第034話 走れシオリ

「あー……。コリャつかまってるな」

 通信機にも出ないケイ一行の様子を考えて、シオリは悟った。

「コフコッフでこうなったら、こりゃ……『ヤツ』に頼るしかねぇな。……できれば二度と会いたくなかったけど」

 シオリは、そのまま街中を走っていく。まあ、なんだかんだ言って一味のことは放っておけない←。シオリ、ヤサシーナー。

「いたぞッ! 国賊めッ! ひっとらえろッ!」

「うわ、やべ。月猫ッ、後は頼んだ」

 シオリは、水晶玉を取り出して、兵士に向かって投げつける。

 煙が出たかと思ったら、兵士は地に伏していた。

「うーん。発明品は便利なんだけどなァ……。性格がなァ……」

 シオリは、コフコッフにいるある人物に頼ろうとしていた。


「むー……」

 頬を膨らませて、ミカエラはベッドの上でふてくされる。すると、ドアをノックする音が聞こえた。メイドの一人だ。

「お嬢様、お夕飯の時間でございます」

「……今日はもういいですの。さっさと帰るですの」

「お嬢様、食べないと体に悪いですよ?」

「さっき、食糧庫から拝借しましたの」

「……そうですか。でも、そんなにむすっとなさらないでください。総統閣下も、お嬢様のためを思って」

 ズダダダダダダダ。

 ドアに穴が開く。

「ひぃッ!?」

「それ以上ふざけたことを言うようなら、北端の針葉樹地帯に流刑にしますわよ!」

「も、申し訳ございませんでしたぁああああ!」

 メイドは逃げていった。うん。ミカエラってこんな感じだったっけ。

「はぁ……」

 ミカエラはため息をつく。

「わかってるですの。お父様は頑張ってるですの。魔王が討伐されてからの資本主義化の波に負けずに、人民のために尽くしてるのはわかってるんですの」

 いじけたミカエラは、射撃訓練場に向かった。


「よし、着いた」

 コフコッフ共和国の中でも、一番西に属する州に来たシオリ。ほとんどが針葉樹の地帯で、もう雪が降り始めている。

「ここかな」

 大規模な研究施設を前に、シオリはドアをノックする。

 すると。

「あら、シオリちゃん? 久しぶり! 入ってくださいな」

 大人びた声が聞こえる。

「うぃっす」

 シオリは、毛皮のコートを玄関にかけて、暖房のきいた中に入る。

「あー……、久しぶり、だな。Nishica Momotaニシカ・モモタ

「( *´艸`)ふふふ、一年ぶりかしらね?」

 純白の研究着に、手袋。眼鏡にカールしたブロンドの髪。

 彼女は、コフコッフの中でも最大の魔術研究者、ニシカ・モモタである。

 シオリが旅をしていたときに、知り合った一人だ。

「えっと、カクカクシカジカで」

「ええ、ええ、分かったわ。いろいろ聞いてるわよ。世界征服するんですってね?」

「んでその仲間が」

「捕まっちゃったと?」

「あ、うん」

「シオリちゃんのことは何でも知ってるわよ! フフフフ……」

「あんたはマジで日頃から監視してそうだからな、何かしらの方法で……」

 優しい笑みを浮かべるニシカとは対照的に、シオリは苦笑いだ。シオリが知る中でも、珍しく苦手とするタイプだった。

「しっかし、驚いたわ! まさかあのミカエラ嬢を仲間にしていたなんてね? 四天王の一因になってるみたいじゃない?」

「それが総統の気に喰わなかったんだとよ? ケイたちの身の安全が……、いや、ケイ以外のやつらの安全が第一だ。ケイに関しては……あいつ頑丈だからダイジョブだろ」

「うんうん。ミカエラちゃんの最終決戦兵器、『Дорогие люди親愛なる人民』の監修したのも私だし、できないことは無いわ!」

「おお! 助かる! このままじゃ俺までお縄だからな……」

「ただし条件があって……」

「ん?」

「ちょっと、その……『モルモットちゃん』たちの……『調達』を……ね?」

 もじもじしながら、ニシカは笑った。黒い笑み←

「えー……ッ」

「あ、でもいいの! やっぱりシオリちゃんで実験を」

「わかりましたッ! 連れてきますッ!」

 ニシカは、星級スターの冒険者。シオリは敵わないのである。

「ウフフフ、よろしくね♡」

 暖炉の前で手を振るニシカ。シオリは、コートを着て外に出ていこうとするが。

「あ、あの、ニシカ?」

「ん?」

「その……、そこの鉄のドア、昔はなかったよな? また新しく作ったのk」

「……『貴方は見ない方がいいわ』……、この中は」

「ヒェ」

 若干声色が変わりつつも、笑顔を絶やさないニシカにおびえつつ、シオリは『モルモット』の調達に出かけたのだった。今日はこの研究所に泊まるのだ。


「おっしゃあああああああ、トゲトゲ甲羅だ! 当たれ! 都落ちしろ!」

 リジコが叫ぶ。ピコピコ音が鳴る牢獄。

「ああああああおんどりゃああッ!」

 オトカが必死になってコントローラーを操作する。

「シオリに連絡を取ろうにも、通信端末がないとな……」

 僕は、ゲームをしてる二人をよそに。計画を立てる。

「ルーナさん? ルーナさんはどう思う……? ……ルーナさん?」

 なんかあの人、魂が抜けたみたいになってるんだけど。あれか、よく小説とか漫画とかである、復讐相手がいなくなったやつの末路か。

「ルーナさん? 脱出したらシオリと会えるから、ね? がんばろ?」

 僕は、ルーナさんに呼び掛ける。リンさんも寄ってきた。

「そうですよ! 一緒ににあの腐った獣人を肉塊にしましょう! そのためにも元気を出さないと!」

「う、うううう。ケイ……リンさん……( ;∀;)」

 物騒だけど、まあ、これでいいか。

 しかし、通信手段がないとなァ……。


 to be continued……

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