異世界便利屋ホームズさん!
道野クローバー
1年ぶりの再会
目を開くと知らない天井があった。家でもない、病院などでもない、見たことも無い天井だった。不思議な光が部屋を照らしているようだった。
どうやら俺は冷たい床で仰向けになっているらしい。おそるおそる起き上がる。
「ここは……何処なんだ?」
「あ、桜井さん! やっと気が付きましたか! もーゆすってもゆすっても起きなかったんっすからー」
すると背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は反射的に振り向く。
「……えっ」
「二ヒヒ、久しぶりっすね、桜井さん」
この時俺は非常に動揺していた。なぜなら1年前に死んだはずの片桐の姿がそこにあったからだ。
再び会えた喜び……より得体の知れない恐怖の方が勝っていた。だってなんか震えてるもん俺。ブルってるよ。
「桜井さん?」
「……」
もしかして頭がおかしくなったのか? いやいやそんなことはないはず……でもとりあえず自分のことを思い出してみる。
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俺の名は
探偵学校を卒業し、開業。俺は探偵になった。その時に1番最初に雇ったのがあの少女。
彼女は小さくて元気で好奇心旺盛で、まるで小学生みたいなやつだった。俺とは真反対の性格だったが、何故か仲が良かった。
そんな彼女だが、仕事はきっちりとこなす優秀な助手であった。だが……ある日事故で亡くなった事を知らされた。
俺は悲しんだ。もちろん葬式にも行った。死んだ姿も見たはずなのに……
---
「……どーしやした桜井さん? なんか顔色悪いっすよ? ポ〇リっぽいの買ってきましょうか」
「お前……片桐だよな?」
「ふふーヤダなー桜井さん、ボクの顔忘れたんっすか?」
そう言うと片桐は俺の肩を掴んで顔を近づけてきた。まじまじと見つめてみる。
小さな顔。ショートカットの茶髪。吸い込まれるような大きなブラウンの瞳。近所の子から貰ったといつも話していた四つ葉のクローバーの髪飾り。それに……
「んっ……ははっ! なに見つめてるんすかー! 恥ずかしいっすよー!」
それに高い声、独特な口癖、喋り方。どうみてもあの片桐だ。死んだはずの片桐が動いている。生きている。
そこで俺は1つの考えにたどり着いた。もしかしてここは天国なのではないのか? それなら片桐がここにいる理由も分かる。
おそるおそる尋ねてみる。
「……片桐、ここは死後の世界的な場所なのか?」
すると片桐は目を丸くして答えた。
「ふぇ? いや、違うっスよ。ここは地球とは異なる世界、いわゆる異世界ってやつっす」
???
……いやいやおかしいおかしい。異世界? そんなものあるわけ──いや待て。もはや常識なんて通じないんじゃないか? 死んだ人間が生きてるし喋ってる。なら片桐の言ってることも本当……かもしれない。でも疑問点も沢山ある。
「……仮にだよ? 仮にここが片桐の言う異世界だとするよ? じゃあ何で俺がここにいるんだ! 何で片桐はここにいる! 何故生きている!」
「おーおーそんないっぺんに答えられないっすよー落ち着いて下さいよ」
この状況で落ち着けと言う方が無理がある。
「じゃあ説明しますね。ボクは死んじゃってー異世界にとばされちゃったんですよ」
「……」
「それでー頑張って何とか生きてける感じになったんすけど、そうなると1人は寂しいなって思い始めるんすよね。だから桜井さんをこの世界に召喚したんっす」
……やっぱ訳が分からない。いや、分かってたまるか。なんだ……俺は頭がおかしくなったのか? 夢か? これは夢なのか? 明晰夢とか言うやつの類なのか?
