学院を3年生の終業式で辞めて、4年生からはロマリアにある聖アリタリカ神学院に通うことになっています。

 成人年齢の15歳迄の3年間、留学する事になったのです。


 〇 ▼ 〇


 去年の帝国議会委員会の聴聞会の後で、私はステラビィカ大聖女に相談されました。


「わたくしは、女神エイル様の御意思を最大限努力して叶えたいと思いますが、残念ながら人間は愚かで間違いを犯します。……マリエル様はそんな事はないのでしょうが」


「いいえ私も人間ですから結構間違いを致しますわ」


「あのぅ……マリエル様は、女神様が人間の娘を寄り代にしてらっしゃるのでは?」


「違います、純粋に普通の人間です」



「そうなのですか。……女神エイル様直々に御光臨下さって御指導して頂いたのですが、アリタリカ帝国内もフランク王国内も、女神エイル様の忠告に従わずに私腹を肥やす者は無くならないでしょう。

 そこでマリエル様にお願いがあります。アリタリカ神学院に留学してほしいのです。マリエル様が関わった土地は豊かに成り疫病も発生していません。マリエル様がいらっしゃった土地は、少なくとも飢饉と疫病から免れてるのです」


「それはエイル様のお陰で、私は何もしていないのですよ」


「それでも良いのです。それに他国の王族の子弟にも留学を義務付けようと思います。そうすれば学生達が交流を持ち、話し合いもし易くなり、戦争も起き難くなると思うのです。もしマリエル様がお友達の国を訪問すれば、その国は飢饉と疫病が無くなるでしょう」


「はぁ、皆さんがそれで幸せに成れると思うのでしたら、そう致しましょう」



「世界の貧しい民をどうぞ苦しみから救ってやってくださいませ」


「はい……私にはそんな力は有りませんけど、沢山お友達が出来る事はとても嬉しいです。お受けさせて頂きます」


(本当はローザンヌの自然豊かな野山で、のんびり植物や動物を愛でて暮らしたいのだけど、後3年アリタリカでお勉強しましょう)


 〇 ▼ 〇


 アリタリカ帝国議会はシュヴィーツ地方の帰属に関する委員会採決を発表しました。


『アリタリカ帝国議会、シュヴィーツ帰属査問委員会は次の様に和解案を採決した。

 シュヴィーツ地方の独立自治を認める事。

 世界の平和安定の為に女神エイル様の名の元に、各国の王族と上級貴族は成人するまでの3年間はアリタリカ神学院に入学する事。

 光属性魔法を有する女子は、聖女候補として貴賎の身分に関わらず神学院に入学する事』


 フランク王国や他の国の王子王女もアリタリカ神学院に留学する事が決まりました。

 ただし基礎課程は自国で学びます。あまり幼すぎる親元を離れる留学は、可哀想だと言う事らしいです。



 ステラビィカ大聖女はフランク王国産の高級品の数々を送り主に贈り返しました。

 そして、今回の経緯を調べ上げて帝国議会に奏上して、フランク王国に買収された担当神官を免職して、心付けを貰った神殿長を引退に追い込みました。

 議員神官には財産を拠出させて、自らも蓄えていた全てを売り払い、民に支給する糧食をアストリア王国から輸入したのでした。



 〇 ▼ 〇



 マリエルがアリタリカに留学してもアストリアの豊作は続きました。ケンちゃんの【転移門】スキルで簡単に行ったり来たりしてるかららしいのです。

 そして疫病も発生していません。溜池や上下水道の整備も影響してるのだと思います。


 幸いにも聴聞会以降、アリタリカ帝国もフランク王国も疫病は発生しませんでした。

 両国ともアストリアから食料を輸入したので飢饉も起きなかったのです。



 マリエルは神学院の寮に入る事に成りましたが、なんと最上階の最上級の部屋が用意されていました。


「王族を差し置いて、この様な豪華な部屋には住めません。普通の部屋にして下さいませ」

 と、辞退させて頂きました。


 何とか説得しましたが、それでも上級貴族用の部屋を頂きました。側仕えや護衛騎士がいるので、普通の部屋では狭いからと却下されたのです。


 側仕えはサッチャンのお母様ケイシー・ティルスとスズちゃんです。

 護衛騎士はマリエル騎士団員が2人づつ毎日交代で守ってくれています。

 サッチャンは基本的にローザンヌで宰相として執務をしています。

 スズちゃんは名目上だけの側仕えで、ケンちゃんとピーちゃんも一緒に寮で住んでいます。


 ピーちゃんは大人しくてえたりしませんので、大丈夫ですよ。

 基本的にペットは持ち込めませんが、従魔は他人に迷惑をかけない様にしつけてあれば良いそうなのです。



 学院が始まる前に寮内で顔合わせの為の集会が開かれました。

 紹介前に知らない他国の王族と会ってしまい、身分の上下関係が分からずに問題が起きない様にしたいそうです。

 13歳から15歳迄の色々な国からの王族が入寮していました。

 獣人族や魔族の国の王族もいるのです。


 兎人族のミミリル王女は、既に成人しているので学院には入れませんが、ケモミミやモフモフ尻尾が散見できます。早くお友達に成りたいなぁと、思いました。



「皆様始めまして、私は寮長のフレイストークと申します。どうぞ宜しくお願い致します。

 それでは、マリエル様からご挨拶をお願い致します」


(えぇ~っ、何で私が最初なのぅ? 各国の王子様達が居るでしょうにぃぃっ! もぅ)


 と、心の中で突っ込みましたが、声に出す事は出来ずに渋々と挨拶をしました。



「皆様始めまして、アストリア王国レオポルド侯爵の娘でマリエルと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 ザワザワザワ……


 そうなりますよねぇ~、王子王女より先に挨拶するなんて……。



「それでは続いて、アリタリカ帝国第3王子ボルグサーノ様、ご挨拶をお願い致します」


「はい……」



 各国の王子、王女、王族、上級貴族と挨拶が続き、最後に平民の聖女候補達が挨拶をいたしました。


「この寮は各国からの留学生を受け入れる為に新しく建てられました。皆様が初めての寮生と成りますので、仲良くしてくださいます様にお願い申し上げます」


 一連の紹介が全て終わると、次に寮の運営と生活方針について説明があるのですが、上級貴族以上の生徒は部屋に戻り、側仕えが代わりに説明を受けるのでした。

 因みに侯爵家であるレオポルド家は上級貴族だそうで、ケイシーが残って説明を聞いてくれます。

 中・下級貴族や側仕えが居ない平民は、残って自分で説明を聞かなければならないと言う事でした。

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