家出する時はちゃんと計画を立てよう(5)

「だぁー! 負けたぁー!」

「悔しいっす!」


 試合終了。点数は1対15という結果に終わった。結果だけ見れば完敗だが、俺達が取った1点は全員の力で取った特別なものだった……と思う。


 試合で疲れて座り込んでいるクルトへ俺は話しかけた。


「クルト、どうだった? 楽しかったか?」

「……楽しかったよ」


 クルトは髪をボリボリ掻きながらそう呟いた。若干の照れはあるようだが、会った頃と比べたら随分素直になったものだ。


 片桐は相手チームの3人と話をしていたようだが、俺がこちらを見ていたことに気づいたらしく、手を筒状にして呼びかけてきた。


「ねぇー! ホムさん達! せっかく皆集まったんですし、もっと遊びませんか? 3人ともまだ遊べるみたいなのでー!」


 それを聞いて俺はクルトをチラッと見る。


「だってよ。どうするクルト?」

「……遊びたい」

「ふふ、そうか」


 俺は片桐に丸のジェスチャーをする。すると片桐は笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねてこっちへやって来た。


「やったー! まだまだ遊ぶっすよー!」

「でも何をするんだ?」

「ふっふっふー。海と言えばそう! 花火っすよ!」


 花火か……まぁいいかもしれないが……


「その花火はどこにあるんだよ」

「ここっす」


 片桐は自分の右腕をポンポンと叩く。……え? ……めっちゃ嫌な予感がするんだけど。


「まさか……」

「そうっす。……爆裂魔法っす!」

「いや駄目だって!!」


 もう名前から物騒だもん。絶対怪我するって。ていうかもうそれ花火じゃないし。


「大丈夫っすよー。怪我しても治せますし」

「でも……」


 俺が渋っていると、クルトが俺の裾を掴んできた。


「ホームズ。オレ、その花火ってのやりたい」

「えぇっ……マジ?」

「ほらクルト君もそう言ってるじゃないっすか!」


 うーん……まぁクルトを楽しませるために遊びに来たんだし……クルトがしたいって言うのならしてもいいかなぁ……


「分かったよ。でも危ないから線香花火程度にしとけよ?」

「分かったっすー」


 ───


「んっ第1回!! すごい花火打ち上げた人の勝ち大会開催するっす!!」

「おいちょっと待て」


 俺は片桐の首根っこを掴む。


「だぁー! ちょっとホムさん! 離してくださいー!!」

「さっきと言ってること違うじゃねーか!」

「いや……マルクさんがこのルールの方が面白いって言ったんすよー! 文句はマルクさんに言ってくださーい!」


 またアイツか。俺は片桐を離して、マルクの方へと詰め寄る。


「おいマルク」

「クックック、いいじゃないか。皆やる気マンマンだぞ?」


 マルクが指を指した方を向くと、メルとエミリオは準備体操をしていた。


「いやー! 久しぶりに思いっきり魔法出せるなんて楽しみです! ねぇメルさん!」

「そうだね。最近クソ客多くて……ストレス溜まってたんだよね。ふふっ……!」


 ……えぇ。本当にやる気満々だし。しかもメルに至っては相当ヤバい奴になってるし……


「クックック。ここで君が無理やり中止すれば……他の皆から反感を買うだろうなぁ」

「お前なぁ……」


 ……もう知らん。勝手に爆発しとけ。


「クローバー。やっぱりやっていいぞ」

「えっ、あ、はい。では気を取り直して……第1回! 爆発大会始めるっす!!」


 ……おい花火はどこにいった。


 ───


 放つ順番

 1エミリオ

 2マルク

 3クローバー

 4メル

 5クルト


「これが順番っす。申し訳ないっすけど、魔力のないホムさんは審査委員をやってもらうっす」

「いや、別にいいけどさ……」


 今更だが俺以外は皆爆裂魔法撃てるのか……? 急に全員が怖く見えてきたわ。


「よし、じゃあ早速始めましょう! まずはエミリオさん!」

「はい!」


 エミリオは返事をして、砂浜へと駆け出した。俺達は遠くから観察する。


「それではいきます!」

「どうぞー」


 エミリオは大きな深呼吸をした後、天に向けて魔法を放つ。


「『ブラストォ!!!』」


