第15話『家庭訪問(後編)』 ――千尋side
――
昼食を終え、漫画を読む時間に。
僕は
「じゃあ、ここに漫画持ってくるから待ってて」
「あれ、
「ふ、普通そうでしょ……!」
自分の部屋に赤井さんと二人きりなんて、緊張でどうかなってしまいそうだ。
しかし、赤井さんはねだるような
「えー、白鳥くんのお部屋が良かったなぁ」
「なっ!? 僕の部屋で!?」
僕の部屋が……良かっただって……!?
赤井さんの口からまさかそんな言葉が飛び出すとは思わなかった。
え、でもなんで!?
「この前も入ったし、何も問題ないと思うんだけど」
「問題大ありだよ!」
「へえ~、何の問題があるのかな~?」
「そ、それは……っ」
自分の部屋に赤井さんと二人きりになることが緊張するとか、口が裂けても言えない……。
「あ! 分かった。ひょっとして、やらしいものがあるとか?」
「そんなものないって!」
ああ、ダメだ。
すぐにうまい言い訳が出てこない……。
まあ、どうせ家には両親ともいないから、リビングでも僕の部屋でもほとんど同じことだろう。
「わ、分かったよっ! じゃあ、僕の部屋でいいから、ついてきて」
「わーい! やった!」
嬉しそうに笑みを浮かべる赤井さんは、悔しいほど可愛かった。
◇◆◇◆◇
部屋の中央に低い丸テーブルを出し、僕らは向かい合ってクッションに座った。
テーブルの上には漫画が積み重なり、赤井さんの顔もよく見えないほど。
それなのに、赤井さんの呼吸音や時々身動きをする音が聞こえるたびに、僕の心臓はいちいち反応してしまった。
僕の部屋に、赤井さんが、いる……!
それも……二人きりで!!
その状況だけでもう色々と限界だ。
漫画を読み始めて30分くらい経った頃、
「どうしたの、赤井さん?」
「ちょっとお花を
「えっと、場所分かる?」
ニヤニヤと笑う赤井さん。
「もしかして、ついてきたいの?」
「なっ! そんなわけないよっ」
「うふふ、場所は分かるから大丈夫だよ。ありがとう、白鳥くん」
赤井さんが部屋を出ていくと、少しだけ緊張の糸が緩んだ。
一緒にいて楽しいし、なんというかすごく幸せなんだけど、なぜだかどうしても緊張してしまう……。
落ち着いてくると、
昨日の夜はあまり眠れなかったし……ちょっとだけ目を休めようかな。
僕は丸テーブルに突っ伏した。
真っ暗な視界の中で、ふわりと身体が浮くような感覚を味わう。
それはとても心地よくて、ずっと
一瞬意識が飛んだ、と思って頭を起こす。
「……あれ、僕、寝てた……?」
外は日が
思ったより長く寝ちゃってたのかも。
テーブルで腰を曲げて寝ていたせいか、身体が痛い。
「ふぁあ~~~……んっ!?」
身体を伸ばそうとして、違和感を覚えて固まった。
僕のすぐ真横に誰かがくっついている。
恐る恐るそちらに顔を向け、全身に電気が走った。
「あ、あああ、赤井さんっ!!」
え、え、どういうこと……っ!?
どうしてこんな状況になってるの!?
赤井さんが僕の肩に頭を置いて、すやすやと寝息を立ててるんだけど!!!
赤井さんは寝ると少し体温が上がるのか、はたまた僕が寝起きで体温が低いのか。
熱いまでに彼女の温もりを感じることができる。
なんだかほんのりと甘い香りもするし……。
恋人関係でもない男女が部屋で二人きり。
このままの姿勢というのもなんだかまずい気がする……!
とりあえず起こした方がいいよね……っ!
いや、でもせっかくだし、もうちょっとだけこうしていたい……かも。
赤井さん、寝顔も可愛いなぁ……。
いつもの明るい表情とは違って静かな雰囲気で、小学校の頃の彼女を思い出す。
そこで赤井さんが「むにゃむにゃ」と口を動かした。
何かを食べる夢でも見てるのかな。
不意に彼女の唇に目がいってドキッとする。
鮮やかな桜色で、小さくてもふっくらしてて、
「悪戯しないの?」
「っ!?」
寝ていたはずの赤井さんが
「も、もしかして起きてた?」
まさかと思って
「うふふ、白鳥くんったらすごく慌てて面白かったぁ~」
「もう、赤井さん~!
「えへへ~」
赤井さんは笑いながら漫画を手に取り、読み始めた。
僕にぴったりと身体をくっつけたまま。
「って、このまま漫画読むのっ!?」
「え、ダメ?」
「だ、ダメってわけじゃないけどその……えっとっ!」
「うふふ、白鳥くんって本当に面白いね」
「い、今のも冗談……?」
「ごめんね、ちょっとからかいすぎちゃったね」
赤井さんは楽しそうに笑いながら離れ、僕の正面に移動した。
触れていた
だけど、これ以上くっついていたら僕の理性がどうかなってしまいそうだった。
一度席を
そういえば、ドキドキさせられたせいか
「ちょ、ちょっと飲み物持ってくるね。お茶で大丈夫?」
「うん、ありがとう」
僕は部屋を出て、キッチンへ向かった。
「赤井さん、可愛すぎるよ……」
赤井さんにはたくさんからかわれてるけど、それでも彼女が可愛く感じてどうしても許してしまう。
やっぱり赤井さんには、これからもずっと
そんなことを考えながら、僕は冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出すのだった。
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