家出する時はちゃんと計画を立てよう(6)

 なに今のは〇ラゾーマではない、〇ラだみたいなこと言ってんだ……


 片桐は戸惑いながらクルトに話しかける。


「ク、クルト君。魔法使ってから体調悪くなったりとかしてないっすか?」

「いや、別に大丈夫」

「そ、そうっすか……もしかしてクルト君はとんでもない魔力を持っているのかもしれないっすね」


 とんでもない魔力……片桐にそんな事を言わせるなんて相当なんだろうな。


 それらを見ていたマルクが高笑いした。


「クックック! 貴様魔法の才能があるな!……どうだ。我と組んで大怪盗を目指さないか?」

「えっ……いやぁ……」


 クルトは露骨に嫌がってるので、俺が割って入る。


「おいてめぇ。クルトを怪しい犯罪グループに巻き込むな」

「クックック。怪盗は怪しくはない……それに我はグループではなくソロだ」

「んなもん知らんわ!! 次誘ったら殴るかんな!」


 ……と俺とマルクがやり合ってると、エミリオとメルが


「ふふ、何だかホームズさん、クルト君のお父さんみたいですね」

「ははっ、確かにねー。それならお母さんはクローバーちゃんかなー?」


 と笑いながら俺達に言ったのだった。


 ……はぁー?


「なに言ってんだ。俺はまだお父さんって歳でもないし……そもそもなんでクローバーが母なんだよ」

「だって、ホームズの相手なんてクローバーちゃんしか居ないじゃん。……ねぇ?」


 いや、ねぇ? と言われても……まぁ片桐はこれまでの人生で一番会話した女(母は除いて)だとは思うけどさ……なんか納得いかねぇ。


 チラッと片桐の方を向いてみると……リンゴのような真っ赤な顔をして俯いていた。……ん?


 はは……まさかな。ははっ。


 メルはいたずらっぽく笑いながら、片桐の肩を掴む。


「ねぇ? クローバーちゃん!」

「ふへっ!? ななな何がっすか!? 」


 ……まさかね。とりあえず片桐が困ってそうなので、助け舟を出した。


「おいおいメル、何の話してんだよ。もう全員終わったから結果発表するぞ」

「っそうっすよ!!! 結果発表するっすよ!!」


 で、花火……じゃない、爆発大会の結果発表だが……皆の予想通りの結果だ。


「発表するぞ。じゃあまず3位……エミリオ!」

「はい!」

「はい次2位、クローバー」

「はいっす!」

「そして1位、クルト」

「……え、オレか!?」


 いやお前しかおらんだろ。


「おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでとうっす!」


 皆はクルトを祝福し、ぱちぱちと拍手をする。


「おめでとうクルト。優勝賞品も何も無くてごめんな」

「いや……別にいいけど」


 すると片桐が提案してきた。


「なんか商品あげたらどうっすか!」

「んな事言ったってよ……」


 今手持ちには何も無いし……あげる物なんてないぞ。……あ、そうだ。


「そうだクローバー。クルトを撫でてやってくれ」


 しょぼい商品だが、クルトならきっと喜ぶだろう。


「え? そんなんでいいならやるっすよ!」


 そう言って片桐はクルトの頭をわしゃわしゃ撫でだした。


「やめっ……やめろよ……」

「んふふー恥ずかしがらなくていいんすからー」


 ……クルトが幸せそうな顔をしていたのを俺は見逃さなかった。


 ───


 さて、もう日も落ちて薄暗くなってきた。


「クローバー、そろそろ帰ろうか」

「分かったっす! ……あ、そっか。ボクが皆を運ばないといけないんすね『テレポート!』」


 そう魔法を唱えるが、反応はない。


「おいどうしたクローバー?」

「……あ、さっき爆裂魔法使いまくったせいで魔力が足りないみたいっす」

「はぁあああ!?」


 おいおいここで1泊なんて冗談じゃないぞ。


「いやそれは困るぞ!!」

「いや、寝たらすぐ溜まると思うんすけど……」

「どのくらい?」

「10時間程で……」

「長い!!」


 長いよ!


