第010話 たのむからッ! やらかしてくれるなッ!
とりあえず、飛行船には乗った……。
魔力を溜めて浮力に変換し、さらに燃料も使うことで、超大型の移動要塞のような『浮島』と化すことができたのが、この『魔術飛行船』だ。
大きさは、ざっと縦に二〇〇メートルで、よくこんなのが飛んでいると思う。
中の設備も充実しており、画面で国営放送が見られたり、軽食も楽しめる。……のだが。
「わーいわーい! お菓子がいっぱいですの! とりあえずミートスパゲッティ一〇皿ですわ!」
「勝手に注文するんじゃあないッ! ミカエラッ!」
うん、やると思ってた。
「お待たせしました、ミートスパゲッティ―一〇皿です」
「早いなおい」
「当飛行船内では、常に一流のシェフが待機し、最速で料理を仕上げておりますー」
この船内ウエイターさんどこかで見たことあるような……。
あ。
「チェ、チェリーさん!? どうしてここに!?」
「あら、バレてしまいましたかー?」
「いや、バレてしまいましたかー? じゃなくてッ!」
この人、ホント何者なんだ……。
「私、船内ウエイターの研修も受けたことがありまして、バイトですー!」
「で、ついでに僕たちの後をつけてきたと」
「良くお分かりでー!」
「……」
もう、何も言わない。
「あむあむもぐもぐじゅるじゅるぱくぱく! ごちそうさま! ですの!」
「あらー、ミカエラちゃんこんにちは」
「チェリーさんですわ!」
僕は、ミカエラはチェリーさんに任せて、シオリの方へと向かう。あいつ、どこにいるんだ?
「で、シオリ、インスパイア帝国ってどんなとこなんだ?」
「えーとね。帝国政だから、一応皇帝がいるんだけど、魔王が君臨してからは、おとなしくなったって感じかな」
「ふーん」
シオリっていろいろ知ってるよな。何歳かもわからないし。
「ちなみに、どうしてシンエン帝国から抜け出したんだ?」
「あー、それねwww」
どうせロクでもない理由だろ。
「いやwwwあの国貧乏すぎwwww鎖国してる影響か、めっちゃお堅いんですけどーwww推しのグッズもロクに販売されてないし、後進国ですわーwwww」
めっちゃ煽るな、相当祖国が嫌いと見える。
「まあ、所持金は増えた分を推しにつぎ込むから、事実貧乏なのは亡命してからも変わらないんだけどね」
「デスヨネー」
日頃からたかられてるし。僕。魔王(概念)。
「そもそも貧困層の生まれだからねー。金は命より重いんだわ」
「そもそも、シオリの推しって何なんだ?」
「あー、推しはね、ちょっとマイナーなんだけど」
オタク特有の早口炸裂。
「『私のヴィランハイスクール』っていう某少女漫画で連載されてるやつなんだけどね? もうリカ×ナミが尊すぎてああああああああああああああああ(爆死)ってなるのおおおおおお! 主人公は、腐った政治を打倒するための悪の組織(笑)を育成する高校に進学するんだ! そこでいろんな特殊能力を持つ同級生たちと一緒に、世界を変えていくって話なんだけど! そこで敵対する国家軍人のヒーローたちも尊くてさ! 主人公カプは百合なんだけど、ヒーロー側でBLもあって! 俺、もうあのマンガ読むたびに尊みが尊みで尊みに化学反応を起こして尊みの尊みが尊みいいいいいいって感じなの分かる(語彙力)? でも、深ーい鬱展開ももちろんあって、同級生がヒーローの襲撃で爆殺されたり、改造手術に失敗して落ちこぼれたり、仲間割れが起きたり、改心しちゃってヒーロー側について敵対したり! どれもこれもが絶妙な伏線回収と迫力のキャラの泣き顔でもう推しが推しすぎて美味しく頂けるんだわ。読んでみて! てか読んで! 読めやオルァ!」
「うん、情報量が多すぎてよくわからなかったけど、とりあえずすごいんだね(白目)」
「そーそー! 週間少女ヒャッハーで連載されてるから、読んでみ読んでみ!」
「で、そのグッズ関連が祖国だと手に入らないと……、え、それだけ!?」
「うん、それだけが理由で亡命した」
とんでもないやつだな、こいつッ。
「リンさんからもおもしろい話聞けるかもよ?」
「そういえば、あの人も東の国出身だったな」
すると、リンさんの方から声がかかった。
「呼びましたー?」
なんか、大鎌研いでるんだけど。それ、よく持ち物検査で没収されなかったね?
「私ですか、私は亡命しているわけではありませんよ、もちろん」
「じゃあ、なんで?」
「もともと、私は国のお偉いさんなんです。今回、ミカエラちゃんのお付として、コフコッフ人民共和国から、正式に任命されたんです」
「……ん? じゃあ、ミカエラが悪の組織って、結構まずいんじゃ?」
「んー? 大丈夫でしょ」
結構おおざっぱだな。リンさん。
「私は、ミカエラちゃんと蟲さんたちさえよければ、世界でも敵に回しますよウフフフフフフ( *´艸`)」
な、なんか怖い(小並感)。
「あれ? オトカ、どうした?」
「ガタガタガタガタガタ」
青〇のあれかよ。
「いや、その……これからテロるんですよね? 私たち」
「あ、ああ」
テロるって言葉、そんなに浸透してるのか? 世も末だな。
「も、もしかしたら、つ、捕まっちゃうかも」
「いや、それはないだろ、捕まるとしても僕ぐらい……はぁ(自分で言うの悲しい)」
「い、いや、絶対捕まっちゃいます! そしたら、尋問を名目に女の私はレイ」
「うん、その震えがエロ同人展開を期待しての『武者震い』ってのはよくわかったから、それ以上言うのはやめような?」
うん……改めて思ったけど、この四天王ひでぇ。
さあさあ、やってまいりました! 歴史と芸術の国! インスパイア帝国!
見てください! この精密な彫刻を! こんな大きな素晴らしい彫刻が、町のいたるところにあるんです! この国の特徴ですねぇ!
「また地の文でリポートしてるんですの」
ミカエラ、いいんだ。四天王の影響で精神が擦り切れてる僕にとって、地の文リポートは、唯一の楽しみなんだ←
「さーて、こっから密航だが、船はどこ……あれ?」
「どうしたんですか?」
リンさん、それが……。
「そういえば、シオリ、お前が密航船を手配してたはずじゃ」
「うん、俺がやっといたよ!」
「どこにも貿易船とかそう言うのが無いんだが……」
「あるじゃんあそこに」
「あそこって……え、あれ!?」
うん、これは船とは言わない。『イカダ』だ。
「シオリさん!? どういうことなんですか!?」
リンさんびっくりしてるよ。そりゃそうだ。
「え、いや国外に出るときに、推しに金を使ったから船が手配できなくて、んでイカダ」
「さ、最悪ですの……」
これ、どうするんだ……。
しかし、ファンシーな音が背後から聞こえた。オトカが変身したのだ。
「大丈夫! ここにはオトカ☆ノイズがいるじゃない!」
「オトカ、これどうするんだ?」
すると、ピンク髪を揺らしながら、オトカは衝撃の発言をした。
「貿易船は現地調達! 強奪しよう!」
なんか、本格的なテロ組織になってるんですが。
to be continued……
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