剣を取り戻せ!(2)

 佐藤とは。日本で一番多い苗字であり、東北地方に特に多い。佐藤姓は、全国約200万人いると言われている。


 そんなキングオブ苗字である佐藤が異世界にいるわけが無いのだ。普通は。


「転生者……片桐と同じようにやって来たやつだろうな」

「絶対そうっすよ。サトウなんて佐藤しか居ないに決まってるっす!」

「砂糖かもしれないぞ」


 冗談は置いといて……多分佐藤もチート貰ってやりたい放題やっちゃってくれてるのだろう。じゃないとこのガチムチのリーノをボコせるわけがない。他にも色々問題を起こしているのかもしれない。


「多分特定は簡単だろう。こんな大男ボコってイキってるキッズだからな。剣を取り返すついでに刑務所にぶち込んだ方がいいんじゃないか?」

「まーまー穏便に桜井さん。まだどんな佐藤か分かんないっすから。ちゃんとした佐藤だったら注意だけで済みます」


 なんだちゃんとした佐藤って。


「おい! 結局依頼受けてくれるのか?」


 とリーノが机をバンと叩いて話を遮ってきた。


「あ、はい。いいよな片桐?」

「勿論っすよ! あ、報酬は後払いでいいっすよ。三日後くらいにまた来てください」

「本当か! じゃあ期待して待ってるぜ!」


 と言ってリーノは帰っていった。



 ─────


「さぁー! 初仕事っすね桜井さん! 頑張りましょう!」

「そうだな。まずは佐藤が現れたギルドの酒場へ聞き込みかな」

「違うっす。まずはコードネームを決めるところから始めるっす」

「……は?」

「だってー大事っすよ? コードネーム。ボクらも本名を名乗ってたら転生してきたってバレちゃうっす」


 なるほど。確かに俺達の名前はこの世界では浮くかもしれない。変に目立つのも避けたいし。


 ……そうか彼女なりに考えての発言だったのか。


「分かった」

「よし、じゃあ桜井さんのコードネームは……チェリーボーイ!」

「……おい」


 前言撤回。片桐の頭にチョップを1発ぶち込む。


「うわっ! いったぁ!! うー。酷いっすチェリーさん。誤解しないで下さいよ。名前に桜ついてるじゃないっすか!だからcherry。で男の子だからボーイ……」

「却下だ」

「でも……」

「却下」

「チェリー……」

「黙れ?」


 しつこい。なら片桐の方から決めよう。


「お前から先に決めよう」

「お、いいっすね。自分で決めるのもあれなんで桜井さん決めて下さいよ」

「そうだな……お前は……」


 ふと片桐の髪についてる髪飾りが目に入った。あ、これにしよ。


「……クローバー」

「おっ、なかなか可愛らしい名前付けてくれるじゃないっすか! 気に入りましたよ!」

「そうかよかった」

「えへへ……クローバー。かわいい!」


 3秒で決めた名前を気に入ってくれてよかった。


 そういえば昔飼っていた猫の名前決めるのに1週間はかかったのを思い出した。片桐はペット以下か。


「じゃあボクのことクローバーちゃんって呼んでくださいね?」

「おっけー。クロちゃん」

「略さないで下さい!! 某芸人が頭に浮かぶっす!」


 片桐はポコポコ俺を殴ってくる。何もそんなに怒らなくても。


「次は桜井さんの番っす」

「もう自分で決めていい?」


 片桐に頼むとろくな名前にならない。


「まぁいいっすけど。何にするんっすか?」

「ホームズだ」

「え?」

「ホームズ。便利屋の名前だしいいだろ? あと探偵だし俺に似合ってる」


 片桐は少し笑った。似合わないとでも言うのかと思ったが、良い名前っすね! と答えてきた。


「まぁー桜井さんは名探偵には程遠いっすけどね。まぁいいっすか。じゃあホムさんって呼びます」

「よし決まりだな。じゃあ早速酒場へ行くぞ片桐」

「違うっす。クローバーちゃんです」

「……行くぞクローバー」

「はいっす! ホムさん!」

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