初めて行く料理屋は少し緊張する(2)
「ホムさん……美味しい料理を作れるんなら最初から作ってるはずっす」
「……だよね。ごめん」
ふとメルの方を見るとすっかり涙目になっていた。依頼に来ただけなのに、俺達に言いたい放題言われて本当に可哀想だ。
「あーホムさん泣かせたぁー!」
「元はと言えばお前が味普通何て言うから!」
「嘘つくのは駄目っすよ!」
「もっと言い方ってのがあるだろ!」
「特徴の無い味って言えばいいんすか!!」
俺達がギャーギャー言い合っていると、メルは突然立ち上がった。当然俺達の首はそっちへと振り向く。
「ど、どうしたメルさん。怒ったか? 謝るから帰らないで!」
「いやほんと申し訳ないっす。ふざけすぎましたごめんなさいっす。依頼料金タダにするから帰らないで!」
するとメルはゆっくり口を開いて……言った……
「……爆破しよ」
「はぁああああああああ!?」
「ぇぇぇえええええええ!?」
───
「……そう。だから新しい料理屋の人も家族が居るよね? 沢山のお金をかけて作ったお店が爆発したらどんな気持ちかな?」
「……悲しい」
「そうだね? 悲しいね? 君はそんな悲しい事をしようとしたんだよ?」
「……そうなの?」
「そうなの」
……何で俺は何故爆破したらいけないかを丁寧丁寧に説明してんの?
……いや、考えちゃ駄目だ。メルがこんな状態になったのは俺達の責任なのだから。
すると片桐が俺達の会話を遮って、話しかけてきた。
「ねぇーホムさん流石にお腹空きましたよ。とりあえず食べに行きましょ」
「えぇ……クローバー。お前この状況で食べに行くとか言う?」
「いやいや違うっすよ! あの……そう! 偵察ってやつっす! 探偵時代によくやったアレっす!」
ほう、なるほど。まず敵の情報を集めて、何故人気か、何故通いつめるのかを徹底的に調べるのは大切なのかもしれない。
「よし、いい考えだ。早速その新しい店に行こうじゃないか」
「はいっす! もちろんメルさんも来ますよね?」
「……」
「奢るっすから!」
「行く」
───ミルドタウン───
俺達はその新しく出来た料理屋へとやって来た。外から中の様子を眺めてみる。
「えーとここが新しく出来た料理屋のミリノですね。もう昼過ぎだってのに人がそこそこいます」
「うーん確かに」
もうとっくにお昼は過ぎている。それだと言うのに店内には客が数十人はいた。
「じゃあ行きますか」
そう言って片桐は店内へと入って行く。俺達は後ろをついて行った。
入ってすぐに俺は衝撃を受けた。清潔な店内! 一人のお客さんのためのカウンター席の完備! もちろんテーブル席も沢山用意されてる! そしてすぐにやってくる店員! 食う前からいい店オーラがすごい!
そして俺達はテーブル席へと案内された。テーブルにはメニュー表があった。それを見てみる。
「……多い!」
「わー色んなのがあるっすね。迷うっすー!」
「多くても……美味しくなければ……意味無い……」
沢山の料理名の載ったメニューがあった。しかしそれは流石に現代日本のような写真付きのメニュー表ではなく、ただ料理名が書いてあるだけだった。
それに異世界産の食べ物の名前も入っているのだろう。所々よく分からない名前の物もある。俺は片桐に聞いてみる。
「なぁ、クローバー。オススメってのは何かあるか?」
「んー? ここ初めてなのでよく分からないっすけど……あ、この『ターブル肉』はきっと美味いっすよ」
「へぇーじゃあそれにしようかな」
「ふふ、じゃあボクもそれにするっす!」
「え、じゃあ私もそれにするよ」
え? こんなにあるのにみんな同じでいいの? と言おうとしたが、みんな納得してそうな顔をしていたので言うのはやめた。
そして俺はターブル肉を3つ注文した。
肉が来るまで俺はメルに話をしてみることにした。
「そういやメルさんは今日店やってないの?」
「はい、休みです。……この中にウチに来るはずだったお客さんって絶対いますよね。ちょっと話しかけてこようかな」
……まだメルの精神状態はあまり良くないらしい。……爆破しないよね?
「やめといた方がいいんじゃね?」
「そうかな。あ、そうだ、今更だけど2人の名前聞いてなかったよ。教えてよ」
確かに名前は聞いたが、俺達の名前は教えていないことに気がついた。
「ああ、俺はホームズ。そしてこっちがクローバーだ。好きに呼んでくれ」
「へぇーホームズに……クローバーちゃんか。可愛い名前だね!」
「何で俺だけ呼び捨て?」
片桐の方を見ると、顔を赤くしてニコニコしている。ん? ま、まさかこれは……
「はいターブル肉3つ!」
元気なおっちゃんが料理を運んで来た。早いな!
「あ、来たっすね。じゃあ食べましょう!」
「そうだな」
俺は手を合わせて、目の前のお肉に食らいつく。
「……うまっ」
肉汁が染み込んでてソースもかかっていて……うまい。とにかく美味しかった。
2人の方を見ると同じようにガツガツ食らいついていた。もう会話なんかせずに食べることに集中していた。
───
「いやー美味しかったっすねー!」
「そうだな! また来たくなるのもわかるな!」
「……悔しいけど美味しかったよ」
そんなことを言いながら俺達は帰っていた。
「しかしあれに勝つ店になることは中々難しいな」
「そうっすね……」
「バイトが問題行動をした瞬間を記録魔法で残すのはどうかな」
「やめとけ」
しかし真っ向勝負しても多分……っていうかほぼ確実に勝てはしないだろう。ならば……
「メルの長所を生かした店にしたらどうだ?」
「長所?」
「ああ。例えばさっきの店のいい所は美味しさと早さと清潔さって所かな。あの店には無いような長所を作ってやればいい。例えば……落ち着く場所にするとか、値段が安いとか。いい所を作ったらきっと認めてくれる人が現れるはずだよ」
よし。いい事言った俺。
「ホームズ……分かったよ。 私の長所を伸ばして人気のお店にするよ! でも宣伝とか手伝ってよ」
「もちろんだ」
「うん、ありがとう。また来るからね」
そう言って俺達はメルと別れたのだった。
───3日後───
「ホムさん、ポストにチラシが入ってたっす!」
「え? ここまで届けに来るの?」
「まぁやろうと思えばやれるっすね。住所もありますし」
「あるのか……」
そう言いながら片桐からチラシを受け取る。そこには。
静かな喫茶店メルシーハウスと書かれ、コーヒーのイラストの載ったチラシだった。
そして下の方にはコーヒー1杯無料券も付いていた。
「……なるほどね」
「さぁ! 早速遊びに行くっすよ!」
「へいへーい」
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