第18話『テスト勉強』 ――苺side
――
「……というわけなの!
清掃時間中、
わたしと
なんでも、今度のテストの成績が悪いと、お小遣いが減らされてしまうのだとか。
「うん、いいよ! だけど白鳥くんにも確認しないと」
咲ちゃんのためなら、わたしにできることは何でも協力したい。
でも、白鳥くんとの二人の時間が削れちゃうのはちょっと残念かな。
「あの、赤井さん」
白鳥くんのところへ行こうと思った矢先、彼の方から声をかけてきてくれた。
「あ、ちょうどよかった。わたしも白鳥くんにお話ししたいことがあったんだ」
「え、ぼ、僕に……!? そういうことなら赤井さんからどうぞ」
「ううん、白鳥くんからどうぞ」
「えっと、じゃあ……今日の放課後の勉強会なんだけど、みー……
どうやら白鳥くんの方も同じような状況になっていたらしい。
どのみち今日は二人きりじゃなかったみたい。
そういうわけで、今日の勉強会は四人で行うこととなった。
◇◆◇◆◇
放課後になり、わたしたち四人は机を合わせてテスト勉強をする。
付き合ってると誤解されるわけにもいかないし、今日だけは白鳥くんの隣ではなく、正面に座ることに。
しかし途中で咲ちゃんが、わたしと白鳥くんが隣同士の方がやりやすいんじゃないかと提案してくれた。
わたしは心の中で「咲ちゃんナイス!!!」と叫んだ。
咲ちゃんの方から言ってくれたのなら、誤解されることもない。
わたしは緑川くんと席を交換し、白鳥くんの隣へと移動した。
そして一時間半ほど勉強をしたところで、いきなり緑川くんが大きな
「ぐわぁああ解かんねぇええ! なあ咲、理科得意だったよな? 教えてくれよ~!」
「えぇ~、
「んあぁあ! 失礼な!!」
緑川くんと咲ちゃんの絡み。
口調はちょっとだけきついけど、二人の間に親しみのようなものを感じた。
そういえば二人は、中学校に上がってから何かと一緒になることが多くて仲が良いと聞いたことがある。
下の名前を呼び捨てにしあう仲……か。
なんだか少し羨ましいかも。
わたしも白鳥くんのこと呼び捨てにしてみよう……かな。
隣に顔を向けて、口を開く。
「ねえ、千尋」
ふぁあああっ!!!!!
緊張した上に自信がないせいで小さな声になっちゃった!!!
考えてみれば男の子の下の名前を呼び捨てにするのなんて初めてだし……っ!!
し、白鳥くんにちゃんと聞こえたのかな……?
「何――って、んっ!?」
白鳥くんが変な声を上げ、びっくりして目を見開いた。
予想以上に大きなリアクション。
まさかそんなに驚かれると思っていなかったものだから、なんだかおかしくなってしまい、笑いが込み上げてきた。
「あはは、咲ちゃんたちが呼び捨てだったからわたしも下の名前で呼び捨てにしてみたのです」
「そ、そういうこと……っ!」
「ねえ、千尋」
今度はあえて小さな声で呼んだ。そうすると彼の方から無意識に顔を寄せてきてくれるからだ。
わたしの方も少し顔を寄せ、上目遣いを意識する。
「な、なんですか、赤井さん」
「千尋もわたしの名前、呼び捨てにしてみて」
「えぇえええ!!!」
だって、せっかくだから白鳥くんにも呼び捨てにされてみたいんだもん……!!!
そんな我が
強引すぎて申し訳ない気持ちをぐっと隠し、にこにこ笑顔を作る。
「さあ、3、2、1……はいどうぞ~」
「え、え……えっと…………苺……さん」
あ……っ!!!!!!!!!!
か、可愛い!!! 可愛すぎるよ白鳥くん!!!!!
