初めて行く料理屋は少し緊張する(1)
「ホムさん! ショットガンシャッフルはカードを傷つけるっす!」
「……シャッフルに名前とかあんの?」
俺達は今日もカードゲームをやっていた。元の世界のようにインターネットもテレビも無い場所なので、暇つぶしをするにはやはりゲームなのだ。ゲームサイコー。
ショットガンシャッフルをして、俺がカードを配っている時、ふと片桐が言った。
「ねーお腹空きませんかホムさん?」
「ああ、もう昼か。じゃあこのゲームが終わったら飯にしよう」
「そうしましょう! そうだ、ミルドタウンに美味しい料理屋さんが出来たらしいっすよ! 評判の良いらしいのでそこに行きませんか?」
「ほう。いいね行ってみよう」
俺がそう言ったと同時にカードが配り終わった。
今日のゲームはポーカー。5枚の札で役を作るゲームで、奥が深く難しいゲームだ。でも二人だし賭け金も何も無いので、あまり考えずゆるーくやっている。
「よし始めるぞ。それじゃあ俺は2枚交換……」
その瞬間、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
片桐はその瞬間カードをぶん投げてこっちをガン見してきた。いい加減慣れろや。
「ここが便利屋ホームズですか?依頼があるんですけどー」
女の子の声が聞こえてくる。片桐は椅子から立ち上がってドアの方へと歩みを進める。
ドアを開くとそこには水色のショートヘアーで、もこもこの服を着た可愛らしい女の子がそこに立っていた。
「そうっすよ! どうぞこちらへ!」
「お邪魔するよ」
そう言って片桐は女の子を家に上げた。その間俺は机に散らばっているカードを片付けていた。……ん? 何で片桐フルハウス最初から揃ってんの……?
片桐は女の子を椅子に座らせ、いつものパターンになった。こっからは俺の仕事だな。名前を聞いてみる。
「えーでは名前を教えてください」
「私はメル。メル・エルシアだよ」
「ではメルさんはどのような依頼で?」
「実は……お客さんをもっと増やしたいんだよ」
お客さん……? 片桐の方を向いて見ると天井を見上げて何か考えてる。なんだ?
まぁいいや。とりあえずもっと詳しく聞いてみることにする。
「お客さんってのはどういうこと?」
「あ、ごめんなさい。最初からちゃんと説明するよ」
そう言ってメルは語りだした。
───
私はミルドタウンで料理屋をやっている者なんだよ。『メルシーハウス』って言うお店なんだけどね。
ちょっと前まではそこそこ人気でギリギリ黒字だったんだけどさ……新しい料理屋が出来てから売り上げが激減したんだよ。
何とかお客さんを取り戻そうと店を改築したんだけど……逆効果でもっと人が来なくなっちゃったんだよ。
このままだと店を潰さなきゃいけなくなるの……でもそんなことにはさせたくないんだ。
でも私には相談できる人もいなかったから、こうしてあなた達に話してるの。お願いだからメルシーハウスの復活に協力して欲しいな。
───
「なるほどね。そこそこいい感じだったお店が、急に新しい店の出現で客をごっそり取られて、それ以来客が戻って来ないってことだね」
「まぁ……そうですね」
すると片桐が急に「……あ!」と言ってこっちの方を向いてきた。
「どうしたクローバー?」
「やっぱりボクその店行ったことがあります!」
「へぇーそうなのか。じゃあ感想を言ってみてよ」
すると片桐は少し口をもごもごさせてから言った。
「あのなんて言ったらいいか……普通なんすよ。普通すぎて何か記憶に無い感じなんすよ。美味かったわけでも不味かったわけでもなくて普通……」
「……その感想は中々くるものがあるよ」
多分飯屋の感想で『普通』は一番使っちゃいけない言葉だと思うぞ。メルはあからさまに落ち込んでいる。
「とりあえずお客さんの増やす方法を思いつくだけ考えてみよう。思いついたら手を上げて」
思いつくだけ書き出してみる。これは会議とかでもよく使われる、様々なアイディアを出すことが出来る便利な手法だ。名前は忘れた。でもぜってぇカタカナ。
「はいっす!」
「クローバー」
「新しい料理屋を爆破するっす!」
「責任取れるんならいいんじゃない?」
「次!」
「はい」
「メルさん」
「安くなるクーポン券を配るのはどうかな?」
「なるほど、初回は確かに来やすくはなるね」
「はいっす!」
「クローバー」
「有名DJを呼ぶっす!」
「君クラブと勘違いしてない?」
「はい」
「メルさん」
「でも音楽も大切だと思うから、時間帯によって演奏するのはどうかな」
「ああーいいね。話題になりそうだ」
「はいっす!」
「次は……メルさん」
「ちょっとホムさん! ほらボクが上げてるっすよ! ひいきです!!」
片桐は俺に突っかかってくる。
「うるせぇ! こっちは真剣なんだよ! 大喜利大会じゃねーんだ!」
「……そ、そんなに言うならホムさんも案を出して下さいよ!」
俺が案を……そうだな……うん、これしかないな。
「美味しい料理を作る」
「「……」」
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