空から紙が降ってくるぅ

 とは言ったものの……


「この世界でどの職で働くんだ? 探偵続けるのも無理があるし……俺戦ったりなんかしたくないぞ」

「ああ、それは分かってるっす。桜井さん運動神経くっそ悪いですもんね。力も無いし」

「……」


 俺は運動が大の苦手なのだ。跳び箱3段が限界、持久走で最後にゴールして感動シーンみたいになる、サッカーはパスは回ってこず、ドッチボールは避けるだけ。それが俺。



 一方片桐は運動神経抜群らしい。それにチート能力もあるなんてなぁ……おかしい。



「まぁボクは素手でドラゴン倒したことあるんっすけどね」

「イキるな。で、何か考えはあるのか?」

「はい、ありますよ。ボクらで便利屋やろうと思うんっすけどどうっすかね? 桜井さんの探偵である頭脳とか尾行とか活かせそうですし」


 なるほど。まあ考えてるんだな。悪くはないかもしれないが……


「いいかもしれないが、需要なんか無いんじゃないのか? 魔法なんかある世界でそんな仕事なんて」

「ああ、そんなことはないっす。便利屋……まぁ何でも屋みたいなのは必要なんですよ」

「何でだ?」



 片桐はじゃあちょっと説明しますねと言い、ホワイトボードを引っ張ってきた。


「おいおい、何でそんなもんあるんだ」

「作りました。魔法パワーっす」


 なんでもありかよ……片桐はそのボードにデフォルメされた人間の絵を描いていく。


「あのですね、この世界では色んな依頼……ギルドに寄せられるクエストってやつっすね。それをこなしてその賃金で生活している人が多いんっす。冒険者とかっすね。まぁこいつらっす」


 片桐はその人間にビシッと指を指す。


「ほう」

「モンスター討伐、納品依頼、配達や護衛なんかがあるんすけど、それらは報酬が高いんっすよ。だから皆こぞってそれらを受けて稼ごうとするんっす」


 片桐は討伐、納品、配達と書き足していってそれを囲み、人間と線で結んだ。


「それで?」

「問題は報酬の低いクエストと解決が難しいクエストっす。人探しや犯罪者を捕まえたりとか、奴隷を解放したりお金の問題とか……そんな誰もやらない仕事をボクらがビシビシ解決していくんですよどうですか! 手伝ってくれますよね!」


 彼女の顔はイキイキとしていた。


「いいじゃないか。人のためになりそうだ」

「流石サークライさん! 乗ってくれると思いましたよ!」


 勿論俺は賛成だ。人のためになるだろうし、俺ら2人の長所が活かせそうだったからだ。だけども1つ気になることがある。



「でも……どうやって客を集めるんだ?」

「えっ?」

「そんな急に始めたって客が来るわけないだろう。基本はギルドに依頼が来るのだろう? こっちに来るわけないじゃないか」

「なっ! た、確かに」


 片桐はそこまで頭が回っていなかったようだ。


 まぁ現代的に考えるのなら広告で注目を集めるしかないな。だがここは異世界。テレビCMも〇ouTubeも無いだろう。なら無難に張り紙とかだよな。


「じゃあ張り紙でもするか」


 すると片桐が急に立ち上がった。


「あ! いいこと思いついたっす! 空から宣伝の紙を撒き散らしましょう! 」

「……は?」

「ボク空飛べますから! そしてでっかい街の上から紙をまき散らすんですよ! これは話題になるっすよー!!」

「……意外とありかもしれない」


 全体に配ることができ、時間もかからない。更に空から紙が降ってくるというインパクト。話題には絶対になるだろう。


 一瞬何かの罪に問われるのでは? と考えたがあまりに気にしなかった。


「よし! じゃあ早速広告作りましょ! 善は急げっすよー!」

「材料とかあるのか?」

「もちろーんっすよ。じゃあボク作るので桜井さんはゆっくりしててください」

「分かった」


 片桐は紙を取り出しせっせと書き始めた。


 それじゃあ俺は言葉に甘えてゆっくりとするか。俺は外の空気を吸うために扉に手をかけた……





 目の前には大きな木があった。その横も木。横も木。木。木。何メートルもある大きな木が日を遮っているため、辺りは薄暗かった。


 おれは扉を閉めて振り返る。



「なぁ片桐」

「はいっす」

「どこここ?」

「だから異世界……」

「それは分かったから! もっと詳しく教えてよ」


「ここはキンスの森にボクが建てた家っす」

「キンスの森?」

「ルナティア王国とミルドタウンの間にある森っす。キンスの森は魔物がそこそこいるっすけどここは結界張ってあるので安心っすよ」


 いや、どこやねん。全く分からない。


 片桐は器用に手を動かしながら俺の質問に答える。


「よく分からないんだが」

「そーっすねぇ。地球的に言うとルナティア王国は東京、ミルドタウンは佐賀……って感じっすかね?」

「都会と田舎って感じか?」

「まぁそんな感じっすね」


 佐賀に謝れ。


「でもボクはほとんどミルドタウンにしか行かないっすよ。食料も安いし皆優しいんっすよー」

「そうなのか。王国の方は?」


 するとあからさまに片桐が嫌な顔をした。


「まぁそっちはデカいギルドもあるし飲食店も何でもあるんっすけど……物価は高いし好きじゃないっす」

「そうか。そういや食っていく金はあるのか?」

「ギルドにいた頃に稼いだお金があるっす。それで生きてるっす」


 なるほどな。


「あ、桜井さん完成したっす! とりあえず1000枚作ったんで早速行って来るっす!」

「早いな!」


 もう1000枚? 印刷魔法とかあるのか……?


「行きますよ! とりあえずルナティア王国とミルドタウンにぶちまけまてきますね!」

「あ、ああ。気をつけてな」

「いってきまーす!」


 片桐は紙束を持って外へ出て、大空へと飛んで行った。


「どういう原理で飛んでるんだよ」


 ……ん? そういやあいつどんな広告を作ったんだ? そう思った時一枚紙が落ちてきたので読んでみる事にした。



 ——————


 便利屋ホームズ!


 ギルドより安くて早くて安全! どんな依頼も大歓迎! 相談だけでもどうぞ!


 場所はキンスの森の真ん中らへん!

 料金はそんなにかかんない!


 お待ちしてます♡


 ーーーーーー


「……頭悪そうな広告だな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る