第15話 温室と弟

 マリエルは屋敷の庭に温室を作って貰いました。


 草原で採取したハーブの花を庭に植えていたのですが、冬の間に枯れてしまいました。

 それに気付いた父が温室をプレゼントしてくれたのです。



「お父様ありがとうございます。マリエルはお父様が大好きです」


「うむ。良かったのぅ」


 そう言ったお父様は、澄ましてお部屋に戻って行きましたが、ガラスに映っていたその顔は、目尻が下がってデレていました。


 お父様は私が生まれてからは、侵略を控えて内政を重視しているそうです。

 私の特記事項の所為でしょうか?

 とにかく、悪徳領主としての姿は見られなく成ったそうです。

 早く跡取りの男の子が生まれると良いですね。



 私は、さっそくケンちゃんのお腹のマジックバッグから、ハーブを取り出して温室に植えました。

 そして、魔法の効果を高めるマンドレイクの栽培にも挑戦します。

 マンドレイクはその特徴から、採取しにくく高価なのです。

 ポーションを売って儲けようなんて思っていません。元々ハーブや花が好きで興味があったのです。


 東京では庭が無かったので、窓際で小鉢にお花を植えてました。

 それが今は、大豪邸の庭と教室ぐらいの広さの温室で植物を栽培しています。

 それだけでも、とっても幸せなんです。



『マリエルちゃん、マンドレイクは土地の魔素が薄くなると、濃い土地に歩いて移動してしまいます。毎日少しづつ、水を上げる様に魔力を注いで上げれば、安定して栽培出来ますよ』


「そうなんですね。エイルちゃん、教えてくれてありがとう。……ところで繁殖はどうするのかしら?」


『マンドレイクは雌雄同体しゆうどうたいなのよ、複数の個体を近くで栽培すれば雨季に成ると生殖するの。けれど1つ1つも株分けして土の中で成長するので、年に数回増えますね。死期が近づくとザクロの様な実が出来るので、株ごと抜いてポーションにしてくださいね』


「はい。いつも教えてくれてありがとう」


『どういたしまして!』






 数日後、お母様に言われました。


「マリエルに弟か妹が出来ますよ」


「まぁ、お母様おめでとうございます」


「ありがとう」




 私が8歳の夏、元気な男の子が生まれました。

 両親は大喜びです。もちろん私もです、前世では1人っ子でしたから。

 名前は『エルクライン』くんです。



「始めまして、私がお姉ちゃんですよ~」


「アウアウ~」


「沢山遊んでくださいね~」


「アウアウ~」


 金髪に碧眼は私と同じです、ステータスも生まれた時の私と同じで平凡だったらしいです。

 だけど、特記事項やギフトは無かったそうです。

 平凡でも私が守るから問題ありません。


 エルクラインくんの為に護衛騎士と側使えが新たに雇われました。

 私の時よりも多いですが、跡継ぎだから当然だと思います。



「ねぇねぇマリちゃん、俺達みたいに転生じゃないのかな?」


「ケンちゃん、まだ分からないけど違うと思うよ」


「どうして?」


「普通の赤ちゃんにしか、見えないからだよ」


「そう……」



 バステトのスズちゃんは黒髪黒目の可愛い猫耳幼女に成りました。成長が早く私より少し小さくて、私のお母様を『お母様』と呼び、私の事を『ママ』と呼びます。


 最近スズちゃんのステータスに【忍者】というスキルが追加されました。

 バステトはエジプトの猫の女神だと聞いてましたが、どうして【忍者】なのでしょうか?

 そもそも、この世界の人々に【忍者】が認識されるのでしょうか?


 カピバラのピーちゃんは、レトリバー犬ぐらいの大きさで体の成長が止まった様です。



 私は首が据わったエルクラインくんを抱いて皆に紹介しました。


「弟の『エルクライン』です、よろしくね」


「「よろしく~」」

「キュルキュル~」




 私は10歳の学院入学に向けて、家庭教師が付けられました。アストリア王立魔法学院に入学する予定です。


 草原での採取とレベリングも続けています。スズちゃんも一緒です。


 土属性魔法の【土弾】から土を固めることが出来る事が分かりました。

 もっと【土弾】の威力を上げたくて、固くしようと集中してたら【石弾】を覚えたのです。

 更に、もっと硬くしようとしてたら【石化】も覚えました。土属性魔法レベル5だから覚えられたのかもしれません。


 魔法やスキルは、意識するか認識する必要があるみたいです。見たり聞いたり考えたりすると、ステータスに付け加えられてる事があるのです。

 もしかして、新しい魔法を考えて、それを実行する適正があれば、ステータスに加えられるのではないでしょうか。






「エイルちゃん、こんばんは。

 いつも見守ってくれて、ありがとう。

 弟が出来ました。エルクラインくんです。

 マンドレイクの栽培も上手く出来てます。

 どうもありがとう。

 おやすみなさい。

 親友マブダチのマリエルより」




「マリエルちゃん、こんばんは。

 弟が出来て良かったね、おめでとう。

 ハーブの栽培も順調だね。

 おやすみなさい。

 親友マブダチのエイルより」

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