第007話 今日も今日とて金稼ぎ

 三日目。昨日の討伐クエスト二四種作戦(僕の怪我と引き換え)で、大分溜まったが……。やはり軍を作ったり城を建設したりするのには、これっぽっちも足りない。

 魔王の息子だから、帝王学やそこら辺の経済管理については学んだつもりだったが、資本主義社会になってから、さらに軍を作ったりするのは難しくなっている。

「今はこのままでもいいが……、のちのち、四天王の『下の幹部』も必要になってくるな」

「何ぶつぶつ言ってるのキモイんだけど」

 オトカ……お前、ちょっとはカッコつけさせてくれよォ、ただでさえプライドがずたずたなんだから。

「ところでオトカ」

「ん?」

「お前、両親はいるのか?」

「うーん。孤児院で育ったから、わかんないなー!」

「そ、そうか……つまりは安心して世界征服に専念できるということだな」

「なにそれww」

「いや、両親がいるなら、ちゃんと許可を取って世界征f」

「……ケイ、ちょっとまって」

「なんだ? 僕は真面目に四天王みんなのことを考えているんだ」

「いや、さすがに悪の魔王が両親に許可とってから世界征服するのはおかしいでしょ!? せめて誘拐して洗脳してやる! ぐらいでないと!」

「そ、そうなのか!?」

「……やっぱり、あんた魔王向いてないんじゃない? おとなしく冒険者で止まっといた方がいいと思うけど」

「やだやだやだ! 魔王になるもん! 世界を手に入れるんだもーん!」

「子供かよ……」

「そのためにも特訓だァ!」

「それなんだけどさ……」

「え、なんだ?」

「……ここの『ギルドマスター』に会ってみない? ってシオリが言ってたんだけど」

「ぎるどますたー? なんだそれは?」

「うへぇ、ギルドマスターも知らないの……?」

 オトカが怪訝な目を向けるが、この際はっきり言っておく。

 僕は一般常識がない! 知識が偏っているのだ(自慢できるようなことじゃない)!

 すると、ミカエラが白髪を揺らしながら横から入ってきた。

「ギルドマスターっていうのは、その名の通り、『各ギルドの運営責任者』のことですの! このギルドのマスターは、あの名高い『勇者パーティー』に実際に所属していた白魔法使いなんですわ!」

 な、なんと! 父のかたき! 宿敵ではないか!

 なるほど、敵を倒すには敵を知れということか。確かにいい。

「よし、四天王ッ! 集合だッ!」


「んで、結局行くのか」

 シオリが鼻をほじりながら、僕に向かって言った。

 チクショウ。前回の謀反を企てた主犯だというのにこの余裕っぷり。

 あの後部屋で、「チッ、分け前が減ったな」って呟いてたの、聞こえてたからな!? そして逆らえない僕という現状も悲しい(涙)。

「よ、よし! 四天王諸君。今から行く都市部のマンションに、ギルドマスターは、いるらしい! これからの宿敵になる人物だが、敵を知るためにも、礼儀正しく、愛想よく行くんだ! いいなッ!」

「ほいほい」

「リン……うるさいですのー」

「そうねーミカエラちゃん」

「御託はいいから」

 ぬおおおおおおお魔王の威厳! 魔王の威厳がないッ!

