異世界便利屋ホームズさん!
──メルシーハウス──
店に入った瞬間、バァーンという爆発音に包まれた。
「んぎゃぁー!!」
反射的に叫ぶ。……が、どうやら撃たれた訳でもなさそうだ。俺はゆっくりと目を開いてみる……
そこにはパーティー帽子を被ったエミリオとメルが、クラッカーの様な物を握って立っている姿が見えた。
「な、なんだ?」
「「……せーの、ホームズ(さん!)! お誕生日おめでとう! 」」
「え、えっ、なに?」
俺は状況がよく理解出来ずにあたふたする。え、誕生日? 誰の? え、俺? そろそろとは思ってたけど今日だったのか……いや、待て待て。
「え、ちょっと待て。今日はクローバー奪還お祝いパーティーじゃないのかよ」
戸惑いながら俺がそう言うと
「それもあるけど、\バァン!/クローバーちゃんがホームズの誕生日だから\バァン!!/それも祝ってあげてって」
とメルがクラッカーを鳴らしながら言った。
「うるさいうるさい」
「面白い道具だねーこれ。クローバーちゃんが作ったやつなんだけどね」
片桐が作ったのか……まさかこの演出もあいつが計画したのか?
……とりあえず奥の方に入っていく。すると、マルクやクルト。リーノにミナトルが大きなテーブル席に座っていたのを発見した。
「わ、お前らも来てたのか」
「クックック。タダ飯が食えると聞いてな」
……俺はマルクを視界に入れないようにする。
「ホームズのお祝いに来たよ。おめでとう」
「祝い酒だ!お前も一緒に飲もうぜ!」
「めでたいな、ホームズ! 今日は宴だ!」
他の3人は笑顔で俺にそう言った。
「3人とも……ありがとう! 俺とっても嬉しいよ!」
俺は『俺の為』に来てくれた3人にお礼を言って、軽く握手をした。ああーなんて良い友なんだろう!
「……ほ、ホームズ? 我……我は? 」
「ん、あれ? さっきからなんか変な声聞こえない?」
「ねぇさっきの冗談だって!! ごめんって! ねぇ! ホームズ!!」
「はいはい……ありがとな。マルク」
「……クッ……クックック。わ、分かれば良いのだ……」
やっと素直になったので一応お礼を言っておいた。……まぁコイツいなかったら片桐助けれてないしな。1ミリくらい……いや、1ミクロンくらいは感謝している。
「まだまだゲストを呼んでますよ」
エミリオがそう言うと奥の扉から、占い師のチカ、花屋のフラワーさんが出てきた。
「やっほー久しぶり。私を呼べるなんて幸運だねー?」
「……ホームズ。……おめでと。……ふわぁあ」
いつも通り元気そうなチカと、眠たそうなフラワーさんが俺に近づいてきた。
きっと2人とも俺の為に、仕事の合間に来てくれたんだろう。忙しいだろうにありがたいね。
「2人ともありがとう! 」
俺がお礼を言ったところで、片桐が合図をしだした。
「よし、みんな揃ったっすね! それじゃあ料理を持って来てほしいっす!」
そう言うとメルとエミリオは返事をして、たくさんの料理を持ってきた。そしてテーブルいっぱいに料理を並べる。
「おお……すげぇな。全部メルが作ったのか?」
「ううん、私だけじゃないよ。エミリオやクローバーちゃんにも手伝ってもらったんだ」
「そうなのか」
……ん? 片桐いつの間に手伝ってたんだ? まさか俺が起きる前にここに来て準備をしていたのか? すげぇな。
「よし、それじゃあホムさん。乾杯の音頭を」
「……宴じゃあー!!」
───
「ふぅ、食った食った」
俺達は大量に並べられた料理をガツガツと食って、それはもう楽しい一時を過ごした。そして片桐が言う。
「そろそろ解散ですかねー……じゃあホムさん最後に何か一言言うっす」
「えっ、そんな急に言われても……」
「いいからこっち来るっす」
片桐に連れ出され、通路の中央に立たされる。そして全員の顔が一斉にこちらへと向く。
……大勢の人の前で話すのは苦手なんだよなぁ。しかも何も考えてないし……
「それじゃあホムさん、どうぞ」
「え、えっとお……」
一旦冷静になって、考えてみる。うん、やっぱり皆にお礼を言うべきだよな。感謝してもしきれない程のことをしてもらったんだ。
思ったことをありのまま声に出してみた。
「あの……本当に皆に感謝しているんだ。……変な場所でよくわかんない便利屋なんかやっている俺達に、優しくしてくれて……クローバーまで命を懸けてまで助けてくれたし……本当に……ゔぅっ……ほんどうに感謝してるんだ!!」
思わず涙声になる。
\ガンバレー!/
「そして、こんなパーティーまで開いてくれて……俺はとっても嬉しいよ!! 幸せ者だよ俺は!!」
感極まって声も大きくなる。
\オレモー!/
「本当にありがとうな!! そして……良かったらこれからも仲良くしてほしい!! 」
\イイゾー!/
さっきから野次うるせぇ!! どうせマルクだろ!!
