怪盗なんて泥棒と一緒だろ?(3)

 ──2日後の24時。シューベルト宅裏口。


「……マジで俺がやるのか」


 俺達は大豪邸のシューベルト宅へやって来ていた。……片桐のテレポートで。


 ……いやもう片桐がやれよ。あいつなら取ってテレポートでおしまいじゃん。俺がそう言ってみると片桐は


「それは駄目っすよ。面白くないっす」


 と反論してきた。何面白くないって。盗みに面白さなんて求めちゃ駄目だって。ねぇ。


 一方マルクは手に持っている懐中時計を見て、呟き出した。


「クックックッ、時間だ。ザ・ショウタイム、潜入開始だ」

「ださっ……」


 そう言ってマルクが慣れた手つきで裏口の鍵穴に何か針金の様なを入れ始めた。すると、ものの数秒でカチャリという鍵の開く音が聞こえてきた。


「うわぁ……」

「何故引いている。褒めるところだぞ」


 目の前でそんなんされたら普通に引くわ。


「よし、行くっすよ!」


 そう言って片桐は俺の背中をどんどん押してくる。


「え、ちょっと待て……!」

「ホムさんがリーダーっすからホムさんが先頭っすよ」

「ま、待て!!」


 そんな俺を気にせず、片桐は俺を家に押し込んだ。


 ───


 家の中は真っ暗で静寂に包まれている。まぁ夜中だし寝静まっているのは当然の事か。


 俺がこれからどうすればいいかをマルクに聞こうとすると、マルクに口を塞がれた。


(……こんな所で声を出すな。見つかるだろう)


 コイツ直接脳内に……! なるほど。怪盗だからこんな便利な能力も使えるんだな……


(そうっすよ! ホムさん! 常識ってのが無いんっすか!)


 お前も出来んのかよ!! なんの能力か知らんけど俺出来ねぇよそれ!! 俺だけ出来ないの!?


(フン……ホームズは脳内会話が出来ないのか。困ったな)

(まあー何とかなるっすよ! だってボクとホムさんは通じ合ってるっすからね……!!)


 ならねぇよおい。絶対大丈夫じゃない。引き返すなら今のうちだぞ?


(とりあえずだ……長い廊下が目の前にある。だから膝を着いて直進しろ。姿勢を低くするんだ)


 マルクの指示に俺は無言で頷き、膝を着く。そして暗闇の中をゆっくり……ゆっくり進んで行って……


(……っふはは!! 何にもないのになんでハイハイしてるんすかぁ!!)

(クックックッ、もう少し眺めていたから静かにしているんだ)



 ……俺で遊んでる!! このっ……!! こいつらァ!!


「お前らぁ!! 何し……」


 慌ててマルクが俺の口にに手を当てる……が時すでに遅し。俺の怒号が家中に響き渡った。


「おい、誰か居るのか!?」


 遠くの方から声が聞こえてきた。恐らく家主の声だろう。


(あわわわわ!! まずいっすよ!)

(冷静になれ。とりあえず隠れるんだ)


 隠れるって言ったって……俺たちがあたふたしているうちに足音は近づいてくる。


(よし、天井に張り付け!)

(了解っす!)


 いや出来るかぁ!!


 2人は驚異的なジャンプ力で天井に張り付いた。が、何も出来ない俺はただ1人立ち尽くすだけだった。


 足音はどんどん近づいていき……俺はライトで照らされた。


「……ん!? な、なんだお前は!?」


 バレちった。


「あ、怪しい者じゃ……」

「ここ私の家なんだが!? 怪しいよ!?」


 やっぱり誤魔化せなかった。た、助けてぇ! マルえもん!!


「クックックッ、バレたらこれだよ」


 そう言ってマルクは天井に張り付いたまま、煙玉を目の前に投げた。


 一瞬で辺りは真っ白な霧が広がった。


「なにっ!? く、くそ!」


 よし、これで見えなくなった!早いこと撤退しよう!


 そう俺が思っていると、また脳内会話が聞こえてきた。


(マルクさんこれからどうするっすか?)

(クックックッ、続行するよ)


 えぇ!? 続けるの!?


(ホームズ、霧の中を突っ走れ。そして階段を駆け上がるんだ)


 無茶苦茶だ!!バレてる状況でそんなこと……!


(行け!)


「えぇ……」


 もう知らん。俺は霧の中を駆け抜けて行った。


 すると螺旋階段が見えた。よし、これを上れば……


「待て! 泥棒め!」


 後ろからシューベルトと思われる男が俺を追ってくる。


 やめてぇ!! 来ないで!!


