第12話『勉強会』 ――苺side
――
放課後、わたしは
他には誰もいない。二人きりの勉強会。
ずっと待ち望んでいた時間である。
白鳥くんと二人きりという状況につい緊張してしまう。
だけど、なんとしてもここで白鳥くんにアピールしなきゃ!
そう思って、ちゃんと作戦だって立ててきたんだから。
「ね、ねえ赤井さん」
白鳥くんに呼ばれた。
来た! と心の中で身構えつつ
「どうしたの?
「それが……ここからここまで全部解らないです……」
「ありゃりゃ……」
暗い表情で
これは教え甲斐がありそうだなぁ……!
まさか端から解らないとは思わなかったけど、立ててきた作戦を実行するにはむしろ好都合だ。
よし……!
わたしは、ぎゅっとスカートの
そして彼の隣に腰を下ろして、ぐっと身体を寄せた。
せ、せっかく教えるわけだし、これくらいのご褒美もらってもいいよね……っ!
うぅ……だけどすごく恥ずかしいっ!!
「あ、
赤面してあたふたする白鳥くん。
こういう反応をしてくれるということは、わたしのことを女の子として意識してくれてるということなのかな。
だったら、ちょっとだけ嬉しいかも。ううん、すごく嬉しい!
でも今は、その嬉しさを上回る勢いで緊張する……!
その緊張を表には出さないように注意しながら答える。
「この方が教えやすいかなって。ほら、教える過程でテキストをいちいち反対にするのも大変でしょ?」
「そ、そうだけど……集中できないというかっ!」
「あれれ白鳥くん、この姿勢だとどうして集中できないのかな?」
「そ、それは……っ! ……やっぱりこのままで大丈夫ですっ」
白鳥くんは何かを言いかけて折れた。
ごめんね白鳥くん! こんなこと言っておきながら本当はわたしの方が集中できそうにないよ!
さっきから小刻みに鼓動する胸が
「うふふ、それなら教えていくね。まずはこの問題だけど……」
「っ!?」
問題を指し示すためにさらに白鳥くんとの距離を詰めると、白鳥くんの身体がぴくりと動いた。
はうぁ~~!!!
お、落ち着いてわたしっ!
余裕。余裕なふり……!
「本当にどうしたの、白鳥くん?」
「えっと、いや、な、なんでもないですっ」
「変な白鳥くん」
その言葉で、白鳥くんの表情が少し変わった。
顔は相変わらず赤いけど、ちょっとだけシャキッとしたというか……。
「ごめん、えっと、続きをお願いしても大丈夫かな?」
「うん!」
わたしは白鳥くんに問題の解き方を教え始めた。
緊張でうまく頭が働かなかったから、何度も確かめ
◇◆◇◆◇
「……となるから、あとはここにその数字を当てはめて解くだけだよ」
「なるほど。ありがとう、すごく解りやすかったよ!」
白鳥くんと勉強を始めてからまだ30分くらいしか経ってない。
でもわたしの体力はすでに大半が削られていた。
頑張って隣にぴったりくっついて教えるようにしたけど……やばいこれすごく近い!!
細身ながらもしっかりとした肩の感触。
僅かに伝わってくる温もり。
すべてがわたしの鼓動を加速させる。
それにどうしちゃったの、白鳥くん……!
急に余裕そうになったというか……うぅ、調子狂うよぉ。
い、一回休まないと心臓がもたない……。
よし、自然に提案してみよう。
「ちょっと休憩する?」
「僕は大丈夫だけど、赤井さん疲れた?」
え、勉強が嫌いな白鳥くんなら休憩すると思ったんだけど……!
「ううん全然平気だよ!」
「そっか、じゃあこのまま続けようか」
「そうだねっ」
わたしのばかぁ!
素直に休みたいって言えばよかったのに!!
白鳥くんの前でつい見栄を張りすぎちゃう
その後もわたしは、ドキドキでおかしくなりそうになりながらも、白鳥くんと密着したまま勉強を教えたのだった。
しばらく勉強を進めていると、下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
「じゃあ、そろそろ終わりにしよ――」
――ガラァー
わたしが言いかけたところで、
「いっけね、いっけね! 忘れ物~!!」
それは
「って、
緑川くんは何かに気付いたような顔になり、それからニヤニヤとわたしたちを交互に見る。
み、緑川くん、もしかしてすごい誤解しちゃってる!?
ううん、わたしたちの今の状況を見れば誤解して当然だよね……!
ど、どうしよう!
どう説明していいか分からずに困っていると、隣で白鳥くんが「待って……僕らの仲を噂されたら……もう勉強会ができなくなっちゃうかも……」と独り言のように呟き、慌てて事情を話そうとする。
「待って、みーくん! みーくんの想像してるようなことではなくてねっ! えっと……」
うまく言葉が出てこないみたいだ。
白鳥くん一人に頑張らせるわけにもいかない。
わたしは小さく息を
「やっほー、緑川くん! 今ね、白鳥くんと一緒にお勉強してたんだぁ~。緑川くんも一緒にする?」
「なんだ勉強してただけかよー。勉強ならオレはいいや! 遠慮しとく!」
よ、よかったぁ、何とか納得してくれたみたい。
緑川くんは自分の席から忘れ物を回収すると、一言二言白鳥くんとお話をして教室を後にした。
わたしは思わず
危ない~! 白鳥くんの前で焦っていたことがバレちゃうところだった……!
い、今の見られちゃったかな……? 変に思われてないかな……?
念のため注意を
「どうしたの白鳥くん、顔赤いよ~?」
「えっ! な、なんでもないよっ!」
「えー、やっぱり赤いよぉ~」
ごめんね白鳥くん!
でもすごく可愛い反応……っ!
もっといじめたくなっちゃう……!
「そうだ、白鳥くんには次回までの宿題を出します」
「え、宿題は……」
一度は眉を曇らせる白鳥くんだったが、すぐに諦めの表情を浮かべて
「ど、どんな宿題でしょうか……?」
「次回までに、こうやって隣で一緒に勉強したいか、最初みたいに向かい合って勉強したいか考えておいてね」
「えっ!?」
わぁぁああ! すごいこと
ものすごく攻めた発言だよ!!?
ほ、ほっぺたが
白鳥くんが耳まで真っ赤になって真ん丸の目で見つめてきた。
それから顔を
「わ、わかりました……っ」
ちなみに次回、白鳥くんに回答を聞くと「……隣がいいです」とのことだった。
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