第17話『相性占い』 ――苺side

―― いちごside ――



「……というわけで、さすがいちごちゃん! 何もかも最高! パーフェクトの運勢だよ!」


 放課後。

 前の席で椅子を回転させてこちらを向いたさきちゃんが、占いの本を開いてそんなことを言った。


「え、ほんとに! やった!」


 所詮は占いの本のいうことだけど、良い結果だとどうしても嬉しくなっちゃう。

 これが占いの力なのかな。


 ちなみにその本は、昨日咲ちゃんが部屋の掃除をした時に見つけたものらしい。

 テスト前になると部屋の掃除をしたくなる気持ちはよく分かるなぁ。


 ともかく、遊び道具を見つけた彼女は今日一日ずっとこんな調子で色々な友達の運勢を占っていた。


「そういえばその本って、運勢以外も占えるの?」


 わたしが何げなくたずねると、咲ちゃんはうなずいてにこりと笑う。


「うん、他にも相性占いとかあるみたいだよ。ちなみにあたしたちの相性は占い済み」


「結果は?」


「まあまあだった」


「わたしたちの相性最高なのにね」


「ね~!」


 そう言ってクスクスと笑い合うわたしたち。

 やっぱり占いの本のいうことなんて全部は信じられない。


 咲ちゃんがふと思いついたようにたずねてくる。


「そうだ、苺ちゃん。他に誰か、相性を占いたい相手とかいないの?」


「占いたい相手……」


「好きな人とか」


「しゅきな人……っ!?」


 ど、どうしてここで好きな人が出てくるのっ!?

 って、相性占いなんだから好きな人について占うのは当然か……っ!


 好きな人との相性。

 もちろんわたしは白鳥くんとの相性を占いたい!!

 だけど、ここで白鳥くんの名を挙げれば、彼のことが好きだと暴露するようなものだし……!


「別に好きな人とかそういうわけじゃないし、恋愛感情があるとかそうわけでもないんだけどね。偶然隣の席になったということで……その、白鳥しらとりくんとの相性が、知りたいかな」


「白鳥くんとの相性ならすでに良いって分かってるじゃん。じゃなきゃそんな大変な仕事もできないと思うし」


「大変な仕事……?」


 咲ちゃんが何のことを言っているのかよく分からない。

 最近二人でやった仕事というと、日直の活動くらいだけど……?

 けれど今は、白鳥くんと相性占いすることで頭がいっぱいだった。


「だ、だけど、本当に良いかどうか確かめたいっていうかっ」


 それに今から白鳥くんを誘って相性占いをすれば、一緒に放課後を過ごせるかもしれないし。


「そういうことならおっけ~。あ、でも、白鳥君帰っちゃいそうだよ」


「うそ!」


 今さっきまで隣の席で帰り支度じたくをしていた白鳥くんは、もう教室から出る寸前だった。

 わたしは急いで駆け寄りながら声をかける。


「ねえ、白鳥くん」



   ◇◆◇◆◇



 わたしと咲ちゃん、そして白鳥くんの三人で机を合わせて座る。

 まずは咲ちゃんがどうしてもと言うので、白鳥くんの運勢を占うことになった。


「じゃあ誕生日と血液型教えて~」


 という咲ちゃんの白鳥くんに対する問い。


「誕生日は――」


「誕生日は10月3日、血液型はО型だよ」


 わたしがそう言うと、白鳥くんがびっくりした目でこちらを見てきた。


「って、どうして赤井さんがそんなこと知ってるの……っ!?」


 し、しまったぁ!!

 毎晩寝る前に心の中で暗唱していることだから、うっかり答えちゃった。

 白鳥くん本人から聞いたわけでもないのに覚えてたら変だと思われちゃうよね……っ!


 ううん! 落ち着いて!

 ここは堂々と! 当然のことのようにすれば何とかなる!


