クローバーの目覚め/クローバーちゃんの日記(3)
「……な、なんすかこの状況……?」
ボクは長い眠りから目を覚ました。そこに広がっていた光景とは。
窓から差し込む眩しい朝日。狭い部屋で、床でうつ伏せになっている桜井さん。そしてテーブルに置いてある謎の花束。
何だこれは……? ……とりあえず記憶思い出そう。
……えぇっと確かボクは……少年の親を探すために魔法を使って……それで倒れたんだ。そして気を失ったのでしょう。
そしてここは……宿屋ですかね。倒れたボクを桜井さんが運んでくれたのでしょう。悪いことしましたね。
……そして一番気になるのはこのお花ですよね。桜井さんに花を愛でる趣味があるなんて聞いた事ないんすけど。
ボクがお花を手に取ろうとすると、その下にメモ用紙が挟まっている事に気がついた。それを拾い上げて見てみる。
この丁寧な整った文字……桜井さんの字だ。ボクが間違えるはずがない。
ボクは小さく声に出して読む。
「クローバーへ。いつもありがとう。これは気持ちだ。受け取ってくれ。……へ? 」
その言葉を理解するのに数十秒かかった。寝起きで頭が回っていなかったからだろうか。
そして言葉を理解した瞬間、雷を打たれたような衝撃が身体中を駆け巡った。
……こ、ここここれって!!! プレゼントっすか!? ボクに!? あの桜井さんが!?
待って!!! はぁ!? 嬉しすぎるんだけど!!!
なんで!? ねぇなんで!?
考えていても仕方ない。ボクはたまらず床に寝っ転がっている桜井さんを揺すり起こした。
「んああ……おはようクローバー。目覚めたか?」
いつもの眠そうな桜井さんの寝起きの声だ。
「おはようございますホムさん、これ……なんっすか?」
ボクは花束を持って聞いてみる。桜井さんに心を悟られないようにいつも通りのトーンで話しかけた。
「あ、ああ。それは……いつものお礼というか……まぁプレゼントだよ」
「へ、へぇーホムさんがお花をくれるなんて珍しい事もあるんっすねぇ」
……今ニヤニヤを隠すのに必死である。平静を装っているが、内心は飛び上がるほど嬉しいのだ。叫び声上げたいのだ。
「な、何だよ。悪いかよ」
悪くない。全っ然悪くないよ桜井さん!!!
「あの……ありがとうございます、ホムさん!」
「あ、ああ。……良かった」
桜井さんは少し顔を赤くして、目を逸らしながら言う。
んぁあ!? 可愛いなぁもう!!
桜井さんは照れ隠しからか、話を変えてくる。
「……まぁその話はもういいだろ。クローバーも目覚めた事だし便利屋へ早く帰ろう」
「へへっ。……そっすね! そういえばホムさん、ボクが寝てる間に変なことしてませんでしたか?」
「……する訳無いだろ。行くぞ」
桜井さんは早足で部屋を出る。
「ああー待ってくださいよー」
ボクは大事にお花を抱えて、桜井さんの後ろ姿を追うのだった。
───
次の日。
──クローバーちゃんの日記──
いやぁ……ふふ。へへっ。あははっ。
思い出すと笑いが出ちゃうよ。
桜井さんからのプレゼント……貰っちゃった。へへ。かわいいお花。
いやーよかった。勇気を出して桜井さんを買い物に誘って良かった。よくやったボク。
……しかし何で桜井さんはボクにプレゼントなんかしたんでしょうか。お礼って言ってたけど……
ボクが魔法を使って倒れたからかな。あの責任感の強い桜井さんですし……せめてもの罪滅ぼしみたいな感じでプレゼントしたのでしょうか。
……なら、プレゼントはお花じゃなくても良いはずです。もっと安そうな食べ物とか……回復薬とかで良かったはずです。
なら……お花じゃなければいけない理由があったから……?
なんかヨーロッパでは男の人が花とカードを渡して求婚したりするとか聞いた事あるんすけど……まさかね。
……ナイナイ。ありえないよ。ちょっと考えすぎっすね。あの桜井さんですし、そんなオシャレなこと知ってるわけないですよ。
まぁただの気まぐれなんっすかねぇ。
それでも……それでもボクはとっても嬉しいのですよ。とってもとっても。
……そうだ。近いうち桜井さんの誕生日が来るはずです。その時にしっかりとお返しをしましょう。
何が喜ぶかなぁ。何だろう。わかんないな。
「プレゼントはボクっす!」とか言えばいいのかな。……そんなこと言ったら放り出されそうだ。
……もうこんな時間だ。妄想してると時間が経つの早いな。それじゃあそろそろ晩御飯の準備しますかね。
桜井さんが帰って来る頃には温かいご飯を用意しなきゃな。へへっ。
ボクの生活は貴方がいなきゃ何も始まらない。生きがいなんですよ。
料理の準備をする前に、桜井さんから貰ったお花の匂いを嗅いでみる。
……ふゃぁ。いい匂い。なんか安心するなぁ。
……ホントに桜井さんって人は。罪深い人っす。
「……これ以上。好きにさせないでくださいよ」
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