アルバイトとボランティア活動は1度くらい経験しておけ(2)

「もう女装喫茶みたいな店にすればいいんじゃないっすかっ……ふっ……!!きっとホムさん人気ナンバーワンっすよ……! んあはは!!」


 片桐はまだゲラゲラ笑っている。コイツ……殴っていいかな。


「いや……別に俺このままの格好でいいぜ?」

「ダメっす。店員に見えません」

「そうだね。もっとシャキッとしてなきゃ」


 何で服装に厳しいんすかお嬢さん方……別に俺変な格好してないよ?


「んー。急がないとお客さん来ちゃうよ。とりあえずクローバーちゃんはこの服着てよ」

「はーいっす。……っしょっと」

「おぃー!!!! 何でここで脱ぐの!?」


 片桐はメルから服を受け取り、目の前で服を脱ぎ出した。


 ちらちら見えるピンク色の下着、ほんの少し膨らんだ胸。透き通るような肌。それを見て、ああ片桐もやっぱり女の子なんだなと改めて感じるのだった。





 ……いや何を言ってんの俺? 頭大丈夫? 脳に虫でも湧いたの? いやいや落ち着け? 片桐だぞ? あの色気の欠片も無い……




 片桐だぞ!!!!!!!!



「あ、ごめん。更衣室ここしか無いんだ。ま、君たちなら別に問題ないでしょ?」

「あるわァ!! 大アリだわ!! つーか普通女の方が嫌がるだろ!! おい! クローバー!」


 すると片桐は受け取った服を身体の前で広げて、それを少しズラして俺から下着が見えるようにして言った。


「……ボクの身体見たくないんすか?」

「うるせぇぇええええ!!!!」


 ……まぁ見たくないと言えば嘘になる。けどそんなこと言えるわけねぇだろ!!!! おおん!?


 片桐は口に手を当ててクスクスと笑ってる。


「流石童貞っす。リアクションが大きいっすね。鼻血吹き出して倒れたりしないんすか?」

「ぶっ飛ばすぞお前」


 おおーそうかい。そっちが気にしないならこっちも何も気にしないわ!! ああ!!


「あのーホームズ、ガン見してる所悪いんだけど……あなたも着替えてくれない?」

「……見てねぇって。ていうか女物しか無いんだろ? ならもう今回はクローバーだけでいいだろ」


 しかし片桐は納得していないようだ。


「嫌っす! ホムさんと一緒に働きたいっす!」

「俺も女物着るのは嫌なんすよねぇ!」


 片桐とメルは顔を見合わせる。


「困ったねクローバーちゃん」

「ホントっすよーホムさん頑固っすねぇ」


 ねぇ何で俺が悪いみたいになってんの?


 いつの間にか片桐着替え終わっていた。そしてメルと何かを話し合っている。


 そしてその後、メルがこちらに近づいてきて耳元で囁き出した。


「な、なに?」

「……ホームズ。君は女の子だ。とても可愛い……」

「何!? 止めてぇ! 洗脳しないでぇ!!」


 怖いって!! 俺が叫んでもメルは囁きを止めない。ずっと言い続けてくる。


「……そう。君はキュートでポップなガール……」

「だから何言って……んの……?」


 するととてつもない違和感が俺を襲ってきた。


 自分の声が高くなったのだ。そして髪が伸びて、更に服がキツくなって……




 俺の大切な……が無くなっていた。


「いゃやぁぁあああああああ!!!!」


 めちゃくちゃ高い声が出た。ホラー映画で最初に死ぬ女みたいな声出たよ。


「ふっふーホムさんに変身魔法を掛けてあげたっす! 女装じゃなくて本物の女の子になっちゃったっすね!」

「何で可愛いの? 」


 なんか2人が言っているが……俺は……女になったの? えっ!! 怖い!! 助けて!!!


「おいクローバー! どうなってんだ!」

「やだーかわいいー」

「うっさい!!」


 2人はニヤニヤニチャニチャしながら俺を眺めてくる。


「おい早く戻せ!!」

「その格好で働いてくれたら戻してあげるっすよ。嫌って言ったら……ずっと女の子かなぁ?」

「き、貴様ァ……!!」


 どうやら拒否権は無いらしい。


 もう……プライドを捨てるしかないのか……くそっ……くそぉ……


「うっ……あぁ……!! や、やります……」

「分かったっす! そんなにボクと働きたかったんすね!もーホムさんったらー!」

「……覚えてろ」


 体が元に戻ったらぜってぇシバく。


 そんなことをしていたら、扉の向こうから、カランカランと音が聞こえてきた。


「あ、お客さんが来たみたい! 行ってくる! クローバーちゃんはホームズちゃんに服着せといて!」

「はーいっす」


 そう言ってメルは部屋から出て行った。待て……! この状況で2人きりはまずい!


「はぁ……!!かわいい! かわいいよホムちゃんんんん! お着替えしよ!!」

「やめろ!!!! 来るなぁ!! 近づくな!!」


 ───



「おおー着替えた? バッチリだね」

「いやー似合ってるっすねーホムちゃん」

「……」


 俺は片桐に連れられて部屋から出た。


 そこには目の前でドリンクを注いでいるメルと、テーブル席に座っている2人のお客さんがいた。


「ちょうどよかった。ホームズ、このコーヒーとソーダをお客さんに出してきて」

「……はい」


 逆らったらもう一生女の子として生きていかなきゃいけなくなるので、素直に従うことにした。飲み物を受け取り持って行く。


「お待たせ致しました。コーヒーとソーダでございま……」


 その瞬間気がついた。コイツ……なんか見たことある。


「あ、ありがとうございます。……あ、僕がソーダです。こっちのルナルドがコーヒー」

「おねーさんありがとー!」



 お前かよエミリオ!!!!! そしてお前がソーダかよ!!! 逆だろ普通!!!



 とツッコミたいが我慢。絶対バレてはいけない……バレたら女装趣味のある変態だと思われてしまう。言いふらされたらもう仕事だって減るかもしれない。


 気づくな……気づくな……


「あ、あのすみません」

「は、はい!?」


 エミリオが俺に話しかけてくる。


「……あ、あなたのお名前を教えてくれませんか?」



 ……はぁあああんんん!? 誰に聞いてんだよ!!! 見る目ねぇなぁ!!?


 それにお前内気の癖にこういうことはガンガン来るんだな!!!


 しかも弟の前で口説こうとするなぁ!!!!


「……えーっと。ホームです」


 咄嗟に俺は偽名を口にする。バレないか……大丈夫か?


 そんな不安をよそにエミリオは笑って言った。


「ホームさん……素敵な名前ですね」










 うるせぇえええええ!!!!

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