第34話 夏休みの男の子達

「夏休みと言ったらハイキングだね」

「夏休みと言ったらBBQでしょ」

「夏休みと言ったら花火かなぁ」

「夏休みと言ったら冒険だ」

「夏休みと言ったらレースだろ」



「皆さんは夏祭りに合わせて、ここに来たのですよね?」

 とマルグレーテが聞きます。


「「「「「そうだった!」」」」」


 第1王子レクシ・騎士団長の息子ロズ・宰相の息子ブラン・将軍の息子セフィ・侯爵の息子レイの5人が見事にシンクロして言いました。



 此処は、レオポルド辺境伯領の別荘であるリヒテンシュタイン城の応接間です。

 王子と上級貴族の子息達なので、御学友でもとりあえず応接間に通したのです。


「レクシ王子、お茶を飲んでお寛ぎ頂いだら、それぞれの宿泊部屋にご案内致しますわ」


「ありがとう、マリー」


 長旅で喉が渇いていた王子は、美味しそうにお茶を喫しました。



「そうだマリー。従魔騎乗競争に全員参加するから、申し込みの手配をお願いします」


「はい……皆さん騎乗する従魔はどうするのですか?」


「別便で従魔もここへ向かってるのです」


「まぁ、それでは厩舎を用意しないといけませんね」


「そうだね、宜しくお願いします」



「王子、先に連絡しといてくれないと、餌や厩務員や寝床などの準備がありますのよ」


「あっ、そうだね。ゴメンゴメン」


 さすが王子、そんな事は気にする必要が無い環境で育っている様です。



「む~ん……レース場の警備も強化しないといけませんわね」


「そうだね。でも宮廷騎士団30名が別便で到着するから、警備は心配いらないよ」


「え、騎士団の宿泊施設は決まってるのですか?」


「団長が問題無いと言ってたよ」


「はぁ……ルイス、確認して来て下さい。決まってなかったら手配をお願いします」


「畏まりました」



「レクシ王子が魔物を従えてると言うのは初耳ですわ」

 とグレーテ。


「上級貴族の男性の間で従魔騎乗競争が流行ってるから、従魔を持ってる者は結構多いね」



「レクシ王子は調教スキルを持ってたのですね?」


「いいえ、持ってませんよ。魔物を魔道具で従えるのです」



「どんな魔物でも従えられるのですか?」


「いいえ。【調教】スキルを持ってる者が【テイム】した魔物に、魔道具を取り付けて従えるのです。だから【テイム】出来なければ魔物に魔道具も付けられないはずだよ」



「ドラゴンライダーは居ないのですか?」

 とマリエル。


「人族がドラゴンを【テイム】したと言う話は聞いた事が無いなぁ」



「王子の騎乗する魔物は何でしょうか?」


「僕達は5人とも、バイコーンだよ」


 バイコーンは角が2つある馬の魔物だそうです。



「マリちゃん、俺達も出場しようよ」


「私がケンちゃんに騎乗するの?」


「大きくなった俺を見られても良いならそれでも良いけど、ピーちゃんに騎乗しようよ」


「私が乗るの? ケンちゃんが乗るの?」


「たぶんケンちゃんだけだと出場できないよね」

 と王子。



「それなら、マリちゃんが俺を抱いてピーちゃんに騎乗して出場してよ」


「う~ん、グレーテちゃんとモモちゃんはどうするの?」


「「私達は騎乗経験がありませんわ」」



「危なくないかなぁ?」


「勿論危ないです。お嬢様っ、絶対におやめ下さいませ」


 ジュディが『メッ』って顔で言いました。



(ケンちゃん、魔法少女に変身して飛び入り参加しちゃおうね)


(うん、そうしよう)


 ケンちゃんに念話で伝えました。



「お嬢様! 顔に出てますよ。絶対ゼェェッタイおめ下さいねっ!」


「「は~い」」


「もうっ、なんですから~。エリザ様、お嬢様はイタズラする時の顔をしていますから、気を付けてくださいっ!」


「うむ、承知した」



 私は座ったまま上目遣いに、エリザの顔をジ~ッと見つめます……キョロンと首を傾けて微笑んでみました。


「アグゥゥッ! オッフゥ……♡」


 エリザの顔が『デレッ』としてしまいした、どうやら私の勝利です。



 : 〇 ▼ 〇 ;



 王子達は侍従に導かれて個室に案内されて行きました。


「グレーテちゃん、モモちゃん、夏祭りは明日からなので、今夜はBBQと花火を楽しみましょうね」


「「はい」」



「ルイス、お庭にBBQと花火の準備をお願いできますか?」


「はい、お嬢様。その予定で既に支度を始めています」


「まぁ、ありがとう」





 朝起きると庭から『カッツ、カッツ、カッツ……』と馬の歩く音が聞こえてきました。


 隣にはグレーテちゃんとモモちゃんが、まだ寝息を立てて寝ています。

 昨夜は夜更けまで女子話じょしばなで盛り上がったのでした。


 私はベッドからソット起き上がり窓から庭を見下ろします。

 男の子達5人がバイコーンと言う馬型の魔物にまたがり稽古をしていました。



 今日の午後1時から従魔騎乗競争が始まります。

 山懐の放牧地の周り5キロのコースで勝敗を争うのです。

 リヒテンシュタイン城の前がスタートとゴールに成っていて、賞金とトロフィーも出ます。


 私もクレセントマリーでエントリーしました。

 別に賞金が欲しい訳ではありません、ケンちゃんとピーちゃんを喜ばせたいだけなのです。




 レースの始まる時間になりました、私は変身して身分を隠しています。

 しかし、なんと! パパンとエリザも私の両隣でスタート地点に並んでいました。


「お父様、領主が優勝しては不味いのではないですか? 賞金を渡す側なのですから……」


「ワシはマリエルの保護者として付き添うだけだぞ」


「まぁ、ありがとうございます」



「私も専属護衛として付き従うのです」


「エリザもありがとう」


 折角変身して出場しているのに、2人が横に居たらバレバレですよね!

 しかも、ケンちゃんを前に抱いてるし……はぁ。



 エリザは真っ白なユニコーンに跨っています。


「エリザの従魔も魔道具で従えてるのですか?」


「いいえ、お嬢様。自分でテイムしたのです」


 エリザはまだ生娘きむすめのようですね、ユニコーンは処女にしか気を許さないそうですから。



「綺麗なユニコーンですね」


 私がマジマジと見ているとユニコーンと目が合いました。ジーッと私から目を離しません。


『ブルルルルンッ! オッフ……♡』


 ユニコーンの目がハートになってしまいました。

 変ですね、【魅了】スキルは使って無いのですが。




『位置についてぇ、ヨーイ、スタートゥ!』


 バアアアアンッ!


 号砲と共に、一斉にスタートしました。

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