「えー……えっと。以上です」
野次のせいでなんか締まらないなぁ……。
それでも皆パチパチと拍手をしてくれたのだった。
「ど、どうも」
「はい、それじゃあ最後に……ホムさんへのプレゼントがあるっす」
そう言うと片桐はお気に入りである四葉のクローバーの髪飾りを外して、俺に手渡してきた。
「はい! 時間がなかったからこれしか今は渡せないっすけど……貰ってください」
「え、おいおい。それはお前が大切にしている髪飾りだろ。俺なんかに渡しちゃ駄目だって」
俺がそう言うと、片桐は首を横に振った。
「ううん。大切にしてる物だからこそ、ホムさんに受け取ってほしいんすよ」
「いや、そうは言ってもだな……」
俺が渋っていると
「もー! いいから受け取るっす!拒否権は無いっすよ!」
無理やり髪飾りを俺の手に握らせた。
「ずーっと大事にしてくださいね? ホムさん!」
「……分かった」
俺がそう言うと、ピューピューという指笛の音が聞こえてきた。さっきからうるせぇぞマルク!! つまみ出すぞ!!!
───
「……エミリオ。……四葉のクローバーの花言葉……しってる?」
「知らないですけど」
「……『私の物になって』」
「……へ、へぇー」
「……ふふ」
「……これ実質プロポーズじゃないですか」
───
あれから1ヵ月程の時間が経った。俺達は相も変わらず便利屋ホームズを続けている。
ただ少し変わったことを挙げるとするならば……
「ホムさん! あなたが好きなのでデートに行きましょう! それは絶対っす!」
「なんか〇ーグル翻訳したみたいな文になってない? 大丈夫?」
片桐が素直になって、正直になんでも話してくれるようになったことだろうか。
あの事件以来、片桐は隠し事もしなくなった。だから勘違いしたり、察する必要も無くなったので以前よりもグンと仲良くなれた。
あと変わったことは……
「ホムさんは行きたくないんすかー? 本当はかわいい彼女とデート行きたいんでしょー? ねぇー」
「……」
……片桐が彼女になったことだろうか。片桐が彼女になったからといって特別何かが変わった訳ではないが……ただ慣れない。彼女というポジションに片桐がいることが慣れないのだ。
「いいから行きましょうよー」
「……そもそも何するんだよデートって」
「えーっと、買い物とかーメルちゃんの所遊び行ったりとか?」
「いつも通りのことじゃないか……」
買い物やメルシーハウスに行くのなんて何回もやってることじゃないか……それがデートになるのか?
「違うっすよー。2人がデートって思ったのなら、それはもうデートなんっすよ」
「そういうものなの?」
「そういうものっす」
そういう考えもあるんだ……
片桐が「それじゃあ早速……」と言った瞬間、外の扉からコンコンというノックの音が聞こえてきた。
「なっ! 依頼人っすか……!?」
「いや、こっちの方が大事だからね? 仕事だからね?」
片桐は露骨に嫌な顔をしだした。
「……うぅ」
「そんな顔すんなって……終わったらデート連れてってやるからさ」
そう言うと片桐はパァーっと明るくなって、目の色を変えて俺に飛びついてきた。
「え、ま、マジっすか!? ホムさん好きっす!! 大好き!」
「うんマジだから離れろ」
俺は片桐を振り払って、玄関に近づいて扉を開いた。そして大きな声で言う。
「ようこそ!便利屋ホームズへ!」
異世界便利屋ホームズさん! 道野クローバー @chinorudayo
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