第35話 従魔騎乗競争

 スタートの号砲で50人程の参加者が、広場から一斉にスタートしました。


「ママ~、がんばって~」

「「おねえちゃ~ん」」


 スズちゃんとエルクラインくんとルディくんが応援してくれてます。


「えへへへへ~、がんばるね~」

 私は手を振って応えました。



「ママッ! もうみんな行っちゃたよ~。早くハヤク~」


「あっ本当だ~。じゃあ、行ってきま~す」


「「「行ってらっしゃ~い」」」


 私がスタートすると、パパンとエリザが斜めうしろに付き従うようにスタートしました。

 私達は他の出場者から離されて、殿しんがりに成っていたのです。




 パパンは『ガリミムス』という名の小型恐竜の魔物に騎乗しています。


「騎乗できる魔物では最速と言われてるのだぞ。国内に数頭しか居らぬのだ、はーはっは~。フンスッ」


「さすがお父様ですわ」


「そうじゃろぅ、そうじゃろぅ」

 と、スタート前に言ってました。



 私達は徐々にレース集団に追いつきますが、依然として最後尾を進んでます。

 先頭までは、既に百メートルぐらい離れてしまいました。


「ケンちゃん、このまま走ってスタミナを温存しましょうか?」


「マリちゃんは、最後に追い込むスタイルが良いの?」


「う~ん、ピーちゃんが無事にゴールしてくれて、皆が楽しんでくれればいいかなぁ」


「ふ~ん、そうなんだぁ」



「キュルキュルキュル!」


「えっ、ピーちゃんは前が遅いから余裕なの? もっと飛ばしたいの?」



「キュルキュルー」


「でもぅ、先が長いから、あんまり早く走るとバテちゃうよ」



「キュルーキュルッキュル!」


「えっ、スタミナバッチシなの! もっと前の位置に着けないと優勝が狙えないの?」



「キュールキュルキュル!」


「ゴール前の狭い街道で大勢を抜くのは難しいから、広い草原で好位置を取りたいんだね!」



「キュルキュル!」


「オッケー……ピーちゃん、イッケエエエエエッ!」


 ギュゥウウウウウンンンッ!



 ピーちゃんはコースが広い草原で、後方から大外一気に前集団をゴボウ抜きにしていきます。


「わ~、早いハヤイ!」


「マリエル、待ちなさ~い!」


「お嬢様~、置いてかないでくださ~い!」


 お父様とエリザも追いつけないようです、アッと言う間に後方に離れてしまいました。



「カピバラって、ユニコーンやガリミムスより早かったんだねぇ!?」


「マリちゃん、それは無いと思うよ。ピーちゃんは普通のカピバラを遥かに超えてるよね!」



「ふ~ん、エイルちゃんなのかな? エイルちゃん、ありがとう」


『えっ、私は何もしてませんよ。そもそも、私の管轄内にカピバラは居ませんから』


「「……」」



「ピーちゃんって何者なんでしょう?」


「キュルキュル」


「ピーちゃんは私の家族だって……勿論家族で間違いないわ、おほほほほっ」




 2番手集団が見えて来ました。バイコーンに騎乗してる男子達が居ます。

 ピーちゃんはここでもグングンと大外一気に抜いて行きました。


「あっ、マリー!」


「レクシ王子、お先に失礼致しますわ。おほほほほぅ……」


 2番手集団の先頭を走っていたクラスメートの男子達も、アッと言う間にゴボウ抜きにしてしまいました。

 なんとか、令嬢としてのたしなみを維持しつつ……?



 草原の放牧場の柵沿いをぐるっと回って、城へ戻る復路に入ります。

 5人の先頭集団が前を走ってるのが見えてきました。


「ピーちゃん、疲れてない? 無理しないでね」


「キュルキュル!」



 お城へ向かう最後の直線は、古くからの街道の為にあまり広くありません。


 残り500メートルで、不意に1人がラストスパートを掛けました。

 先頭集団から2人が着いて行けずに脱落します。

 ピーちゃんは、その2人をかわして先頭の3人を追い駆けました。



「キュールキュルキュール!」


「分かったわ、ピーちゃん」


 私は終始何もせずに掴まっていただけですが、ピーちゃんの背中にしがみ付いて空気抵抗を減らします。


 ギュゥウウウウウンンンッ!



 ピーちゃんは更にギヤを上げて、一気に先頭集団に襲い掛かります。


 3番手のバイコーンを抜き、2番手のナイトメアを抜こうとした時、目の前で先頭のダイアウルフが転びました。


 ガックンッ、ゴロゴロゴロンッ、


「「「きゃあああぁぁぁっ!」」」


 ゴール前で見ていた観客から悲鳴が上がりました。

 ピーちゃんの背中にしがみ付いていた私は何が起きたか分かりません。



 ガッ、シュゥゥゥッ!


 ピーちゃんは、転んだ人馬ならぬ人魔を避けてジャンプしたようです。

 ハイスピードからのジャンプで、空中を翔けた状態でゴールをして、その勢いで転がってしまいました。


 ゴロゴロゴロゴロゴロッ!


「「「きゃあああぁぁぁっ!」」」


 ゴール前で見ていた観客から、再び悲鳴が上がりました。



 放り出された私に騎士達が駆け寄ってきて覗き込みます。


「御嬢様、大丈夫ですか?」


「誰が勝ったの……?」


「ほぼ同時にゴールしましたよ」


「御嬢様、喋らないで下さい、救急搬送します」


「ありがとう……」


 ガックン、

 私は意識を失くしました。



 〇 ▼ 〇 ;



「知らない天井ですわ……」


 私は小さな部屋の病院のようなベッドに、1人で横になっていました。

 ケンちゃんも居ません。


 壁も天井も白1色で、窓はありません。鉄製のドアだけが朱色です。

 小さなキャビネット以外に何も置いてありません。



 私は体のアチコチに包帯を巻かれてますが、大怪我では無いようです。

 魔法を使う為にベッドから起き上がる事にしました。


「自分を【洗浄】【消毒】【乾燥】【回復】!」


 シュワシュワシュワシュワッ、

 ピッキィイイイイインッ、

 シュゥウウウゥゥゥ、

 ホワワワワアアアン!


「はぁ、サッパリしましたわ」



 そのままドアに向かい、ドアノブに手を掛けましたが鍵が掛っていて開きませんでした。


「別荘に、こんな部屋は無かったと思うけどなぁ。一体、何処の誰の家でしょう?」

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