第24話 属性魔法の実習授業

 アレクシス第1王子は、まだ婚約者がいません。

 第1王子としては珍しい事だそうです。

 この国では上級貴族の結婚相手は、親が決めるのが一般的だからです。



 私はいつも、マルグレーテちゃんと一緒にランチを食べます。


「ご一緒しても宜しいですか?」

 ダイニングホールに入って来た第1王子が仰りました。


「はい、喜んで。アレクシス王子様」

 マルグレーテちゃんは公爵家の令嬢なので、以前から王子と知り合いなのです。


「宜しいですか? マリエル嬢」


「はい、勿論です。王子殿下」


 アレクシス王子はニッコリ微笑みました。



 マナーは早くから勉強してましたが、実際に王子と一緒に食べるのは緊張します。


「光属性魔法に適正が有るのはマリエルだけでしたね」


「はい」



「私は火・水・風の3属性でした」


「はい」



「マルグレーテは2属性でしたね」


「はい、水と風です」


(まさか、私達を値踏みしている!? 婚約相手に狙ってるのかしら?)



「マリエルは土属性もありましたね」


「はい」



 学院の1日の最後の時間は選択科目で、属性毎の実習です。

 月曜が風属性、火曜が火属性、水曜が水属性、木曜が土属性、金曜が光属性、土曜が闇属性の実習です。

 全ての選択科目を受ける事が出来ます。誰でも後天的に魔法を発動する可能性があるからです。


 適正が無い属性魔法は、スクロールを使って発動します。

 貴重なスクロールは、自身で用意しなければいけません。

 当然ながら経済力の無い生徒は、目標を絞って選択科目を選ぶ事になります。

 平民の場合は、既に有する適性魔法だけを受けるのが通常です。


 属性魔法の適正が無い選択授業では、初級魔法のスクロールを用意しておきます。

 火属性魔法だったら【火弾】ファイヤーボールのスクロールです。



 私はマルグレーテを見ながら喋ります。王子を直視しにくいのです。


「私は一応、全部の属性魔法の選択授業を受けるつもりですわ」


「私もそのつもりですのよ」


 私達はいつも一緒のようです。


 上級貴族は裕福なので、スクロールを準備して全ての属性魔法の実習を受ける様です。

 授業では、ただスクロールを読むだけではありません。

 属性の精霊に呼びかける言葉を学び、それぞれの気持ちが入りやすい呪文を研究したり、イメージを浮かべやすくしたり、属性毎の特徴を学んだりします。

 そして、より上位の魔法を発動する練習をします。


 魔法をスクロールで発動した後は、スクロール無しで発動を試みます。

 先生の横でカンコピして発動を試みます。

 経済的な理由もあって、初級魔法の発動が出来無い生徒は、だんだんと参加しなくなります。

 光属性魔法のスクロールは他より高価なので、参加する生徒は特に少ないのです。

 因みに、一学期が終わっても、私以外に光属性魔法を発動する生徒は現われませんでした。


 私は、ケンちゃんのお腹の中がマジックバッグ兼錬金装置になってるので、初級魔法のスクロールは無料で手に入ります。

 スクロールの材料も、温室や草原や森で採取して十分に持っています。



 私は1学年が終わる頃には、闇以外の全属性の初級魔法をスクロール無しで発動出来る様に成りました。

 闇魔法は発動しませんでした、『女神の御親友』には相応しくないからでしょうか?


 王子とマルグレーテちゃんも、基本4属性の初級魔法が出来る用になりました。

 経験値はやはり必要だったみたいです。

 ただ個人差があり、属性によりレベルが上がりにくい事があるようです。


 基本4属性とは、火・水・風・土です。


 属性魔法が増えて、他のご令嬢達にねたまれる事もあります。

 私とマルグレーテちゃんは、王子や上級貴族の男子生徒が寄って来るので、余計に妬まれます。

 昼食や休憩時間に王子と一緒に成る事が多いのです。

 だからと言って避けることも出来ません、不敬になってしまいます。


 王子とマルグレーテちゃんと私は、光属性の実習で最終的に3人だけに成ったので、とても仲良くなりました。

 3人だけの時は、王子を『レクシ』と呼ぶように成りました。私は『マリー』です、マルグレーテちゃんは『グレーテ』です。



「将来レクシとグレーテが結婚するのかしら?」


「俺はマリーと結婚したいなぁ」


「私は誰とも結婚しないで、マリーと一緒に暮したいわ」



「じゃあ、3人で仲良くしましょうねぇ」


「「……」」

 レクシとグレーテは「キッ」と睨み合いました。


「えっ! 2人供大事なお友達ですよ」


 私は2人の手を取りニッコリしました。


「「はぁ~。そう言う事で……」」


(おかしいな、大人しくしてるつもりなのに、何で私が中心に成ってるの?)




「マリちゃんは誰が好みなの?」

 屋敷でケンちゃんに聞かれました。


「う~ん、みんな顔が整い過ぎてて現実感が無いの。まだ分からないけど婚約はしたくないかなぁ」



「もしかしたら王妃様に成れるんじゃないの?」


「そうかもねぇ。でも堅苦しいのは遠慮したいなぁ。地方でのんびり暮したいかなぁ」


「ふ~ん、そうなんだぁ」


「うん。私達日本時代を含めたら、もう25歳だから10歳の王子は対象外かなぁ? 元々、ショタ属性も無かったし」



「第3者的に見ると、王子とマリちゃんは、とてもお似合いだよ」


「……そう、ありがとう。私はケンちゃんがクマ人形じゃなかったら結婚しても良かったけどね~」


「へへ~、本当に~。嬉しいな~」


「兎に角、今はまだ早すぎるかなぁ、卒業する頃に考えましょう」


「そだね~」



 ◇ ◆ ◇



 モモリル・バクルー伯爵令嬢が嫉妬から私に意地悪をしてきましたが、すぐに大人しくなりました。

 国中が不作の時にレオポルド領から穀物が提供されたので、私に意地悪した事が親に知られると、凄く怒られたそうです。

 アストリア国で唯一不作にならず、アースガルズとの交易で最も裕福なレオポルド領を敵に回す事は出来ない様でした。

 しかも父親は悪名高きレオポルド辺境伯ですから。

 可哀想に、彼女はクラスで誰にも相手にされなくなってしまいました。


 しかし、私は『女神の御親友』です。彼女を放って置けません。


「モモちゃん、一緒にランチに行きましょう」


「えっ……いやですわ。どうぞ、おかまいなく!」

 ツンッ!


 私とグレーテで両側からモモちゃんの腕を取り、無理やり連れて行きます。


「イヤじゃないのっ! 今日から私達はお友達ですから、毎日一緒にランチするのよ!」


 私は顔を寄せて微笑み見詰め合い、最近覚えたばかりの【魅了】スキルを発動しました。


 ピッキィィィンッ!


「オッフ……そんなに言うならしょうがないわ。友達に成ってさしあげますわ」

 モモちゃんの頬が赤くなっていました。


「どうもありがとう」

「私も、よろしくね」



 その日はレクシ王子と宰相の息子ブランシュ・ロッテンシュタイン(ブラン)も一緒に、5人でランチを食べました。

 光属性の選択授業も女子3人で一緒に受ける事にしました。

 光属性魔法の【回復】のスクロール3人分を毎回私が用意します。


 やがて、騎士団長の息子ロズガルド・トーランド(ロズ)、将軍の息子セフィロス・スネイブル(セフィ)、侯爵の息子レイモンド・アンダーウッド(レイ)も一緒にランチをするようになりました。

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