第14話『家庭訪問(前編)』 ――苺side

―― いちごside ――



 白鳥しらとりくんの家にお呼ばれし、まずは一緒にご飯を作ることに。

 緊張のせいで、昨晩どころか一昨日の晩もほとんど寝られなくて眠いけど、ちゃんと彼とお話できてるかな……?

 ちょっと不安……。


「僕は何を手伝えばいいのかな?」


 キッチンに立ったところで、白鳥くんにたずねられた。


 白鳥くんはあまり料理をしないってこの前言ってた気がするし、簡単なことをお願いした方がいいかな。


「んーと、じゃあまずは調味料とかの準備をお願いしてもいい?」


「了解」


 白鳥くんが冷蔵庫や棚から調味料を出し始めた。

 その間にわたしは玉ねぎを刻んでいく。


 しかし、白鳥くんが色々な棚を開けては閉めるだけを繰り返すように。

 何か見当たらないものがあるのかな。


「あれ、サラダ油ってどこにあるんだっけ」


「ちょっと白鳥くん~、ちゃんとしてよ~」


「ごめんごめん」


 白鳥くんが気まずそうに笑って頭をく。


 えーと、確かサラダ油は……。


「それならその下の棚の中にあるよ」


 白鳥くんはわたしが目を向けた先にある棚を開け、少し驚いたような顔になる。


「本当だ。って、僕より詳しいんだね」


 わたしは少し演技がかった口調で言う。


「ふっふっふー、このキッチンは以前使わせてもらった時にしっかり把握済みなのだよ、白鳥くん」


「さすが赤井あかいさんです」


 クスリと笑う白鳥くん。

 そんな白鳥くんを時々からかいながら、その後も一緒に料理をした。


「はい、完成~!」


 お皿に盛り付けたオムライスを前に、白鳥くんが目を輝かせた。


「わぁあ! すごく綺麗だよ!! ねえ、写真撮ってもいい?」


「うん、いいよ!」


 白鳥くんがポケットからスマホを取り出し、何枚も写真に収めていく。


 な、なんだかちょっと照れる……。

 だけど白鳥くん可愛いなぁ。

 小さな子どもみたいに好奇心に満ちた顔をしてる。


 将来、白鳥くんに子どもができたら、ずっとこんな顔をしてるのかな……?

 って、何考えてるんだわたしはっ!!


 オムライスをダイニングに運び、二人向かい合って座る。

 そこでもまだ、白鳥くんはオムライスを眺めてうっとりとしていた。


「わぁあ~」


「さあ、冷めないうちに食べるよ、白鳥くん」


「うん、もうちょっとだけ眺めてから」


「もぉ、白鳥くんったら~……うふふ」


 ダメだ、可愛すぎてつい笑みが漏れてしまった。


「どうしたの、赤井さん?」


「ううん、何でもないよ。ただね……」


 可愛かったからって言ったら傷付いちゃうかな。

 白鳥くんも男の子なんだし。


 よし、せっかくだし、白鳥くんにアピールしちゃお。


 わたしは片手で頬杖をつき、白鳥くんに微笑む。

 どこかの雑誌で読んだ、男子がきゅんと来るポーズである。


「新婚生活はこんな感じなのかなぁって考えちゃって」


「なっ……!?」


 し、新婚生活は言い過ぎたかなっ!?

 段階をすっ飛ばしちゃってるよねっ!!

 白鳥くんもびっくりして口を開きっぱなしだし!


 白鳥くんは耳まで赤くして、ぱっと顔をそむけた。


「そ、そうかもねっ」


「さあ、食べよっか」


 顔が火照ほてったように熱い。

 白鳥くんに見られてなくてよかった。



   ◇◆◇◆◇



 ダイニングに向かい合って座り、わたしたちはそれぞれ合掌がっしょうする。


「「いただきます」」


 待って。

 このまま普通に食べちゃったらもったいないかな……?

 そうだ、少しだけ積極的なことしちゃおう。


「あ、ちょっと待って」


「どうしたの、赤井さん?」


 手を合わせたまま固まる白鳥くん。

 そんな彼にわたしは、完璧美少女の笑みを意識して言う。


「あ~ん、してあげようか? この前みたいに」


「えっ!? い、いいよ!! 自分で食べれるって!」


「そう? ざんねん♪」


 だ、だよね!!

 普通恥ずかしいもんねっ!

 この前は風邪だからさせてくれただけなんだろうなぁ……!


 白鳥くんはスプーンでオムライスをすくい、一口食べた。


「どう? 美味しい?」


 白鳥くんはきらきらとした笑顔になった。


「うん、すごく美味しいよ! 今まで食べてきた中で一番!」


「え~、それは大げさだよぉ」


「本当だって!」


 わぁあ! わぁあ! どうしよう、嬉しすぎるよぉっ!!


 彼のことだし、お世辞せじで言ってるわけじゃなさそう。

 この日のために家で何十回も練習した甲斐かいがあった!


 あれ、白鳥くんのほっぺにケチャップが……。


「あ、白鳥くん。ちょっと動かないで」


「え」


 きょとんとする白鳥くんなんかお構いなしで、わたしは身を乗り出し、彼の頬を指でき取る。

 そしてその指を白鳥くんに見せ、目を細めた。


「ケチャップ、付いてたよ」


「あ、あああ、ありがとう……っ!」


 白鳥くんはでダコのように顔を真っ赤に染めてあたふたとしていた。

 そして、わたしの指をちらちらと見て言う。


「えっと、ごめん、手が汚れちゃったね。洗ってきた方がいいかもっ」


「あ、うん」


 わたしは立ち上がり、キッチンの方へと向かった。

 しかし、水を出したところで止まった。


 こ、このまま流しちゃったら、もったいないよね……?

 白鳥くんはこっちを見てないみたいだし……。

 よし……っ!


 ――パクッ


 めた! 舐めちゃった!

 これでわたし、変態の仲間入りだよぉ!!

 でも……。


「……甘い」


 そのケチャップは、不思議といつもより甘く感じた。

 それは思考が溶けるような甘さだった。


「赤井さん、大丈夫?」


「っ!?」


 いつの間にか白鳥くんが後ろに立っており、わたしに呼び掛けてきた。


 ひょっとして今の、見られちゃった……っ!?


「もしかして、服とかにケチャップ付いちゃった?」


 白鳥くんが心配そうな面持ちでそうたずねてきた。


「え、ううんっ! 大丈夫! 全然そんなことはないよ! だから白鳥くんは戻ってていいよ!」


「あ、うん、それならよかった」


 よかったぁああ!!!

 どうやら見られてなかったみたい!!


 だけどもうこんな変態なことはしちゃダメだよね……っ!

 は、反省……。


 さて、お昼を食べた後は漫画を読む時間だ。

 ここからが本番である。

 このあとも完璧美少女として頑張らなきゃ。

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