第10話『呼び出し』 ――苺side

―― いちごside ――



 白鳥しらとりくんが……ラブレターを貰ってしまった……っ!!!!!


 朝、生徒玄関で物陰ものかげに隠れ、白鳥くんと緑川みどりかわくんの話を聞いてしまったわたしは、その事実に頭を抱えた。


 あの手紙にはどんなことが書いてあるんだろう?

 白鳥くんはどう答えるつもりなのかな?

 そもそも、誰が送ったの?


 白鳥くんはあまり異性と交友関係がないから……まさか水瀬みなせさん!?

 いや、でも、水瀬さんはわたしの想いに気付いて応援してくれてるみたいだったし……。


「おはよう、いちごちゃん。何してるの?」


 唐突とうとつに背後から言葉が投げかけられる。

 この声はさきちゃんのものだ。

 わたしは振り向いて、咲ちゃんの肩をつかむ。


「咲ちゃんは手紙書いてないよねっ!?」


「いきなりどうしたの苺ちゃん!? えっと、最近は書いてないけど……?」


「そっか、ありがとう……」


 やっぱり咲ちゃんじゃないよね。

 いくら同じ小学校だったからといっても、あまり話してるところは見たことないし……。


「深刻なお話なの……?」


 真剣な顔の咲ちゃんにたずねられ、わたしはうなずく。


「うん、それはもう深刻で……」


「そっか……裏の世界にも色々あるんだね……」


「裏の世界?」


「ううん、分かってるから大丈夫。あたしには何も協力できないけど頑張ってね」


「う、うん……ありがとう」


 よく分からないけど応援されてしまった。

 でも、今度ばかりはどう頑張っていいのか正直分からない。


 相手の子も勇気を振り絞って白鳥くんに手紙を書いたのだと思うし、その邪魔をしてはいけない気がする。

 だけど、このまま何もしないで白鳥くんが誰かの恋人になってしまうのも嫌だ……!


 うぅ、どうしたらいいの……。



   ◇◆◇◆◇



 結局、何を頑張ればいいのか分からず放課後を迎えてしまった。


 いつもは帰りの学活が終わるとすぐに部活に行こうとする白鳥くん。しかし今日は帰る支度したくをした後、ずっと教室で絵を描いていた。

 まるで何かの時間稼ぎをするように。


 間違いない。彼は放課後、例の手紙の主に呼び出されてるのだろう。


 そう悟ったわたしは帰ったふりをして白鳥くんの後をつけ、待ち合わせ場所となっている教室の前まで行く。

 それから静かに戸の隙間から中の様子をうかがった。


「――っ!?」


 わたしの目に飛び込んできたのは、仲良さそうに笑い合う白鳥くんと後輩の女の子。


 ……そっか、二人は付き合うことになったんだ。


 そう理解すると、途端に目の前が真っ暗になった。

 もしそうだったとしても、本当は大人しく帰ろうと思っていた。

 なのに身体が言うことを聞いてくれず、わたしは糸が切れた操り人形のように力なくその場に座り込んでしまう。


 ――バタッ


 思ったより大きな音が出てしまった。

 お尻が痛い。

 教室の中にも聞こえてしまっただろうから、急いでこの場を離れなきゃいけない。


 なのに、足に力が入らず立ち上がれない。

 そうしている内に戸が開けられ、案の定、白鳥くんに見つかってしまった。


「あ、赤井さん、大丈夫!?」


 驚いたような顔の白鳥くんがわたしの前にしゃがみ込んだ。

 自然と熱いものが込み上げてきて、視界がぼやける。


「……んでもない」


「え?」


「何でも……ないよ」


 喋れば喋るほど、抑えがきかなくなった。

 目から涙がどんどんこぼれていってしまう。

 わたしはそででそれをぬぐう。


「で、でも泣いてるじゃん……! どこか痛いの?」


「わたしに優しくしちゃダメ! その子が悲しむから……」


「え、悲しむ? どうして?」


「だってその子と白鳥くんはお付き合いすることになったんでしょ!」


「え……いやいやいやいや!」


「だって白鳥くんラブレターで呼び出されたと思ったら、今ここで相手の子と仲睦なかむつまじく話してたもん!」


「いやだからそれは誤解があって!」


「誤解……?」


 わたしは白鳥くんから事情の説明を受けた。


 白鳥くんが貰ったラブレターは、本当は他の誰かにあげるはずだったこと。

 白鳥くんと金元かねもとさんは決して付き合うような仲ではないこと。


 それらを理解すると、自然と涙が止まった。


「あ、そういうことだったんだ……」


「うん」


「よかったぁ」


 言った後で、しまったと思った。

 白鳥くんが誰かに告白されたわけじゃなくてよかった、という想いが伝わってしまったかもしれない。


「何もよくないんだけどなぁ……」


 けれど白鳥くんは、わたしの真意を理解することなかったみたいだ。

 にぶい彼に、ちょっと攻めたことを言いたくなってしまう。


「ううん、よかったよ」


 立ち上がり、白鳥くんにぐっと距離を詰めて言う。


「だってもし白鳥くんが誰かとお付き合いしちゃったら、もう放課後にわたしと過ごしてくれなくなっちゃうもん。そんなのやだよ」


 はうわぁああああ言っちゃった!! 言っちゃったよ!!!

 だってこれ、白鳥くんが誰かと付き合うのは嫌だよって言ってるようなもんだよ!?


 で、でも、鈍い白鳥くんなら気付かない……かな?


「あ、赤井さん……っ!」


 いやこれ大体気付いてる反応だよ!!

 ああ……もうダメ我慢できない……っ!!!


「だから、これからもよろしくね、白鳥くん。それじゃ、また明日」


 そう言うと、わたしは早足でその場を去って行ってしまった。


 もしかしたら白鳥くんにわたしの想いが気付かれてしまったかもしれない。

 でも、この前遠回しに告白した時、彼は理解してくれなかったから気付いてないかも。


 だけど、それでも言えてよかった。

 とにかく、これからも頑張らないと!

 白鳥くんが誰かの恋人になってしまうのは嫌だ。だから頑張る。


 今は放課後だけだけど、朝も昼もずっと一緒にいられるように。

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