第68話 サチコのローザンヌ経営

 マリエル達はダンジョンから近くの森に馬車で入って行きます。

 人気の無い、少し開けた場所でマリエルが唱えました。


「それではいきます……いでよ『虹の橋ビフレスト』!」


 シュィイイイイインッ!


 光が溢れ出し、木々の間に虹色に輝く橋が現われました。

 広くてなだらかな石畳が、カーブを描きながら上空に昇っていきます。


 気が付くと、大樹が雲の上まで聳え立っていて、橋は大樹を回り込むように登っています。

 橋の入口の両側には、大理石の上に6枚の羽を持つ2体のケルビムの石像が座っていました。

 石像の上には輪を描いて『炎の剣』が回っています。



「神との約束を破った人族が橋を渡らないように、ここを守っているそうです。私が一緒に行きたいと思った者は大丈夫だそうですよ」


「私も連れて行って貰えるのですね?」


「そうよ、サッチャン。安心してていいからね」


 壮大なスケールの景観にサッチャンは尻込みをしているようでした。



 橋を渡り切りアースガルズの地に入ると、綺麗な草原に小鳥ぐらいの小さな妖精達が沢山飛んでいます。

 遠くに、光り輝く美しい街が真っ白な城壁に囲まれているのが見えました。


 馬車を進めて行くと、腰に『ギャラルホン』という角笛をぶら下げた、『ヘイムダル』という白い巨人が街の入口を守っているのが見えてきました。



 ヘイムダルが太い声で言います。


「ようこそアースガルズへ。マリエル様、お久しぶりです」


「ごきげんよう、お邪魔致します」



「マリエル様、今日はどのようなご用件でお越しでしょうか?」

 ヘイムダルが太い声を響かせました。


「はい、市場へ買い物に来たのです」


「それでしたら最初の十字路を左の道へお進みください」


「はい、有難う御座います」



 やがて市場に付くと、一行は馬車を降りて歩いてお店を見て回ります。


「あっ、コショウの実が売ってます」


「本当にありましたね」



「こんにちは、これは胡椒の種ですか? 植えれば胡椒の木が育つでしょうか?」


「育つよぅ。 暖かく日当りの良い所へ植えるんだよぅ」



「ありがとうございます。それではこれを頂きますね」


「まいどありぃ」



「御嬢様、ローザンヌの温泉熱も利用して、日当りの良い南向き斜面に温室を造りましょう。魔道具ランプで光もあてましょう」


「そうですね。輸送の事も考えてローザンヌにも作りましょうね」



「御嬢様、お寿司とタピオカミルクは何処でしょう?」


「そこのレストランで食べれますよ」


 通りすがりのエルフのお兄さんが、親切に教えてくださいました。



「どうもありがとう、優しいお兄さん」


「どういたしまして、マリエル御嬢様」



 私達はお寿司と天ぷらとすき焼きを食べて、タピオカミルクティーとコーラを飲みました。


 美味しい物を沢山食べて必要な物を買い、満足して元の世界に帰ったのです。




 ☆ ★ ☆




 ローザンヌの収穫祭、春祭り、年末祭、新年祭等で、マリエルは草原に会場を作り、貧しい者達と一緒に食事をしてきました。


 教会や孤児院で毎日のパンとスープ、衣服、安心して寝れる場所も提供しています。

 図書館と教室を作り、識字率と計算力アップを図り、貧民層の生活の底上げを図っています。

 いずれも無料です。


「御嬢様、なにも無料で無くても良いのではないでしょうか?」


「あら、サッチャン。民が豊かに成れば、税収は自然と増えるでしょう? それに、そもそも税収は民の為に有るのですよ」


「そ、そうです……ね」



 職業斡旋所も作りました。働く場所が無い場合の為に、畜産業や農業の為の公共施設も作っています。


 観光の為のホテル、温泉スパ、スキー場、魔道ケーブルカー、魔道乗り合い馬車、御土産屋おみやげや等も建設予定です。


 いずれもサッチャンの知識とマリエルや側近達の豊富な魔力とスキルで、福祉と仕事を提供しているのです。



「御嬢様、アースガルズで買った南国の種や苗木を温室で栽培してみましょう」


「サッチャン、温室なら侯爵邸にあります。幼い頃に御父様が誕生日プレゼントにくれたのです」


「有るんかいっ!」



「薬草を作っているのですよ。マンドレイク等のポーションの材料は一通り揃ってますわ」


「そうなんですか、でもまさかエリクサーの材料なんかはありませんよねぇ?」


「あらエリクサーって……これでしょ!」


 私はマジックバッグからポーションを一瓶出して見せました。


「有るんかいっ!」



「サッチャン言葉使いが悪いと、宰相に相応しくありませんよ。メッ!」


「申し訳有りません。御嬢様が驚かすので、つい地が出てしまいます」



「アニメの影響でしょ?」


「たぶん、そうです……」



「因みにトリュフも侯爵領内で人口栽培してますのよ」


「まぁトリュフまで、黒ですか?白ですか?」


「両方ありますわ」



「や、遣りたい放題ですかっ、大金持ちじゃないですかっ、ウハウハじゃないですかっ!」


「侯爵家ですから当然お金持ちですけど……、自分達で食べて、知り合いにも御裾分けしているのです。商用ではありませんわよ」


「ぐぬぬぬぬぅぅぅっ! 商売にしないなんて、なんて勿体無い事をっ!」



「今回アースガルズで手に入れた種と苗は、ローザンヌに温室を作って栽培しましょうね。安定栽培で、ずっと美味しく頂けるといいですね」


「このサチャーシャにお任せ下さい。脳内図書館による知識でキット大成功させますから」



「儲けなくてもいいですのよ、領民と共に皆で美味しく食べれるといいですわね」


「はい」



【後書】

 実際のスイスのローザンヌには、温泉スパのあるホテルが沢山あります。水着着用で利用できます。スキーをした後に温泉で疲れを取るのが最高だと思います。


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