 すると片桐が、「あ、そうだ」と言って手をポンと叩いた。


「クルト君なら……テレポート使えるかもしれないっすね」

「ええ、マジ?」

「やるだけやらせてみましょう」


 すると片桐は早速クルトに魔法の指導をし始めた。


「いいっすか? まずさっきまでいた便利屋をイメージするんす」

「イメージ……?」

「出来るだけ鮮明に思い出して……そして魔力を解き放つんすよ!」

「……分かった」


 分かったのかよ。俺は全く分かんなかったぞ。


 クルトは目を閉じて集中している。イメージをしているのだろう。そして……数十秒経った後、『テレポート!』と叫んだ。


 失敗か……と思った次の瞬間辺りの風景は徐々に変化していき……いつもの便利屋の景色へと戻っていた。


 そして、6人全員がその場にはいた。


「おお!! すげぇなクルト! まさか成功するなんて!」


 俺は頭を撫でながらクルトを褒めた。


「すごいですね!」

「フッ……流石だ」

「おおーやるねぇー」


 マルクやエミリオやメルも褒めているが……口を開けてポカーンとしている人が一名。


「おいクローバー。お前も褒めてやれよ」

「……ななな何者っすかあの子は」

「自分で教えた癖にビビってんじゃねーよ」


 ───


 そして数十分後。エミリオ、メル、マルクは帰っていって、ここにはもう俺達しかいない。


 そして今片桐は夕食を作ってるため、ここは今二人きりだ。俺はクルトに話しかける。



「クルト、楽しかったか?」

「うん。とっても」

「そうか良かった」


「……なぁクルト。これからお前はどうしたい?」

「……」


 俺はタイミングを見計らって、クルトにそう尋ねた。これからどうするかは、早いうちに決めておきたかったからだ。


「お前がずっとここに居たいっていうのなら、俺らは歓迎するけどさ……本当にそれでいいのか?」

「……」

「親も多分心配している。じゃなきゃ捜索願いなんか出さないだろうしな」

「……」


 クルトは黙って俯いている。きっとどうするかなんてまだ考えていないのだろう。


「ご飯できましたよー!」


 と、急に後ろから元気な片桐の声が聞こえてくる。


「とりあえずこの話は明日するか」

「……うん」


 そして俺達は夕食をとった。そして夕食後……



「あ、そうだクルト。クローバーんとこで寝たら?」

「は?」

「だって寝る場所ないし。俺と寝るくらいならクローバーと寝た方がいいもんな」

「え、えぇ?」

「ボクは全然大丈夫、ウェルカムっすよー」

「ほら、クローバーも言ってるし」

「……分かったよ」


 そんな会話をして、眠りについたのだった。


 ──次の日──


 朝食中にクルトが話しかけてきた。


「なぁ、ホームズ」

「ん、どうした?」

「──オレ。家に帰るよ」

「……そうか」


 意外だった。どちらの選択を選ぶにしろ、もう少し時間がかかると思ってたからだ。


 クルトは続けて言う。


「だから……ホームズ、世話になった。感謝するよ」

「……ちげーだろ。そんな作ったような言葉じゃなくてさ、本音を言ってくれよ」


 俺がそう言うと、クルトは鼻声になりながらまたお礼を言うのだった。


「……ホ、ホームズッ。あ、遊んでくれてありがとう!!! たのじかっだよ!!」

「ああ、こちらこそ。とっても楽しかったよ」


 俺はクルトとがっちりと握手をした。


 ──


「本当にいいんすか? ボク送りますよ?」

「大丈夫だよ。ちゃんと帰れるって」


 そう言ってクルトは出ていった。


「また遊びに来てくださいねー!」

「また来いよな!」


 俺達はそう叫んで手を振ると、クルトは笑顔で手を振り返してくれた。


 そして便利屋へと戻り……クルトの後ろ姿を窓から覗きながら、俺は片桐に問いかける。


「なぁ、クローバー。昨日寝てる時、クルトになんて言ったんだ?」

「ふふっ、そっすねぇ。『強くて勇気のある人が好き』って言いましたよ」

「なるほどなぁ」


 片桐はきっとクルトから好意を向けられていた事に気付いてたのだろうな。


「そして、ほっぺにチュッってしてあげましたよ?」

「うわぁー! 悪いなお前ー!! いたいけな少年に一生忘れられない最高の思い出作ってんじゃん!!」


 ──


 帰ってきた。……帰ってきてしまった。もう二度と戻らないと思っていた場所へ、1週間もしないうちに戻って来てしまった。


 うわぁ……嫌だなぁ。なんて言われるだろうか。殴られるかな。それとももっと酷いことをされるのだろうか。


 ああ……これまでに何回も見てきた家こんなにも恐ろしく見えてくるなんてな。ああ、逃げたい。こんなの見たくないし……また遠くに行きたい……


 もう駄目だ。と思った──瞬間に声が聞こえてきた。オレの初恋の人の声だ。


「ボクは強くて勇気のある人が好きっすよ」


 ──そうか。そうだよな。こんな所で逃げ出しちゃ、クローバーさんに……好きになってもらえない。


 オレは一歩下がった足を前に出した。そして逆の足も前へ。家に向かって前進した。


 そして扉の前に立つ。無駄に豪華で光っている取手に手をかけて……開いた。


「……ただいま」


 小さく呟く。すると案の定、母が飛んだように玄関にやって来た。瞳孔を開いて酷く驚いている様子だ。


 ……さぁ。何を言う。何をしてくる。オレは……もう逃げないぞ。


 ……さぁ、こいよ。こい。……こい!!


「……えっ」

「クルト……ごめんなさい」


 それは……予想してなかった反応だった。オレに謝りながら……抱きしめてきたのだ。


「お母さん……ずっとあなたに酷いことをしてたみたい。あなたが出て行くまで気が付かなかった」

「……」

「色んなこと強制して……本当にごめんなさい。これからはあなたの意見もちゃんと聞くから……だから……二度と出ていったりしないで……本当に心配してたんだから……」


 ……なんだよ。


 折角覚悟決めて戻ったのに。拳のひとつもないのかよ。こんなの……


「……分かった」


 許すしかないじゃん。


 ───


「……心配無さそうだな」

「そうみたいっすね! 良かったっす!」

「……しかし盗み聞きなんて趣味が悪いなクローバーさんよぉ」

「なにかあったらすぐにカチコミに行くためっすー」

「おお、こわいこわい」

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