第37話 サンクトガレン城を攻略

 鉄製のドアを開けると、私が閉じ込められていたのは廊下の端の最奥の部屋でした。

 白く細い廊下が伸びていて、突当りに椅子が置いてあり、犬人族の衛兵が1人で座っています。


「どうした、何故に娘を連れ出す?」

 衛兵が座ったままで聞いてきました。


「トイレですワン」



「そんな小さい子をロープで縛らなくてもいいぞ、可哀想だ」


「はいですワン」


 ミミちゃんは私の拘束を解いてくれました。

 2人はとりあえず化粧室に向かいます、女性用の化粧室に一緒に入りました。




『CQ、CQ、こちらケン、こちらケン、マリちゃん聞こえますか、オーバー』


『ケンちゃん、聞こえるよ。そっちは準備できた?』


『うん、マリエル隊のメンバーは揃ってるよ。あと、マリちゃんのお父さんにも事情を説明しといたよ』


『そう、パパンはどうするつもりかしら?』


『辺境伯様は辺境伯軍と国境警備隊を非常呼集して、ほぼ全軍が別荘の庭に集まるらしいよ』


『そう、じゃあ私が城を占領するから、後で【転移門】で軍隊と一緒に来てね』


『えっ、1人で城を占領するのっ! そんな危ない事しちゃダメだよぅ! アッ!』


 シュィイイイイイン!


 化粧室にピーちゃんに跨ったケンちゃんとスズちゃんが出現しました。



「あ~あっ、マリちゃんが心配かけるから、勝手に【転移】しちゃったよぅ!」


「ケンちゃんを【ブラインド】!」


 ピッキィイイイイインッ!


「アグッ! マリちゃん酷いよぅ」



「ここは女性用化粧室なのっ! 見ちゃダメなのっ!」


「だってぇ、特記事項の【マリちゃんと一緒】が勝手に発動しちゃったんだから、しょうがないよぅ」


「化粧室を出たら直してあげるよ」


「じゃあ早く出ようよ」


「うん、見張りの衛兵が居るから……スズちゃんお願いね」


「はいママ」



 スズちゃんは【忍術】の【隠密】を使って、気付かれずに見張りに近づきます。

 そして、アッと言う間に衛兵を気絶させました。

 ケンちゃんは衛兵の手と足に農業用のズタ袋を被せて、その上からロープで縛り、衛兵を身動き出来なくしました。


「へへ~、こうして縛ると、まず拘束を解く事は不可能なんだよ」


「そんな事、何処で教わったの?」


「ネットで見たよ」


「雑学王なの、ひらめきなの?」


「引き篭もりをちょっとコジラセチャッタだけだよ!」


「ふ~ん、役に立って良かったね」


「うん」



「あの~、マリエル様。この方達は?」


「あっ、紹介が遅れてご免なさい。黄色いクマの人形が幼馴染おさななじみのケンちゃんで……」


「人形が幼馴染……」



「大きなネズミに似てるのがカピバラのピーちゃんで……」


「大きなネズミに……」



「黒い猫耳のバステトが娘のスズちゃんです」


「バステトが娘……」


「「よろしくね」」

「キュルキュル」



「兎人族のミミリル・ソラランドです。よろしくお願いします……個性的な方達ですね」


「私の大事な家族なんですよ。仲良くしましょうね」


「「「はい」」」

「キュル」




「じゃあ、このメンバーで城を乗っ取りましょう」


「「「オオゥ」」」



「殺さないで無力化してね、私も【フラッシュ】と【ブラインド】と【石化】を使うから」


「オッケー」



『ケンちゃんオオキクナ~レ!』


 グググググウウウウウンッ!



「キャッ! 私達兎人族はクマが苦手なんです…ご免なさい」


「ミミちゃん、驚かしてご免ね。戦いの間だけだから、我慢してね」


「はい」






 遭遇した敵兵を私が【フラッシュ】して、ピーちゃんとケンちゃんとスズちゃんが【水弾】【土弾】【峰撃】みねうちで倒していきます。

 私達は無詠唱なので、簡単に先手を取って倒す事が出来ました。


 この世界の住人は詠唱せずに魔法を使えないのです。

 しかも、私の使う【フラッシュ】は光属性魔法の為、とても強力です。

 アンデッドだったら、一瞬で浄化してしまう程です。


 犬人族に限らず、獣人系の亜人は基本的に魔法適正が低いので、『魔法で初撃し武器で倒す』と言うパターンで攻撃するのが有効らしいです。

 私達は魔法だけで制圧してしまいましたけど。


 私達は城を完全制圧する為に、全ての部屋を巡り、全ての敵兵を無力化していきました。

 途中でミミちゃんの家族である王と王妃と王子も見つけたので解放します。

 そして、地下牢に閉じ込められていた残りの兎人族も助け出しました。


 最後に、この城の城主で犬人族の王を玉座に追い詰めて、足を【石化】して、その場で拘束しました。



「む、無念だ!」


「貴方の家族は何処に居るの?」


「手前の部屋に居たはずだ」


「あっ、あの人たちね」



「我々犬人族は実力至上主義だ。世襲制では無く強者が王に成るのだ。血縁の家族を抑えられても服従しないぞっ!」


「そう……」



「ケンちゃん【転移門】でパパンと兵隊さんを招きましょう」


「うん。リヒテンシュタインに【転移門】オープン!」


 ブゥウウウウウンッ!



「マリエルゥゥゥッ!」


 パパンに抱きつかれ頬ずりされて、沢山泣かれました。



「無事で良かったぁぁぁっ! どこも怪我をして無いのか、怖くなかったか?」


「ありがとうございます、大丈夫です」


「そうかそうか……グスン、ズビビッ」


 パパンは涙と鼻水がダダ漏れでした。



「競争は誰が優勝したのですか?」


「勿論マリエルだよ」



「えへへへへぇ、うれしいなぁ。パパン、この城はミミちゃんに返してあげてね。それでぇ、フランク国との領土をこの山の下の川で国境にしてね。こっちはアストリアのレオポルド辺境伯領でいいですよね」


「川のこちら側は軍を展開して我が領にすれば良いのじゃな、ミミリル・ソラランド王女はこの城と周辺を領主としてアストリアに向かえ入れよう」


「有難う御座います、粉骨砕身にて領地を守らせて頂きます」


「よかろう、しばらく治安維持軍を駐留させて、城と領地を安定させて、国境を堅持するとしよう」


「はい」



「この城は兎人族の居城として我々は砦に国境警備隊を配置しよう」


「はい、必要な事が有れば是非兎人族に御命令下さい、協力を惜しみません」



「パパン、私とミミちゃんはお友達に成ったのです。宜しくお願いします」


「そうか。マリエルの友達なら特別扱いしないとならないな」


「はい」



「この山塊と森は全て、マリエルを人質にした罰として、レオポルド辺境伯領に組み入れてしまおう」


「はい、でもミミちゃんの土地はミミちゃんに返してあげてね」


「勿論じゃ、兎人族以外の土地を辺境伯領として、ソラランド王女を庇護下にお守りしよう」


「有難う御座います。兎人族はレオポルド様の家臣として、この地を治めさせて頂きます」


「うむ、殊勝な考えよのぅ、客将として扱わせて頂こう」



 軍は周辺の砦を攻略して、西の川までの土地を庇護下に置きました。

 フランク王国に対して川と谷を防衛線として国境を大きく西に広げたのです。


 山と森が多くて平地の少ない土地ですが、鉱物と水源と山の恵みに溢れている豊かな土地のようです。

 畑は少なく牧畜が盛んな様でした。

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