 わたしは照れ笑いを意識して言う。


「えへへ、それくらい常識だよぉ~」


 すると白鳥くんは小さく「そ、そっか」と呟いていた。

 少し驚かせちゃったみたいだけど、どうにか納得してくれたみたい。ほっ。


「おっけ~、10月3日にО型ね~」


 咲ちゃんがそう言いながら占い本のページをめくっていく。

 そしてあるページで手を止めて本文を読み始めた。


「うーん……」


 なんだか難しそうな顔。

 もしかして、と不安に思いながらわたしはたずねる。


「どうしたの……? まさかそんなに悪かった?」


「ううん、悪くはないんだけど、よくもないというか。仕事も健康も金運も全部普通だから」


「そ、そうなんだ……」


 と言う白鳥くんは、少し残念そうな、しかしどこか安心したようだった。


「あ、待って! 一つだけずば抜けてるのがあった!」


「ほんとに?」


 白鳥くんが目を輝かせて咲ちゃんを見た。


「うん、恋愛運が」


「そっか、恋愛運がよか――」


「恋愛運がずば抜けて悪いよ!」


 ――ガタンッ


 よほどショックだったのか、白鳥くんが頭を机に落とした。

 なんかすごく鈍い音がしたけど大丈夫かな……?


「し、白鳥くん大丈夫っ!?」


「う、うん大丈夫だよ、あはは」


 白鳥くんが顔を上げて力なく笑う。

 赤くなったおでこがなんとも痛ましい。


 でも安心して白鳥くん!

 白鳥くんの恋愛運が低くても、たとえ好きな人にフラれちゃっても、絶対にわたしがついてるからね!!


「そんなあなたに対するラッキーアイテムは……」


「ラッキーアイテム!?」


 咲ちゃんの言葉に、白鳥くんがぐいっと顔を向けた。


「健康サンダルだって」


「……」


 白鳥くんの表情が凍り付いた。

 さすがに健康サンダルはないとおも――


「確か物置にあったはず……明日から履いてくるべきかな……?」


 と、真剣そうな面持ちの白鳥くん。


「本気にしちゃダメだからねっ! たかが占いだよ!」


 なんだか白鳥くんってすぐに悪い人に騙されちゃいそう……。

 ちょっぴり将来が不安。

 だけど、わたしがしっかりと見守ればいいよね!

 って、何言ってんだわたしはっ!


「じゃあお次は本命、相性占いをしよっか」


 咲ちゃんがウキウキとした声でそう言って、また占い本のページを捲る。


「苺ちゃんの誕生日は12月24日で、血液型がAB型だから……っと。わぁ……ほうほう……ふむふむ……」


 咲ちゃんが様々な反応と共に占い本を読んでいた。


 そこに白鳥くんとわたしの相性がつづられているのだろう。

 たかが占いと分かっていても、良い結果が出て欲しいとつい願ってしまう自分がいた。


 そしてついに、咲ちゃんが本から顔を上げてにやりと笑う。


「……びっくりするくらい悪いよ」


「「え……」」


 そ、そんな……っ!

 白鳥くんとわたしの相性が悪いなんて……。

 そんなわけないっ!


「その占いの本、間違ってるよ! さっきだって男子中学生に健康サンダルがラッキーアイテムだっていうし。それに……わたしと白鳥くんの相性は、すっごくいいもんっ!」


「あ、赤井さんっ!?」


 白鳥くんが顔を真っ赤に染め、口をパクパクとさせてわたしを見つめていた。


 え、待って。

 わたし今すごいこと言っちゃったかもっ!!


「そのね、その本がいうように悪くはないって意味でね。客観的に考えてもやっぱりそんなに悪くないというかねっ」


 そう! だから今は、別にわたしが白鳥くんとすでに仲良しとか言いたかったんじゃなくてね!

 もちろん! 仲は良くなってきたと思うけどもっと仲良くなりたいというかっ!


 そういうことを言いたかったんだけど、取り乱してるように見えてしまうかもなのでこれ以上はあえて何も言わないことにした。


「あ、待って。見るページ間違えてたみたい」


「「え?」」


 咲ちゃんの声にわたしたちは顔を向けた。


「わあ! 二人の相性すごくいいよ! 何もかも最高!!」


 と咲ちゃんがぐっと親指を突き立てた。


 そっか、白鳥くんとわたしの相性良かったんだぁ~! えへへぇ~!!


「その本……」


 さっきは間違ってるとか言ったけど、そんなことはなかった。


「とてもよく書けてると思う!!」


 わたしは普段、占いを全部は信じない。

 でも今日だけは、全部信じたいなと思ってしまうのだった。

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