第30話 夕食会の始まり

 私達は、王宮の庭の散策を終えて、控え室前に戻ってきました。


「マリー、それでは後ほど又お会いしましょう」


「マリーお姉様、私は夕食会に出れませんので、これで失礼致します。又遊びに来て下さいね」


「はい、ごきげんよう」


「ごきげんよう」


 ジュリエット王女は、小走りにアレクシス王子を追い駆けて行きます。

 王子に追いつくと後ろを振り返り、小さく手を振ってニッコリと微笑みました。



 私が控え室に入ると、お父様は見た事の無い恰幅の良い中年男性と談笑しています。


「あぁ、お帰り。……娘のマリエルです。こちらはアンダーウッド侯爵だよ」


「こんにちは、マリエル嬢」


「初めまして、ごきげんよう。御子息に学院でお世話に成っております」


「いや、こちらこそ。お母様に似て美人さんだね」


「いいえ、恐縮です。有難う御座います」



「それでは、夕食会を楽しんでください」


 アンダーウッド侯爵は退出しました。




「彼は、王子とマリエルの様子を伺いに来たのだろう」


「そうなのですか」



「2人が婚約すると派閥の再構築が始まるだろうからな」


「まぁ、私などの所為で?」



「だがワシはそんな事に興味は無い、婚約もしなくて良いと思ってる」


「政略結婚は必要無いのですか?」


「必要ないぞ、何もかも上手く行ってる。婚約しない方がむしろ良い。切り札は取って置くものだ」



「私は切り札なのですか?」


「そうだ。しかし、心配いらぬ。お前は絶対不幸にはせん。これ見よがしにチラつかすが、誰にもやらん!」



「結婚しなくて良いのですか?」


「良い! お前の望む通りに好きにさせてやる。切り札は切らなくても勝てるのだ!」


「さすが、パパン! 大好きっ!」


 私はお父様に抱き着きました。お父様は喜んで抱かれてくれます、普段は恥ずかしがるのですが。



 私達は侍従に案内されて、夕食会のお部屋に移動しました。

 ゴシック様式の装飾が素晴らしい、これぞ王宮と言えるお部屋です。

 テーブル・椅子・絵画など最高級と思われる調度品が揃えられています。


 私達が席に着くと一方の扉が開き、国王陛下、王妃殿下、第1王子殿下が入ってきました。

 5人だけの夕食会のようです。


 私達は一旦席を立ち、国王陛下方を迎え入れました。



「座ってくれたまえ」


 私達は王族が座ってから椅子に座ります。



「今日は非公式の私的な夕食会として君達を招待した。楽にして夕食を堪能してくれ」


「有難う御座います。国王陛下」


「礼を言うのは、こちらの方だ。王子を助けてくれてありがとう」


「とんでもありません。娘の事件に巻き込んでしまって恐縮です」



「事の成り行きは兎も角、マリエル嬢のお陰でダンジョンの10階から、無事に2人供帰って来れたのだ。感謝の気持ちを込めて夕食を御馳走させてくれたまえ」


「ははっ、恐悦至極で御座います」



「それにしても、マリエル嬢は10歳でダンジョンを攻略してしまうとはのう!」


「はい、いいえ。幸運にも神のお導きにより助かる事が出来ました」


 最初に、ビーフシチュウが出てきました、とても良い香りです。


 料理が皆に配られると、王妃の案内で神に感謝を捧げて夕食会が始まりました。



(いただきま~す)

 私は心の中で、そう言いました。こちらの貴族は言わないのです。


 さっそく、シチュウをスプーンで口に運びます。

(う~ん美味おいしい、来て良かった~!)



 ツンツン!


 お父様が、私の脇腹を指で突きます。コルセットをしてるので、中々気付きませんでした。


「マリエル、王が質問しておるぞ」


「はい、失礼しました。美味しかったので、つい……」


「良い良い。それで、マリエル嬢。光属性のレベルは幾つなのだ?」


「はい、ナナで……ウグッ」

 お父様に、再び脇腹を強く突かれました。



「うん……ナナと申したか?」


「いえ……ナナ…中々どうして、勉強が……むずかしくて上がりにくいようです。おほほほほ……」



「雷の魔法で、バンパイアを一撃でほふったと聞いておるが?」


「おほほほほ、ちょうどダンジョン攻略中に新しい魔法を覚えたので使ってみたのです」



「昔、王国が魔族に支配された時、英雄ユリシーズが雷の魔法で魔王を倒したと伝えられておるが、マリエル嬢の魔法も同じだろうか……」


「いいえ、娘の魔法が英雄に匹敵するなど、ありえません。運が良かっただけで御座います」


「ふむ。それにしても光属性魔法の資質がかなり高いようだ。将来が楽しみであるのぅ」


「恐れ入ります」



(おい、あまり食べるでない!)


(はい、お父様。美味しくて、つい忘れてしまうのです。テヘペロ)

 私達は小声で話しました。



 ビーフシチュウの後に、何と子牛のフィレステーキが続いて出てきました。

 ウシ、ウシですっ!

 私はさっそく、ナイフで切ってフォークで口に放り込みます。


(ウマ~ッ! 心が叫んでます! 魂の叫びが聞こえます!……異世界転生に感謝です!)



 後ろに控えていたメアリィが、ナプキンで口を拭いてくれます。そして、ソット囁きました。


(お嬢様、食べ過ぎです、まだ序の口ですよ。ナイフとフォークを置いて下さい)


(は~い、ありがとう。シュン……)

 残念!



「レオポルド辺境伯、国境警備ご苦労である。お主に任せてるので、わが国は安泰である」


「はっ、恐れ入ります」


「領地経営も順調そうであるな」


「はい、お陰様で今年も豊作の様です」



「聞いた所によると、マリエル嬢が生まれてから、ズット右肩上がりで収穫が増え続けているそうだな?」


「……はい、仰る通りで御座います。しかし、その事とマリエルは関係無いと思います」



「ふむ。『虹の橋ビフレスト』の噂は、余も聞いた事があるぞ。マリエル嬢が、それを引き継いでると言う噂もな」


「……そうで御座いますか」



「否定はせぬか……個人のステータス情報を深読みするのはマナー違反だから、これ以上は聞かぬが。ギフト『虹の橋ビフレスト』を持つ『女神の御親友』は、王位継承順位第1位のアレクシス王子の伴侶に相応しいのは間違いない筈だ。はーはっはっはー」


「はーはっはっはー」



 ツンツン!


 又、お父様に脇腹を突かれました。

 私は慌てて、訳が分からず一緒に笑います。


「おほほほほっ……」



(お願いだから、食べずに話を聞きなさいっ!)


(はい、お父様)


 私は又、次に出てきたシュウマイのような料理に心を奪われて聞いてませんでした。


 テヘペロ。

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