第7話『下校』 ――苺side

―― いちごside ――



 やったー!!

 なんだかんだあったけど、わたしは今、白鳥しらとりくんと初めて一緒に下校できてる!

 こんな嬉しいことがあっていいのかな!


 帰りの学活で、先生に欠席者の連絡物を届けるように言われていた白鳥くん。

 遅くまで残れないだろうし部活もあるだろうから、今日の放課後は一緒に過ごせないかなと残念に思っていた。


 だからつい通学路を帰る白鳥くんの後をつけてしまい、その上本人に見つかってしまったのだけど、どうにか誤魔化してこの状況まで漕ぎつけた。


 彼とおしゃべりをしながら歩くのは、少しドキドキしたけどとても楽しい。

 この時間がずっと続けばいいのにと思ってしまう。


 ふと、住宅街に入った時に既視感きしかんを覚えた。


「あ、この辺りは小学校の頃に何度か来たことあるかも。お友達の家に行く途中で通った気がするな~」


「そういえば、赤井あかいさんって小学校の時とは違うところに住んでるの?」


「うん、そうなんだ。ここからはちょっと遠いかな」


「え、じゃあ、帰り遅くなってお家の人心配するんじゃない?」


「うふふ、今日はお父さんもお母さんも帰りが遅いから大丈夫だよ」


「だからって大丈夫ってわけじゃないと思うんだけど」


 白鳥くんは苦笑したかと思うと、通りかかっていた一軒の家を指差して言う。


「あ、ちなみにここが僕の家だよ」


 え、なんだって!!!

 ここが白鳥くんのお家!!

 白鳥くんはここに住んでるんだ!!


「ふむふむ、白鳥くんのお家はあそこなんだ」


 わたしはスマホを取り出し、素早く地図アプリに位置情報をメモした。


「……どうしたの、赤井さん?」


 白鳥くんにいぶかしむような目を向けられてしまった。

 と、とりあえず笑顔……!


「ううん、何でもないよ! えへへ」


 でもやったー!!

 好きな人に家を教えてもらえたことに、わたしは心の中で飛び跳ねて喜ぶのだった。



   ◇◆◇◆◇



 白鳥くんが緑川みどりかわくんの家に連絡物を届けている間に、わたしも用事を済ますふりをする。

 それから再度合流すると、彼から驚きの提案をされた。


 なんと、わたしの家まで送ると言ってくれたのである!

 わたしのことを心配し、守ってくれようとする彼の気持ちに胸が熱くなり、鼓動が加速した。


 喜びを噛みしめながら白鳥くんと歩く。

 しかし、さっきから同級生の子たちとすれ違い、そのたびにびっくりしたような目で見られていた。


 たぶん、わたしたちが付き合っていると誤解しているのだろう。

 そう考えると、なおのことドキドキしてきてしまった。

 でも、白鳥くんは、わたしなんかと誤解されて嫌じゃないかな……?


 そう思いながらちらりと彼に目を遣ると、


「ごめん、絶対誤解されちゃってるよね」


 と、申し訳なさそうな顔の白鳥くんに謝られてしまった。

 やっぱり彼も同じことを考えていたようである。


 うふふ、同じこと考えてたなんて、ちょっと嬉しいな。


 そうだ、せっかく一緒に帰れてることだし、ちょっと攻めてみよう。


「別にいいんじゃない。誤解されちゃっても」


「え」


「そうだ、いっそ本当のことにしちゃおっか?」


「え!?」


 白鳥くんが赤面して驚いた。


 ああ、今日も白鳥くん可愛いな……。


「うふふ、冗談だよ」


「え……冗談?」


「うふふ、ごめんね。驚かせちゃって」


「あ、ううんっ!」


 さて、と。

 もうそろそろわたしの家に着いてしまう。

 名残なごりしいけど、この後の道はちょっとだけ複雑だし、これ以上白鳥くんに送らせるのも悪い。


「さあ、もうここまでで大丈夫だよ。わたしの家はすぐそこだから」


「いや、せっかくここまで来たんだし、念のため家の前まで送るよ」


 やっぱり優しいな、白鳥くんは。

 可愛いし頼りがいがあるし、わたしは彼のことが大好きだ。


 だからこそ、もうちょっとだけ攻めたくなってしまう。


「あれあれ、もしかして送りオオカミになろうとしてるのかな? わたし、今日親の帰りが遅いって言ったし」


「そんなことないって!」


 焦ってる焦ってる! あぁ、ハグしたいくらい可愛いなぁ……!

 よ、よし! すでにとっても恥ずかしいんだけど……もうちょっと、もう一押しだけ頑張ってみよう……!!


 わたしは何度も練習した美人スマイルで言う。


「だけど、もしオオカミになってもいいよって言ったら、送ってくれるのかな?」


 ん~~~はわぁぁああああ!! 恥ずかしい!!!

 言っちゃった!! 言っちゃったよ!?


 思わずそむけそうになる目をどうにか白鳥くんに向ける。

 すると彼は、頭から蒸気を出しそうなほど顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。


「ちょっ!? それも冗談っ?」


「うふふ」


「もう、赤井さん意地悪だよー!」


「とにかく、もうここで大丈夫だから。今日は本当にありがとうね、白鳥くん」


「ううん、こっちこそ楽しかったよ。また明日学校でね」


「うん、また明日~!」


 白鳥くんに見送られながら、わたしは家へと歩く。

 そして彼に声が聞こえなくなったくらいのところで、


「今のは冗談じゃなかったんだけどな……」


 ……と、ぽつりとつぶやいた。


「って何言ってるんだわたしはっ!」


 たくさん歩いたせいか、顔が火照ってしょうがない。

 外の風で冷やしながら、わたしは家へと帰るのだった。

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