小さいものは大抵かわいいっす!(3)

 それから数日後。


「ふっふっんふーん! 今日は何して遊びましょうかーゆうと君?」

「ねぇ、まほうつかいのおねーちゃん」

「なぁに?」

「ぼくまだゆめからさめないの?」

「えっ……」


 ボクは衝撃で数秒間動けなかった。


 まさかそんなことを言われるとは……思っていなかった……育てる気満々だったのに……

 ママになるつもりだったのに……

 こんな日がいつまでも続くと思っていたのに……


「はやくママにあいたいよ! おともだちにも……」

「ゆ、ゆうと君? ボクと遊ぶのそんなに楽しくなかったっすか?」

「ううん。たのしかったよ! でもママにあいたいの!」


 ……そっかー。そりゃそっかー。ボクなんかより本物のママの方がいいもんね。


 悲しいけどもお別れしなくちゃいけないんすね。泣きそう。


「……わかったっす。夢から醒ましてあげますね」

「うん!ありがと!」

「……」


 ……戻し方わかんねぇ!!


 え、どうやって戻せばいいんだ?


 普通に考えて、小さく出来るのなら大きく出来るはずだ。


 若返り魔法があるのなら年取る魔法もあるはずだ! 魔導書を探しに行かなくては。


「ゆうと君ごめん、少しだけ待ってて!」

「わかったー」


 ミルドタウンへ……


「テレポートッ!!」


 ───


「おいちゃん! よく分からない魔導書あるっすか!?」

「おお君はこの間の……」


 ボクは前に魔導書を買った場所へとやって来た。


「なんかヤバそうなのあるっすか!?」

「や、ヤバそうなのって……ワシ魔導書読めないから……」

「あーもう! なら全部買うっす!!」

「え、全部?」


 ボクはお金を払う。


 そしておいちゃんが分厚い魔導書を10冊ほど持ってきた。


「持って帰れるの?」

「ああ、大丈夫っす」




「アポートッ!!! そしてテレポートッ!!!」

「……魔法使いって恐ろしいのぉ」



 ───


「た、ただいま……」


 流石に連続で魔法を使うのは疲れてしまう。


 でもゆうと君のためです。一つ一つ解読していきましょう。


 まぁ基本は表紙になんの魔法か書いてるので、試す必要はないと思うっすけどね。



 1冊目……表紙を見る。『曜日感覚をずらす魔法』


 ……なんすかこれ? 曜日感覚? これかけたら……えぇっ!? 明日土曜だと思ってたのに月曜日!? みたいなことに出来るんすかね。


 ……精神的に大ダメージ与えれそうっすね。


 2冊目……表紙を見る。『下半身を見えなくする魔法』


 ……何で下半身だけなんすか? 全部いけよ全部。


 まぁ透明になる魔法はボク使えますけど……下半身だけ隠したい時に必要なので覚えておくのもありですかね。


 ……いやどんな時だよ。


 3冊目……表紙を見る。『パスタ魔法』


 ……? パスタを作る魔法でしょうか? ならパスタを作る魔法と書くはずですが……もしかしてパスタ魔法っていう攻撃技……? 有り得る。だって最近の魔法イキった名前多いっすからね。……今度試してみよう。


 4冊目……表紙を見る。『魔道士クラリスが放った言葉に一同驚愕……衝撃の予言に涙が止まらない……』


 いやもうこれ魔導書じゃないでしょ……


 5冊目……ん? 表紙に何も書いていない。しかもボロボロだ。


 もしかして……これか?


 パラパラと開いて読んでみる。……それっぽい!! これだァ!!


「これだ!! ゆうと君こっち来て!」

「はーい」


 きっとこれだ。間違いない。これじゃなかったら怒るっすよ。


 ボクはゆうと君を座らせて詠唱の準備をし始めた。


 でも……その前にお別れの言葉でも言うっすか。


「……ゆうと君、短い間だったけどとっても楽しかったっすよ。大好きです」

「うん! ぼくもだいすきー!! バイバイ!」

「ふふっ……絶対忘れませんよ」

「ぼくもー!」


 ボクはぎゅっと抱きしめる。泣いちゃだめだ……泣いちゃだめだ……


「うぅ……そ、それじゃあ詠唱を開始するっすぅ……」


 泣きながらボクは詠唱をした。そして数十分後……


 部屋は光へと包まれたのだった。



 ───


「……っ。んっ……んん……」

「……おはようっすホムさん」


 何だか体がとても重たい……どうやら長いこと眠っていたようだ。俺はゆっくりと体を起こす。


「お、俺は? どうなっていた?」

「知らないっすー。なんかずーっと寝てましたよ?」

「えぇ!? 何で!? 起こしてよ!?」

「起きなかったんすよ」


 そんなことないだろ……ちゃんと起こせば誰だって起きるよ?


「じゃあ今日は何日だ?」

「星の月の50日っす。地球風に言うと2月の後半っすね」

「えっ。じゃあ俺5日くらい寝てたの!?」

「そうみたいっすね」

「いや、起こせよ!!!」


 だけれどそんなに寝ていたというのに腹が減っている訳でもない。……そういうものなのか?


「……あ、いけね! カードショップ行かなきゃ!! 今日大会じゃね!?」

「そうなんすか?」

「ああ」


 俺は今日がテーブルゲームの大会が今日あるということを思い出した。急いでカードをカバンに入れる。


「よし、行ってくる! おねーちゃん!」

「……」


 ……あ。……えっ? ま、間違えた……!!


 えっ……なんでなんでなんで俺片桐のことをおねーちゃんって……


 いや待ってぇ!! くっそ恥ずかしんだけど!!


 誰か俺を殺せぇ!! 土に埋めてぇ!!!


「……い、いや!! 違っ……違う!!」


 だが片桐は馬鹿にする訳でもなく、ただ俺の顔をじーっと見つめてきた。


 ……? 何だか目が潤んでいる様に見えた。


 そしてゆっくりと口を開いた。






「…………行ってらっしゃいっす。…………

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