第003話 このガキィッ! 幼女とはいえ容赦はせん!

 こうして、シオリ・ロータスリーブズが仲間に加わることになった。

 はっきり言っていろいろと問題児のようだったが、四天王にはちょうどいい。強いし。

 金遣いが荒いのも、目をつむるとしよう。どうせ、有り余るほどの金が手に入るんだ。


 そうこうしてるうちに、昼になった。朝方から深夜まで営業しているこのギルドは、やっぱりいつでも冒険者たちがたむろしている。

「じゃあ、シオリ。どこら辺のクエストを受ければいい?」

「そうだねぇ……パーティーを組めば、一応私の等級が設定されるから……『白金以上』のクエストがもらえるよ」

「そ、そうなのか(知らなかった)」

「そもそも、パーティー組んでなかったのは私ぐらいのもんだったからね、ここらへんじゃ。あんたから金をせしめるのにもちょうどいいし、ウィンウィン!」

「ん? せしめるって単語が出てきたような気がするんだが……」

「き、き、気のせいだよ(目逸らし)」

「とりあえず、……昼食を済ませてからか……そこら辺の売店で適当なものを買って……」

「あ、それなんだけど、私が作るわ」

「え、作れるのか、料理?」

「うん、いっつもそこの共用キッチンで材料仕入れて勝手に作ってるよ。体力強化の効果がある『エンハンス料理』とか、魔力回復の『リカバリー料理』とか、冒険には欠かせないからね」

「なるほど……モンスターから取れる素材も大事ということか……」

「あんたホントに何も知らないんだねwwww」

「う、うるさい! ちょっと一般常識がないだけだ!←」

 そんなこんなで、僕たち二人は、ギルドの共用キッチンで料理をすることになった。



「それにしても空いてるな……」

「そりゃあね。私ぐらいの白金になると、専属シェフが付いてたりするから」

「マジか!?」

 相当推しにつぎ込んでるんだな、この女……。料理も自前なのは貧乏ゆえか。

「だから、ここを使って効果のある料理を作ったりするのは、低級冒険者ぐらいだね」


「なるほど……」


「じゃあ、始めるよ!」

「わかった」

「テッテレー! シオリの、三分クッキング!」

「どこかで聞いたことあるような音楽が流れてきたけど、無視無視」

「えー、まずはー。ここにある『ゴルゴンゾーラ人参(南の地方で取れる、変わった人参。そのままでは食用に向かないので、発酵させる)』と魔力回復用の『ダンガンコンドル(西の地方に生息するコンドル)』を、鍋にぶち込みまーす! ダンガンコンドルは生きてるので、絞めて羽をむしるのを忘れないようにしませう」

「そこから!? いや、普通加工済みでしょ!?」

「もー、うるさいなー。三分しかないんだから、邪魔しないのー。ほら、さっさと人参切って!」

「わ、わかった……」

 大丈夫かこいつ……。なんか横から鳴き声と羽音が聞こえるが、気にしない気にしない(バサバサ! ギャーギャー! オラァッ! 死ねッ!)

「さあ、コンドルさんがやっと天に召されましたここまでで三〇秒ッ!」

「アリガタクイタダキマス」

「さあさあ、おっきなお鍋を用意して! お湯をたっぷり注ぎます!」

「どうするんだ?」

「ここに、コンドルをぶち込みます」

「いや、まって? え、なに? コンドルそのまま? 切らないの?」

「もー、知らないの? 羽むしるのー! だから湯でるのー! 説明させないでよ!」

「わ、わかりましたorz」

「さてさて、ゆでてる間に、具材をもっと加工します」

「何があるのかな?」

「『原生バッタ(どこにでもいるバッタ。意外とダシが出る)』と、体力回復用の、『ベタベタソウ(野草の一種)』。調味料に、何処かの商人から買った『白い結晶の粉末』と、シール状の『なにか』と、怪しい『乾燥キノコ』です!」

「ちょちょちょちょちょちょ」

「え? 今度はなに?」

「その……後半まずくない?」

「いや、いつも食べてるしwwww。これ入れたら食べたときに頭が真っ白になるんだしwww一回食べたら病みつきになるんだしwwww」

「いや、絶対ヤバいやつだよね!? それ危ないお薬だよね!? 薬物ダメ絶対ッ!」

「うるさいなー。ほい」

 あああああああ入れやがった!

「安心安全の食材だよ」

「『安心安全』ってなんだっけ(哲学)」

「さあさあ後半戦! 鳥の羽をムシムシして! もう一度茹でます! 具材を一気にドバっと入れて」

「わーワイルドダナー」

「かき混ぜて! 美味しくなーれ! 美味しくなーれ!」

「ちゃっかり魔法を使って圧力増大させてるし。高温調理だからそりゃ美味しくなるわな」

「もー、余計なこと言わない! そういうとこだよ!」

「……(もう何も言わない)」

「さてさて、これにスパイスを数種類入れます! これを入れると食材が『虹色』に輝きだすのです!」

「食用なのか……それ」

「紫外線を当てると光ります」

「その情報は聞きたくなかった」

「一般的な家庭料理、『レインボーカレー』のできあがり! 最後に、炊いたお米にかけて……完成!」

 なんか……すごい色(語彙力)。うん、これ食べたら死ぬ自信があるわ。なんてったって、作る過程見てたし。

「おかしいだろこの色食べ物じゃない(怪訝な目)」

「食わず嫌いすると、いい大人になれないぞ☆」

「ごめんお前だけには言われたくない」

「でも、まだ熱いし……ちょっと冷まそうか」

「そうだな……。もう一度クエストを確認しに行くか」


 えーと、ガンクツオオバクダンジュウ(岩窟大爆弾獣。洞窟や山間部に生息するモンスター)の討伐と……。あれ? ない?

