アルバイトとボランティア活動は1度くらい経験しておけ(1)

「いらっしゃいませー。……あ、クローバーちゃんとホームズじゃん」

「よう、元気か?」

「遊びに来たっすよ!」


 俺達はコーヒー1杯無料券のチラシを持って、メルシーハウスへとやって来た。店内は俺達の他には誰も居なかった。きっと朝早いからだろう。……きっとそう。


「いやぁ……まさか喫茶店になってるとはな」

「ふふ、驚いた? まぁ座ってよ」


 ウエイトレス姿のメルは目の前のカウンター席に指を指す。そこにある丸椅子に俺達は座った。


「ご注文は?」

「ホットコーヒーで。クローバーは?」

「メロンソーダにアイスクリーム乗せたやつ!大盛り!」

「はーい」


 え、そんなのあるの……? ていうかメロンソーダかアイスかどっちかにしろよ。


 メルは俺達に背を向けて、コップを取り出しテキパキと動きながら、氷を入れたり飲み物を注いだりしている。俺はその姿を眺めて……


 ……つい俺は左右に揺れ動くスカートに目が動く──





「ねぇ!! ホムさんって醤油派ですか!? 塩派ですか!?」

「だぁ!? え、な、急に何?」


 急に片桐が俺の耳元で大きな声を上げたためびっくりした。とても心臓に悪い。驚いた顔で片桐の方を見ると、彼女はよく分からない表情をしながら小声で言ってきた。


「……ばか」

「えっ……えぇ?」


 ……もしかして片桐にバレた? いやいや見てたと言ってもガン見してないし! ちょっとちらっと見ただけだし! ……そりゃ動くのあったら見るじゃん! 動物は動くの見るんだよ!! 分かったか!!


「はい、ホットコーヒーとメロンソーダフロートだよ!」


 俺が心の中で弁明……叫んでるしているうちに、飲み物が出来上がったみたいだ。ドンと机の上に置かれる。気を取り直して早速飲んでみる。


 ぐびり。


「うん。おいしい。暖まるなぁ」

「んー! 冷たくて炭酸たまんないっすー!」


 もちろん正直な感想だ。きっと片桐もそうだろう。


 メルはそっかと言ってニコニコ笑顔を見せていた。なんだよ笑えば可愛いじゃん。……するとメルが俺に話しかけてくる。


「ちょっと前ホームズに言われたじゃん。長所を伸ばせって」

「ああ」

「そして考えたんだよ。ここは静かな場所だし落ち着くだろうなって。そしてこの町には喫茶店のような場所が無かったんだよ。だから……私が喫茶店をやることにしたんだよ」

「そうか」

「料理はあっちの方が美味しいってのは認めたから……だから私は飲み物と場所で勝負するんだ」


 メルも考えに考えてこの結果を出したのだろう。簡単にこの決断は下せないだろうからな。とても勇気のいる決断だったろう。


 それに……何を求められているかを考え、それをすぐに実行することが出来る。そこはメルの持っている最高の長所と言えるだろう。


「へぇーすごいっすー! 頑張って!」

「ふふ、ありがと、クローバーちゃん」


 片桐はメルの両手を掴んで応援の言葉を掛けていた。友情っていいね。うん。


「じゃあ料理はもう作らないのか?」

「ううん。必要だったらもちろん作るよ。デザートとか……の料理をね」

「「……」」


 ……まだ引きずっていたのか。


 片桐は俺から目を逸らす。おい、こっち向け。お前が普通って言ったんだろ! おい! 謝れぇー!


 俺達があたふたしていると


「……冗談だよ。もう気にしてないって」


 と笑って言ってきた。


「……よかった」

「安心したっす」



「そうだ、話は変わるんだけど……昼頃になるとお客さんが増えてくるんだよ。それで流石に1人で店をやるのは大変でさ。お願いだからバイトがみつかるまでの間2人とも手伝ってくれないかな?」

「え? 今日からか?」

「うん。あ、もちろん無理にとは言わないけどね」


 メルからバイトのお誘いだ。俺は片桐にどうするかを尋ねてみる。


「いいんじゃないっすか! 喫茶店でアルバイトっすよ! 楽しそうじゃないっすか!」

「そうか。じゃあ……やってみる?」

「はいっす!」

「おおー助かるよ。じゃあ服取ってくるから待ってて」


 そう言ってメルは奥の部屋へと向かって行った。……が、中々戻ってこない。


「何かあったのかもな。クローバー見に行こうか」

「はーいっす」


 俺達は奥の部屋へのドアを開いて入る。するとメルがあちこち動き回っていた。


「どうした? 服無かったのか?」

「いや……あるにはあるのだけど……女の子用しかない」

「えぇ……」


 すると片桐はゲラゲラと笑いながら言った。


「ふっ……ホムさんスカート好きだからいいじゃんっ……ははは!!」









「潰すぞ」

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