「どしたんすかー桜井さん。そんな頭抱えて」
「片桐……これは夢なのか?」
「いや、違うっす。ほっぺたつねりましょうか?」
「ああ」
片桐は俺の頬をつまんで引っ張った。
「……いてぇな」
「桜井さんやっぱほっぺた伸びますねぇ。お餅みたいっす」
「……夢でもほっぺは伸びるし痛みは感じる」
「しぶといっすね」
うーん。にわかには信じがたいが……
「まぁそんなに信じないのなら魔法でも見せてあげますよ?」
「魔法? 片桐お前そんなつまらない冗談を言うようになったのか?」
「まぁまぁ見ててくださいよ」
すると片桐は手のひらをこちらに向けてきた。何だよ。まさかハンドパワーとか言うんじゃないだろうな。
「本当にいいんっすか? やりますよ?」
「おうおう。やれやれー」
「いきますよ? ブレイジング!」
すると片桐の手が光り輝き……
「 だあぁぁぁぁあああああっつ!!!!!!」
火の玉がすごい勢いで俺の顔目掛けて飛んできた。顔がとても熱い。焼けてない? これ。
「あぁああ!!!! あつい!!!ねぇ!!! あつい!!!」
「急に語彙力が下がったっすね……」
何も無い手のひらから確かに炎が出てきた。
「まぁこれで信じてくれましたよね。この世界には魔法があるんすよ」
「まじかよ」
まぁ見せられた以上信じざるを得ない訳で。
「でも何で魔法なんか使えるんだよ」
「それは……神様がくれたんすよ。なんかこの世界来る時に欲しいもの聞かれたんで、魔法使えるようになりたいって言ったんすよ。そしたらほぼ魔法は何で使えるようになったんす」
「何で?」
「いや、だから……」
「な ん で?」
まぁこの世界の人口減少? かなんかで地球で死んだ人を移動させるのは100万歩譲って分かるけども。何でチート能力をあげるのかなぁ……? 世界めちゃくちゃになるよ? 滅ぼしたいの?
「ま、まぁいーじゃないっすかー。ボクは私利私欲のために魔法使ったりなんかしませんよー」
「いや……まぁ当然の事だけどな? あと聞き忘れてたんだけど、何で俺をこっちに召喚したんだ?」
すると片桐が少し怯えてるような顔をした。
「あの……桜井さん。言っても怒んないっすか?」
「ああ」
「ほんとに理由は2つあるんっすけど……1つは寂しかったんすよ。この世界にきて友達もまぁ居なくはないんすけど……少ししか居なくて。ギルド入って魔法使ったりしても何だかつまんなくて」
俺はウンウンと頷きながら話を聞いてやった。
「それでもモンスター討伐なんかに誘ってくる人が居たんすけど……皆ボクじゃなくてボクの力を欲しがってたんすよ。金稼ぎの道具でした。ボクは」
「……そうか」
「それから全てが嫌になって街を飛び出しました。そしてここ森の中で住んでいるっす。そして辛いことを忘れる為に召喚魔法の練習をずっとしてたんです。そして今日、やっと成功したんっす! けど……けど……桜井さんは迷惑じゃなかったっすか?」
俺は黙ったまま片桐を見つめた。
「健康で当分は死なないであろう桜井さんを無理やりこっちに連れてきて……迷惑っすよね……本当にごめんなさい……」
泣きだしそうな片桐に俺は声をかけた。
「2つ目」
「え?」
「2つ目の理由は何だ?」
「……桜井さんとまた一緒に働きたかったんっす。でもこんな世界で働くなんてボクはともかく桜井さんは……」
それを聞けて安心した。俺だって片桐ともう一度働きたかったからだ。一番のベストパートナーだったんだから。
「ふっ……そうか。偶然にも俺は浮気調査や人探しのような普通の仕事には飽き飽きしてたとこだった」
「ほ、本当っすか?」
「ああ。こんな世界で働けるなんて面白そうじゃないか。やってやるぜ」
すると、片桐の顔がパァーっと明るくなった。
「はい!! やりましょう!! すごいの!!」
片桐の元気な声が部屋に反響したのだった。
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