 その魔法は超スピードで天高く登っていき……最頂点で爆発した。


 辺りに轟音が響く。


「うわっ! すげぇエミリオ!」

「は、はは。こんなものです……よ……」


 エミリオは倒れそうになりながらフラフラな状態で戻って来る。


「おいおい大丈夫か? 倒れたら失格だぞ?」

「そのルール初めて聞きました……よ」


 ──


「次はマルクさんっす!」

「クックック、我の力見るがいい」


 マルクは砂浜へゆっくり歩いていき定位置に立つと、直ぐに魔法を放った。


「『Burst-out!!!』」


 そしてその魔弾は高く上がって……爆発した。


「デカイなおい!!」


 さっきのエミリオの爆発よりも数倍大きかった。煙がめっちゃ上がってる。


 そしてマルクはしてやった感を出しながらこちらへ戻って来た。


「マルクお前すごいじゃねぇか」

「クックック。もっと褒めても良いのだぞ」


 すると片桐が俺達に話しかけてくる。


「あの……マルクさん。禁止魔法は使っちゃ駄目っすよ……」

「え? どういうことだ?」

「ホムさんに説明するとっすね……危険な魔法は禁止魔法って言って使う事を禁じられてるんすよ。使うだけで処罰の対象なんっすよ」

「ってことは……」


 俺達はマルクを見る。するとマルクは


「し、知らんな……そんなことは……」


 とあさっての方向を向いてしらを切っていた。


「……はい失格」

「……クックック。それもまた一興……」

「お前本当に捕まっとけや」


 ───


「次はボクっすー!」


 片桐はスキップしながら定位置につく。そして両手の人差し指を天に掲げ……


「いくっすよー! バーン! バーン! バーーン!!」


 魔弾を何回か放った。そしてその魔弾は上空でテンポ良くバンバンと爆発するのだった。


「おおー。でもクローバーにしては普通だな」


 俺がそう言うと、隣で見ていたエミリオが「なっ、何言ってるんですか!!」と言って俺の肩を掴んできた。


「え?」

「連続で爆発魔法使うなんて……常識人には絶対無理ですよ! しかも無詠唱で……やっぱり何者ですかあの人!!」


 なんかエミリオはめちゃくちゃ驚いてる。


「ふーん……それすごいの?」

「すごいってレベルじゃないですよ……」


 やっぱ片桐すげぇんだなぁ……と思ってると、いつの間にか片桐は俺のところへ戻って来てた。


「どうだったっすか? ホムさん!」

「まぁ……よかったんじゃない?」

「やったー!」


 ───


「次は私だね」


 メルは砂浜の中央へ立ち、手を天に掲げる。そして息をすぅっと吸い込んで……


「……コーヒー頼んでおいてやっぱ要らないって言うんじゃねぇよクソがァ!! 喰らえ『エクスプロージョンッ!!!』」


 メルは思いっきり愚痴をこぼして魔法を放った。そしてドカーンと爆発する。


 そしてメルは倒れてしまった。


「おい大丈夫かメル!」


 俺達はメルへと駆け寄る。


「あはは……ちょっとやりすぎちゃった……力がでないよ」

「意識あってよかった……でも倒れたから失格な」

「えぇ……」

「とりあえずクローバー、運んでやってくれ」

「分かったっすー」


 片桐はひょいっとメルを持ち上げて、運んでやった。


 ───


「最後はクルト君っすねー魔法の使い方分かるっすか?」

「……分からない」

「教えてあげますよ! これをこーしてこうするんすよねー」


 片桐はクルトに爆裂魔法の使い方を教えている。……そんなの教えていいのか……?


「よし、そうです! 後は『ブラスト』と唱えてください! そしたら出るはずっす!」

「分かった」


 クルトは定位置へとついて……片桐に教えてもらった動きをして、魔法を唱えた。


「『ブラスト!』」


 その魔弾は高く上がって……爆発した。


「はぁ!? デカすぎるだろ!!!」


 その爆発大きさはさっきのマルクと何ら変わらなかった……いや、もしかしてマルクのよりも大きい……?


「お、おいクローバー。お前何を教えた……?」

「い、今のは『ファイナルブラスト』じゃないっす……一番簡単な爆裂魔法の『ブラスト』っす……」

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