 くッ、まあいい。とにかく今はその白魔術師とやらに会うのが先決だ。


 魔導トンネルの中を走る魔術汽車の中。

「ところで、そのギルドマスターがどんな人物か、ケイは知ってるんですか?」

「……知らん」

 すると、シオリが簡単に説明した。

「えっとねー、俺はあったことあるよー」

「何!?」

「うん。なんかテキトーな人だった。魔法はすごいけどね」

 テキトーで魔法がすごい……か。

「主に『光属性』の魔法と『金属性』の魔法。後それから『水属性』も持ってる」

「ふむふむ……。すると対策は、闇、火、土か。しかし勇者パーティーにいた魔術師だ、そこらへんも対策してあるだろう」

「うーん。なんというか、そんなに頭が切れる人じゃないし、言っちゃうとダメ人間……」

「ダメ人間? さあ、着いたぞ」


 僕たちは、いたって普通のマンションの五階に到達し、ベルを鳴らす。

 カンカン。

「ふぁーい、まっててくださーい」

 なんだか眠そうな声が聞こえてくる。

 ガチャ。

「あらーお待ちしておりました!」

 のほほんとした声が、低身長の彼女から響く。よくわからないローブを身にまとい、魔術の専門職の証である三角帽をかぶっていた。全体的に淡い色を着ている人だ。

「どうぞどうぞ! お入りくださーい!」

「ふん、言われなくても入るッ!」

 ここはイメージが大切だ。敵対者らしく、少々尊大にしておこう。

「なんで、ケイ、あんなふんぞり返ってるの?」

 シオリの声。

「たぶん緊張してるんですの」

 ミカエラの声。

「そ、そんなことはははははないぞぞぞぞぞ」

 うーむ、声が上手く出ない。これが緊張か。

「さあさあ、中に!」

 そうとは気づかず、僕の背中を押して半ば強引に中へ引き入れるギルドマスター。


「ズズ―」

 うむ、うまいレモンティーだ。

 ちゃっかりお菓子もいただいてしまった。だって美味しいんだもん!

「自己紹介が遅れましたー」

 のんびりした声が、椅子に座っている僕たちの前で響く。

「私は、リッター王国のギルドマスターの一人、Cherry Lightscarletチェリー・ライトスカーレットです。どうぞよろしく」

「「「「「どうも」」」」」

 うん、なんか……穏やかな人だな。

「ところで、貴方達は……?」

 わからんのに中に入れたんかい!? 大丈夫かこの人!?

「ふ、ふふふふふ。ふはははははは(おなじみ魔王笑い)!」

 よし、掴みはばっちりッ!←

「良くぞ聞いてくれた、僕は魔王になる男、ケイ・レモネードだッ!」

「あらー、魔王になられるんですねー! すごーい!」

 ガクッ! なんだその間の抜けた反応は。新しいタイプだな。大体バカにされるんだけど……バカにされるんだけど。

 リンさんが説明してくれる。

「えと……、ケイは、私たちみたいに『魔王軍』のメンバーを集めつつ、冒険者をやってお金をためているのです。なんでも、世界征服? がしたいらしくて、父親の後を継ぎたいのだとか」

「それは立派ですねー! 応援します!」

 こいつ、頭大丈夫か!? お前勇者サイドだろ!?

「ふ、ふんッ! 元勇者の面々は父の仇ッ! 馴れ合う気などないッ! ないが……」

 シオリが、僕の頭を掴んでそのままテーブルにゴトッと押し付ける。

「冒険者の基本を教えてくださいだろッ! ちゃんと頼み事はできる大人になりなさい!」

「わかりましたー。私が教えられることならなんでもー!」

 うーん。確かに大丈夫かこの女? どこか人間として大事な部分が欠けている気がする……。


「というわけです」

 ギルド、冒険者の基本について、十分学んだ。

 た、ためになった……。

「では、これで失礼するのですわ! おかし、ありがとうなのですわ! チェリーおねーちゃん!」

「いつでも来てくださいねー! お菓子も紅茶もたっぷり用意してますのでー!」

 なんか……平和っていいな……(黄昏る)。いやいやいや、魔王がこんなことを思っていてはいけないッ! よし、聞けることは聞けた! 後は最後のシメだッ!

「ふははははははは! 平和に見逃すとでも思ったか!? 父の仇の一味、チェリー・ライトスカーレットよ!」

「ふぇ!?」

「話は聞いたが、何もしないとは言ってないぞ! 利用できるから利用しただけなのだあああああああああはああああっはっはっはっはっはっはっはっは!」

 なんか、他の四人が「また始まった」的な感じの冷たい視線を向けているが気にしない。

「ふふふふ、簡単には殺さぬぞッ! じわじわとなぶり殺しにしてくれるッ! いざ、チェリー! かくg」


「ぐはぁ……」

「ダイジョーブですかー?」

 こいつ、……僕を倒したのに気遣ってやがる。

「すみません、これ毎回の癖みたいなもんなんで、唾つけときゃ治ります」

 シオリ……哀しくなるからその説明やめて……。

「そ、そうなんですか……おだいじにー!」

「ち、チクショウッ! 覚えてろー! 今回はこれくらいで許してやるッ!」

 ぬおおおおおおお、許さん! あの光の魔法使いめ!

「ケイ……今日はこれくらいにしましょう? そろそろ私も、蟲たちにご飯をあげないといけない時間ですし」

 リンが、言った。

 そうだ、千里の道も一歩から、チャレンジ精神を大切にして、いつか絶対後悔させてやるッ!


 へこたれんぞおおおおおおおおおおおおおおおッ!


 to be continued……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る