家出する時はちゃんと計画を立てよう(1)

 片桐は新聞を取っている。この世界では情報を入手する手段が新聞くらいしかないため、しぶしぶお金を払って取っているらしい。


 片桐はそのしぶしぶ取っている新聞を毎朝眺めるのが日課になっている。そして時々、気になった情報を俺に教えてくれるのだ。


「ねぇホムさんホムさん」


 片桐は新聞を片手に手招きしてくる。どうやら今日がその日らしい。


「なんだ?」

「これ見てください。事件になってるみたいっす」


 そう言って片桐は、記事を指差しながら新聞を渡してくる。


「何だ……? 『ルナティア王国に住んでいる少年、クルト君が行方不明。情報求む』か。心配だな」

「そうっすよね。まだ見つかってないみたいですし、ボクらで探しませんか?」


 片桐は心配そうな顔をしている。


 まぁ俺は断る理由もないのでその考えに賛成した。


「分かった。探そう」


 俺がそう言ったと同時にドンドンと乱暴にドアを叩く音が聞こえてきた。


「あー依頼人ですかね。どうするっすか?」

「そうだな……事件の方を優先しよう。悪いけどまた今度来てもらうように言ってくれないか?」

「分かったっす」


 そう言って片桐は扉を開いた。




 ──俺達の目に飛び込んできたのは汚れて傷だらけのボロボロの少年の姿であった。


「なっ……き、君は……? 大丈夫っすか!?」

「……つか……れた」


 そう言って少年は膝から崩れ落ちる。


「えっ……ええ!? ちょっと!! ホムさん!! どうしましょ!?」

「おちおち落ち着けクローバー。とりあえず治療魔法をかけるんだはやく」

「わわわ分かったっす。……『ヒール!』」


 片桐は回復魔法をかける。……しかし少年は起き上がる様子はない。


「……逝っちゃった?」

「何言ってんだおい! 息してるって!!」


 俺は脈に手を当てる……うん。ちゃんと動いてるって。ダイジョブダイジョブ。


「じゃあ……どうして起きないんすか」

「余程疲れていたんだろう。きっとすぐに目覚めるさ……多分」

「だといいんっすけど……」


 俺達は少年をわっせわっせと部屋へ運んで、布団に寝かせてやった。


 俺はこの少年を観察してみる。


「しかしこの少年……高そうな服を着ているな」

「そうっすね。ボロボロっすけど」


 黒スーツにネクタイ。スーツの傷が目立っているが、高級感のある服で子供らしからぬ格好だ。


「……あ、もしかして行方不明の少年ってこの子じゃないんすか?」

「うーん。……ありえる」


 その可能性は低いが、ありえない話でもない。


「うーん。とりあえず目覚めたらお話してみましょう」

「そうだな」



 ───


 数十分後。


「……ん。んん……」

「あ、ホムさん起きたっすよ!」

「おお、良かった」


 少年は起き上がってこちらの方をじっと向く。


「いやー心配したんすよ。どうしてボロボロだったんすか?」

「……」


 片桐の問いに少年は黙りこくる。


「……んーと、じゃあ何でここに来たんすか?」

「……」

「え、えっーと。名前は?」

「……」

「何歳っすか?」

「……」

「うーホムさん、話してくれませんよー」


 片桐は泣きそうな顔をしてこっちを向く。


 ……しかし見たところ少年は片桐を無視している訳ではなさそうだ。話したくないのだろう。


 なら心を開いてもらわないとな。心を開いてもらわないと情報を得ることは難しそうだ。


 ならかける言葉は……


「少年。とりあえず何者か教えてくれよ。別に誰かにチクッたりしないからさ。俺達を信用してくれ」


 敵だと思わせない事が大切だ。警戒されたらなんにも話してくれないからな。


 俺がそう言うと少年は重たい口を開きだした。


「……本当か?」

「ああ。ほんとほんと」

「……」


 少年はうつむいた後にこっちを向いて小さな声で話す。


「……オレは。……クルトだ」

「あ、やっぱり?」

「当たったっす」


 どうやらこの少年が行方不明の子だったらしい。まぁ片桐の質問に答えなかった時点でほぼ確信はしてたんだがな。


 そして少年は居心地の悪そうな顔をしている。自分の情報を知られていたという事に気づいたからだろうか。



「……」

「……そうか。家出してきたんだな」

「っ!? ど、どうして分かる!?」

「何で分かるんすか!」


 お前も聞いてくんのかい。


「いやまぁ説明するとだな……おぼっちゃまみたいな格好でこんな所来る? ってこと。 恐らく何かあって衝動的に出て行ってこんな所まで来たんだろう」

「……っ」

「それにクローバーの質問に答えなかった。本当に家に帰りたいのなら情報を言ってさっさ連れてってもらおうと考えるだろう。でも話さなかった。帰りたくないからだろう。……合ってる?」

「……」


 クルトは頷いた。


 まぁこんな雑な推理だったけど当たったみたいだ。


「ホムさんすごいっす! 探偵みたい!」









「……探偵だったんだよなぁ」

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