幕間②『席替え』 ――苺side

―― いちごside ――



「よぉーし、席替えするぞー」


 学活の時間のはじめ。

 担任の先生がそんなことを言い出した。


 やった!

 うまくやれば白鳥しらとりくんと近い席になれるかも!


 ううん、待って……。

 席は男女共にくじ引きで決めて、そのまま移動開始になるはず。

 それでは、委員会決めの時のように誰かと代わってもらう暇なんてない……!

 つまり、完全に運に頼るしかないわけだ。


 けれど、なんとなく大丈夫な気がする。

 これまでだって白鳥くんと、放課後に偶然出会うこともたくさんあった。

 だからきっと……


「……絶対に白鳥くんの隣になってみせる」


 口の中で呟き、わたしは席番号の入ったくじを引いた。

 その結果――


「――正反対……」


 白鳥くんは窓側一番後ろの席で、わたしは廊下側一番前。

 見事に正反対の席だった。


 でも、どのみち白鳥くんとは放課後に一緒に過ごすわけだし、しばらくは遠い席で我慢かな。


 諦めかけた時、後ろの方の席から女子生徒の声が響く。


「あの、先生。今更すっごく言いづらいんですが、私ちょっと目が悪くて、前の席になれないでしょうか……?」


 それは白鳥くんの隣の席になった女子生徒だった。

 先生は特に顔色を変えずに、わずかに生えた顎髭あごひげく。


「そうか、じゃあ、誰か前の席で交代してくれるやつは――」


「先生!」


 先生が言い終わるより前に、わたしは真っ直ぐ天井に向かって挙手した。


「どうした、赤井?」


「わたしが! 席を交換します! ぜひ!」


「それでいいか?」


 先生が白鳥くんの隣の女子生徒に確認すると、彼女は頷いていた。

 席を移動し、隣に向かってにこやかな笑みを向ける。


「わっ、白鳥くんだ! よろしくね!」


「う、うん、赤井さん! よろしく!」


 白鳥くんが頬を赤く染めながらそう言った。

 どうして照れてるんだろう。白鳥くんをからかったつもりはないんだけど。


 まあ、いっか。

 これで白鳥くんと隣の席になれた!

 しばらくは放課後以外にも関わるチャンスが生まれるんだ!


「あ、前の席はみーくんと黒鐘くろがねさんなんだね」


 白鳥くんの声で気が付いた。

 前の席は緑川みどりかわくんとさきちゃんだった。


「ほんとだ! やっほー、咲ちゃんに緑川くん~!」


 前の二人がこちらを振り返り、それぞれ笑みを向けてくる。


「おう! 白鳥たちじゃねーか! よろしくなー!」


「わーい、いちごちゃん! 白鳥君もよろしく~!」


 なんだかんだ、仲良しな四人が一ヶ所に集まった。

 これなら同じ班だろうし、楽しくなりそうな予感がする。


 四人で挨拶をすると、咲ちゃんと緑川くんが仲睦なかむつまじくおしゃべりを始めた。


「ねえねえ、白鳥くん」


 咲ちゃんたちには気付かれないように、ささやき声で隣の白鳥くんを呼んだ。

 振り向いた白鳥くんに、口の動きだけで「たのしくなりそうだね」と言って微笑みかけると、彼は照れたように笑って顔をそむけるのだった。

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