 急いで階段を駆け上がった。いつの間にかマルクと片桐の姿は居なくなっていた。



(聞こえるかホームズ。盗みはキミに任せた。我らは脱出の用意をする)


 いやお前ら離脱してんじゃねぇか!!ずるい!!


(恐らく3階の一番奥の部屋。そこにカロストーンがある)


 いや遠いわ。俺体力ないの知らないの!?


「待てぇ!」


 どんどん声が近くなってるのに気がつく。ああもう走ればいいんだろくそ!!


 俺はもっと階段を駆け上がり3階までやって来た。


「はぁ……はぁ……」


 当然息も上がる。階段ダッシュしたのなんで何年ぶりだよ。


「待てー!!」


 老人も元気に俺を追いかけてくる。どうやら休んでる暇は無いようだ。


 俺は長い長い廊下を最後の力を振り絞って走る。


 っはぁ……あと……あと少しだ!!


 あと100メートル……50……10……


 つ、着いた!


 扉をバンと開くと、目の前には真紅に輝く大きな宝石が、透明なケースに入れられていた。


「はぁ……こ、これだ!」


 俺はそれを外して持ち出そうとする。が……上手く外せずに時間がかかる。


 ……よし! 取れた!


 後は逃げるだけだ! ポケットにしまい、逃げ出そうとする……


「はぁ……逃げ場は無いぞ泥棒め」


 いつの間にか追いつかれていたようだ。


 この部屋の出口は1つ。その出口をシューベルトによって塞がれてしまった。


 くそっ、どうする……! どうする……!!


 そんな時、脳内にマルクの声が響き渡った。


(ホームズ、窓をぶち破れ!)


 な、何を言っている!? そんなことをすれば落ちるって!! ここは3階、死ぬまではいかなくても骨とか折れるって!!


「観念しろ泥棒!」


 シューベルトとはどんどん俺に近づいてくる。逃げ場は……無い。


 くそっ、信じるぞ!! マルクッ!!


(早く!! 飛べっ!!)


「だぁぁぁあああああ!!!!」


 俺は窓ガラスに向かってダイブした。


 ガラスは勢いよくパリーンと割れて、俺の体は外へ投げ出された。


「捕まって!! ホムさんっ!!!」


 目の前は宙に浮いている片桐とマルクがいた。


 落下しながらも俺は片桐に手を伸ばす。


「どりゃああぁぁぁ!!!」


 ガシッと掴めた。間一髪だ。


「ホムさん、落ちないで下さいね!」

「クックックッ、上出来だ。退散しよう」


 俺は片桐に手を引かれながら、夜の街を飛んでいったのだった。


 空から見る夜景はとても綺麗で、まるで俺らを祝福しているかの様に見え……


「ん? ああ!! ホムさん!! 血が出てるっす!!」

「クックックッ! 壮絶な戦いの後みたいでかっこいいねぇ」


 言われて俺は顔に手を当てる。うん。……これ血だ。


「ぎゃあああああ!!!」



 ───


「お疲れ様だ」

「お疲れ様だ。じゃねぇだろ潰すぞ」


 俺達は無事……? に便利屋ホームズへと戻って来ることが出来た。着いて直ぐ片桐に手当をしてもらったから、怪我は大丈夫だが……


「クックックッ! そんなに怒らなくてもいいじゃないか」


 俺を酷い目に合わせたコイツを許してはおけない。


「ああ!? もうお前二度と来んな!! 分かったか!?」

「フッ……断ろう」

「ああん!?」


 俺達がいがみあってると、片桐が話に入ってきた。


「で、マルクさん。あの宝石どうするんすか?」

「ああ、あれね。キミらに差し上げるよ」

「え? いいんすか?」

「ああ。我の目的は『盗む』という行為であって、盗んだ物にはあまり興味が無いのだ」


 そう言ってマルクは俺のポケットから宝石を取り出し、片桐に渡した。


「……おい」

「クックックッ。受け取るが良い」

「わぁーありがとうございます!」


 なんでお前が取ったみたいになってんだよ!!俺が取ったやつだもん!!


「フッ……依頼料金もそれでいいな? それじゃあ我はそろそろ帰るとするぞ」

「おうおう帰れ帰れ。もう来んなよ」

「ではサラバダー」


 そう言って煙幕を投げた。煙がもくもく出て真っ白な世界に包まれる……





「ゴホッ!! ゴホッ!! ……っだぁ!!クローバー窓!! 窓開けて!!」

「……は、はいっす!!」


 片桐は急いで窓を開ける……そして数分後、ようやく辺りが見えるようになった頃には、マルクの姿はもうなかった。


「……なあクローバー」

「なんっすか?」





「俺アイツを刑務所にぶち込みたい」

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