第5話『お手伝い』 ――苺side

―― いちごside ――



 放課後、ほとんどの生徒が下校なり部活へ行くなりした校舎。


 わたしは三年二組の教室前の廊下で、中で会話をする二人に聞き耳を立てていた。


 その二人とは、白鳥しらとりくんと水瀬みなせさん。

 お昼休みに水瀬さんが一組の教室まで来て白鳥くんを呼び出してたから怪しいと思えば……。


 ひょっとして二人って、そういう関係だったりするのかな……?

 とにかく、確かめなきゃ……っ!


 教室の中から水瀬さんの声が聞こえてくる。


「あら、可愛いわ。白鳥君って意外とこういうのも上手なのね」


 え、可愛いっ!?

 可愛いって何のこと!?

 わたしも白鳥くんの可愛いところ見たいよぉ!!


 それに意外と上手って、何をしてるのかな……?

 うぅ、気になるよ……!!


 わたしはさらに教室の中からの声に集中した。


「え、意外かな?」


 という白鳥くんの声に、くすりと笑いながら答える水瀬さんの声。


「意外よ。いつもはもっと違う雰囲気だから」


「確かにそうだね」


「私、こっちもかなり好きよ」


「ほんとに? それは嬉しいなぁ」


 好きぃぃいいいいいい!?

 それにまんざらでもない白鳥くんの声……っ!!


 え、え……?

 どういうことなのっ!?

 二人ってそういう関係だったの!?


「もっと見せてほしいわ。他の白鳥君のも」


 え、絵柄?

 も、もしかしてわたし……すごい勘違いしてた……?


「あはは、そんな色々描けるってわけじゃないよ。でも、水瀬さんにそう言ってもらえるのは嬉しいな」


 うん、どうやらそうみたい……。

 うぅ~~~、勝手に変なこと考えて、わたしのばかぁ……!


 誰もいない廊下で、わたしは一人、熱くなった顔を手でおおって隠していた。


「それより、水瀬さん。早く描かないと終わらないよ。いっぱいあるんだから」


「そうね」


 話から察するに、二人はどうやらやらなければいけないことがあるみたいだ。

 変な疑いをかけてしまったおわびに、ぜひお手伝いをしたい。


 それに、このまま二人きりにしておくのも何となく心配だし……!


 わたしは一度深く息を吐き、ぱっと笑顔を作って教室の戸を開ける。


「あれ、白鳥くんと水瀬さん。何してるの?」



   ◇◆◇◆◇



 白鳥くんたちは、水瀬さんのクラスで行う人形劇の準備をしているようだった。

 わたしは絵を描くのは苦手だから、色塗りだけ手伝うことに。


 作業が終わると三人で片付けを行う。


 わたしと白鳥くんは、筆やパレットなどの洗い物を担当することになった。


 そして今、わたしは白鳥くんと廊下の流し台で洗いものをしている。二人きりで!


 でも、緊張のあまり何も話せずにいた。

 せっかくの二人きりのチャンス。

 ここで頑張らなくちゃ!


 そう思ってわたしは口を開く。


赤井あかいさんは……」「白鳥くんは……」


 わぁぁああ、わたしったらタイミングが悪すぎだよ!!

 白鳥くんと声が被っちゃったっ!!


 彼が苦笑して言う。


「そっちからどうぞ」


「ううん、白鳥くんからどうぞ」


「そ、そう? なら、えっと……赤井さんは優しいねって言おうとしたんだ。今日、義務も何もないのに手伝ってくれたから」


「うそ、すごい!」


「え、どうして?」


「わたしも今、白鳥くんは優しいねって言おうとしたんだ~。隣のクラスの水瀬さんのお手伝いをしてたから。えへへ、わたしたちって気が合うね~」


「そ、そうだね……っ!」


 すごい! ほんとにすごいよ!!

 こんな偶然ってあるんだ!!

 ああ、どうしよ、嬉しすぎてついにやにやしちゃいそう……!


「よし、こっちは終わったよ。赤井さんの方は?」


 白鳥くんにたずねられた。


 落ち着け、わたし。

 白鳥くんの前だぞ。


 わたしは洗っていたものの水を切って蛇口を閉め、白鳥くんににこりと笑いかける。


「わたしもちょうど今終わったよ」


「じゃあ、教室に戻ろうか」


 あ、待って!

 せっかく二人きりになれたのに、わたし何もできてない……!

 何か、何か今からでも……っ!!


 あ、白鳥くんの手に絵の具が。

 ……そうだ。


「あ、ちょっと待って」


「え?」


 白鳥くんに寄り、彼の手を握る。


 うぅ~、すでに恥ずかしいけど、ここでやめたら変な子だと思われちゃうから頑張らないと……っ!


 わたしは蛇口を捻って水を出し、彼の手に付いた絵の具を洗った。


 はうわぁぁぁあああ~~!!!

 顔から火が出そうだよっ!!


 水は冷たいのに、手の触れ合った箇所が火傷しそうなほど熱い。

 白鳥くんが赤面して、驚いた目でわたしを見てきた。


「なっ、あ、赤井さんっ!? 何を!?」


「えへへ、白鳥くんの手に絵の具付いてたよ」


 笑顔を意識するけど、内心ドキドキで倒れちゃいそうだよぉ!!


「あ、あああ、ありがとう……ごじゃいます……っ!」


「えへへ」


 ああ、ダメ……。

 緊張のせいか、それとも白鳥くんの反応が可愛すぎるからか、なんだかくらくらしてきちゃった。


 だけど、頑張ってよかったの……かな?

 うん、たぶんよかった!

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