「あ、そのクエストですか? さっきちょうど受託されましてね。まだそのパーティーいたかな……」

 受付の職員が、事務室に戻っていった。

「あー、結構おいしいクエストだったけど、売れちゃったみたいだね。しょうがないや、帰ろ」

「そ、そうか。まあ、まだ白金級のクエストはたくさんあるし、いいか」

 そう言って帰ろうとしたそのときだった。

「ガツガツがッむしゃむしゃモグモグドンドンバクバクベチャベチャポロンチャリンガターン」

 後半は何かを食べる音じゃなかった気がするが……。とにかくキッチンに向かう。

「ちょっとケイ! カレーがない!」

「え? ホントだ……だ、だれがこんなことを! 鍋の底までないぞ! お米も!」

 すると、横から可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。

「ふー……食った食った……なのですわ!」

 横を見てみる。

 そこにいたのは、……幼女だった。

 歳は一二歳ぐらいだろうか、くるくるとカールした白髪に、澄んだ紫の眼。あどけない満足した表情で、お腹をさすっている。服装は、冒険者とは思えない、どこかのお嬢様のような洋服だった。

「まって、この子が全部食べたの?」

 シオリが若干引く。

「ん? そうですわ! わたくしが匂いにつられてやってきたですの。そしたらこんなところにとってもおいしそうなレインボーカレーがあったから、食べてみたですの!」

「食べてみたって……全部食ってるし」

 僕も若干引いた。こんな小さい女の子が、あの鍋一杯と炊飯器一杯の米を……全部!?

 と、ともかく許さん!

「おい、そこの幼女」

「ん? 私のことですの?」

「そうだ、お前だ。このカレーはな。貧乏な僕たちの大事な大事な昼食だったのだ! それを片っ端から全部食いおって! 許さん!」

「美味しかったからつい!」

「笑顔で言うな! ふっふっふっふ……ふはははははは! 魔王だからな。幼女とて容赦はせん。食べ物の恨みは深い。今謝れば、命だけは取らないでおこう……さあ、土下座しろ!」

「カレー美味しかったですの! また作って! です!」

「ぬおおおおおおおおおおおお暗黒魔法でぶち殺してくれるッ! エターナルブリザーd」


「ぐはぁ……」

「おーっほっほっほっほ!」

 口に手を添えて笑う高飛車な幼女。

「この私! コフコッフ人民共和国軍総統の娘、『Michaela Mikasaミカエラ・ミカサ』にただの吸血鬼が勝とうなんて! 百年! いや、一万光年早いですわ!」

「な、なぜ幼女ごときに……」

 ちなみに、僕の体中には穴が開いている。すぐ治るけど。

 彼女が手にしているのは、魔法陣から出現した、本物のサブマシンガン。それから後方にはRPG携帯対戦車擲弾発射器が用意されていた。

「あー、ご令嬢だったんだー」

 シオリは、携帯食を貪りながら傍目で見ている。

「く、くそう……プライドにくる……こんなガキに……」

 いや、まて……これは『チャンスなのでは?』

 見たところ、コフコッフの総統の娘であることは、本当のようだ。これだけの魔法、軍事装備を使えるということは、よほどの英才教育を受けていて、経済力があるに違いない。

「貴方、なんていう名前ですの?」

「ケイ……、ケイ・レモネードだ」

「そっちのおねぇちゃんは?」

「シオリ・ロータスリーブズでーす」

 つまり、この娘に取り入ることができれば、世界征服も夢ではない! そして、見たところこいつはパーティーを組んでいない、何故だ? そこを突き詰めなければ。

「一つ、質問していいか?」

「なんですの? 私はこんな『ザコ』に相手している暇はありませんの」

「うッ(グサ)。なぜ、こんなところにコフコッフの令嬢が来ているんだ」

「お父様が、『かわいい子には旅をさせろ、令嬢とはいえ、軍人の娘だ』といって、私に冒険者として働くように指示してるんですの」

 なるほど、これも英才教育の一環というわけか。みたところ、高飛車だが素直な子だ。……よし。

「……ミカエラ、……『四天王』に、いや、一緒にパーティーとして組まないか?」

「いやですの、こんなザコと」

「ぐッ……。た、確かに僕はまだ弱い。だが、そこのシオリは白金級だ……。……みたところ、うまいものが好きで、しかも大食いだと見える」

「そうですの! 美味しいもの、たくさん食べるの大好きですわ!」

「……どうだ、シオリの料理はうまかっただろう」

「はい! 専属シェフの料理が長らく食べられなくて、心細かったですわ……でも、シオリおねぇちゃんのは、シェフにも劣らない美味しさでしたの!」

「そうか……一緒にパーティーを組んで『四天王』になれば、そんな料理が『毎日』『好きなだけ』食えるぞ?」

「え……」

 ふっふっふふはははは。迷っているぞこのガキ。小娘が、やっぱり欲望には忠実ッ!

「ちょ、ちょっとなら試してみてもかまいませんの」

「よし、そうとあれば、パーティーの人員は追加だ! 今日から、お前は僕たちのパーティーで依頼を受けるのだ!」

「それが、もう一人入れてほしい人がいる、ですの!」

「ん? どういうことだ?」


 to be continued……

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