それに咲ちゃんたちは親しいお友達って雰囲気だったのに、わたしたちがこれをやろうとすると初々しいカップルみたいになっちゃってすごくドキドキする!!!
で、でも、落ち着いて……っ!
そして心を鬼にするのよ、苺。
もっと……もっと白鳥くんの可愛い顔を見るために。
「今“さん”って付いたよ? 呼び捨てじゃなかったよ?」
「い、いきなりは無理だよぉ……!」
「とにかく、もう一度、ね」
さあ、白鳥くん。
今度こそ呼び捨てで……っ!!!
しかし、そこで緑川くんが唐突に、
「あぁああ!! テスト勉強つれぇぇええ!!」
と大声を上げたため、わたしたちの意識はそっちに移ってしまった。
このままこのやり取りを続ければ、咲ちゃんたちに茶化されちゃうかもだし、今日のところは諦めよう。
でもまた今度、いつかちゃんと下の名前を呼び捨てにしてもらうからね、白鳥くん。
あ……その時までにわたしも「千尋」ってちゃんと呼べるように練習しておかないと。
さて、と。
気分を切り替え、わたしは緑川くんに言う。
「緑川くん、そんな時はテスト終わった後に楽しみを作るといいよ」
「楽しみかぁ」
緑川くんは数秒何かを考え、ニカッと笑って提案する。
「なあ、テスト終わったらみんなで遊びに行こうぜ!」
「あ、いいね~! あたし映画行きたい!」
すぐに咲ちゃんが便乗した。
「お! じゃあ今人気のあの映画見に行くか! あの全米が泣いたってやつ!」
「いいねいいね! 苺ちゃんと白鳥君も行くよね?」
「うん、もちろん!」
わたしは即答した。
白鳥くんも行くよね? 行ってくれるよね?
祈るような気持ちで白鳥くんをちらりと覗き見ると、彼も「あ、うん!」と了承してくれた。
やった!!!
白鳥くんとお出かけ!!! ダブルデート!!!
はしゃぎたくなる気持ちをぐっと抑え、わたしは白鳥くんに微笑みかけた。
「楽しみだね、白鳥くん」
「うんっ」
◇◆◇◆◇
その日の晩。
「う~ん……今日の勉強はこれくらいにしようかな~」
自室の学習机に着いたわたしは、シャーペンを持った腕を天井へと真っ直ぐ伸ばしてストレッチをした。
テストを気分よく終えて白鳥くんたちと楽しく遊ぶためにも、いっぱい頑張らなきゃ。
そこでふと、今日の出来事――わたしの名前を呼び捨てにしようとする白鳥くんの姿が脳裏に浮かんだ。
白鳥くん、すごく可愛かったなぁ。
だけど内心ではわたしも、同じくらい照れてしまっていた。
いつかはお互いに自然と呼び捨てにしあう仲になれたらいいな。
「千尋……」
――ポロン
「ひゃいっ!?」
こっそり予行練習をするつもりで口にしたところ、返事をするようなタイミングでスマホに通知が入った。
びっくりして椅子から転げ落ちそうになりながらも耐え、スマホを手に取る。
白鳥くんからのLINEで、今日の勉強会のお礼を伝えるものだった。
そうだ、せっかくだし……。
返事を打とうとしたところで、驚かされた仕返しにちょっとした
「よし……送信っと」
赤井苺『今ね、ちょうど白鳥くんのことを考えてたところだったんだ~( *´艸`)』
「う、嘘じゃない、もんねっ」
でもなんだか恥ずかしい……っ!!
白鳥くんもこれで、少しはドキッとしてくれたらいいんだけど……。
――ポロン
返事が来た!!!
白鳥千尋『本当に!? すごい偶然だね!!』
わたしはガックシと肩を落として苦笑した。
まるで恋愛的に
まあ、こんな鈍いところも彼の可愛いところではあるんだけど。
わたしたちが自然と呼び捨てしあうのは、まだまだ先になりそうだ。
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